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目障り

「……我が皇国の発展は諸君らの双肩にかかっていると言っても過言ではない。これからの君達の研鑽に期待する」


 入学式が始まり、教授、子息令嬢、来賓の貴族達が一斉に(こうべ)を垂れて皇帝陛下のお言葉を賜る。

 こうやって陛下のお声を聞いたのは初めてだけど、どこか懐かしさのようなものを感じたのは気のせいだろうか……。


 その後も、来賓による祝辞をいただく。

 もちろんその中には、大公殿下もいらっしゃった。


 はは……毎年のことで慣れているだろうけど、今年はメルザが新入生としているから緊張しているみたいだ。

 というか、後半からの内容がメルザのことで大半を占めているように感じるんだけど……。


「あうう……お爺様、恥ずかしい……」


 うん、気のせいじゃないみたいだ。

 そして大公殿下……屋敷に帰ったらメルザに叱られるんだろうなあ……。


「続いて、新入生答辞」

「はい」


 透き通るような声が講堂内に響き渡ると同時に、第二皇子が立ち上がって壇上へと向かう。

 まあ、この人選は当たり前だろうな。


「私はこの皇国の第二皇子ではあるが、この学院においては身分など関係ない。皆も気軽に声をかけてくれると嬉しい。もちろん、その際は“アーネスト”と呼び捨てで構わないとも」


 そう告げた瞬間、クスクスと笑う声と緊張により息を飲む音が半々で聞こえた。

 なお、僕達のA組では息を飲む音が圧倒的に占めていた。


 まあ、第二皇子の言葉など、所詮は社交辞令でしかないし、本当に呼び捨てなんてしたら絶対に後で処罰されるのは目に見えているからね。


 本音を言えば、こういった自分の好感度を上げようとするパフォーマンスは好きじゃない。


 すると。


「ふふ……やはりヒューと殿下では違いますね(・・・・・)


 クスリ、と笑いながら、メルザは熱を帯びた視線で僕を見つめる。

 もちろんこれは、メルザが第二皇子よりも僕のことを評価してくれていることの表れだ。


 というか、おそらくメルザは第二皇子の言葉の端々に、悪意(・・)()を感じているんだろうな。


「はは……僕はメルザに、真心以外で返せるものがないですからね……」

「ふふ……ですが、私にはそれが何より嬉しいんです……」


 結局僕達は、第二皇子の答辞もその後も一切無視し、手を繋ぎながら見つめ合っていた。


 ◇


「ここが僕達の教室ですね。ちなみに、座る席は自由……というか、早い者勝ちみたいになっています」


 入学式が無事終わり、新入生は自分達のクラスへと移動した。


「そうなんですね。本当に、ヒューがいてくれて助かります」

「あはは……」


 メルザに感謝され、僕は苦笑する。

 ま、まあ、これも替え玉として学院にいたから、というのがアレだけどね……。


「ところで……グレンヴィル家も侯爵家ですので、あの恥知らずな男(・・・・・・)も同じA組だと思ったのですが……」

「ああー……」


 確かに、通常のクラス分けであればルイスがA組にいてもおかしくない……いや、以前の人生では間違いなくA組に所属していた。


 それがこの中にいないということは、おそらく大公殿下が気を利かして調整してくださったのだろう。

 はは……普段は無骨な性格なのに、メルザに関することだけは細かいんだから。


「ふふ……お爺様も、ヒューが大切なのですね」

「え? 僕ですか?」

「はい」


 笑顔でそう言われ、僕は首を傾げる。

 いや、仮にそうだとしても、それはメルザが僕のことを大切に想ってくれているからなんだけどなあ……。


「……やはり、ヒューの意識改革をもっとしませんと(ポツリ)」

「? 何か言いましたか?」

「ふふ、いいえ」


 ウーン……はぐらかされてしまった。


 すると。


「みんな、席に着いているな」


 凛としたたたずまいの、ウェーブのかかった赤髪をポニーテールに纏めた綺麗な大人の女性が教室に入ってきた。

 確か、この方は……。


「私は君達の担任となった、“モニカ=ランチェスター”だ。主に剣術と皇国の歴史を教える」


 はは……やっぱり(・・・・)モニカ教授だ。


 僕がルイスの替え玉として授業を受けていた時、僕の独学で鍛えた我流剣術を、唯一人褒めてくださった女性(ひと)だ……って!?


 突然右の太ももに激痛が走り、僕は思わず顔を向けると……あ、メルザが頬をプクー、と膨らませている……。


「……ヒューは私以外の女性を見ないでください」

「はい……」


 うん……決してそういう意味で見ていたわけじゃないけど、メルザが嫌がるなら気をつけないとね……。


 それからA組の生徒による簡単に自己紹介を済ませ、学院初日が終了した。


「さあ、帰りましょうメルザ」

「ええ」


 帰り支度を済ませ、僕はメルザの手を取って席を立つと。


「……ヒュー」

「……うん」


 低い声で僕の名前を呼ぶメルザの視線の先を見ると……そこにはルイスがいた。

 案の定、アイツも入学してきたか……。


「やあ、兄さん」

「……僕とメルザに近づくな」


 教室の中に入って来て性懲りもなく声をかけてきたので、僕は凄んでみせた。

 だけど……大公殿下直伝のプレッシャーをかけているのに、なんでコイツは平気な顔をしていられるんだ……?


「せっかく一年振りに再会したんだ。旧交を温めるくらい構わないだろ? 俺達だってもう成人したんだし」

「オマエ……どの面下げてそんなことが言えるんだ? オマエが僕の(・・)メルザにしようとしたこと、忘れたのか?」

「ヒュー……こんな輩を相手にする必要はありません。お爺様も待っていますので、早く帰りましょう」


 僕の制服の袖を引き、メルザが促した。

 そうだな……どうせ一年もしないうちに、コイツは破滅するんだ。いちいち構っているほど暇じゃない、か。


「そうですね、行きましょうメルザ」

「ふふ……はい」

「あ、ちょっ!」


 呼び止めようとするルイスを無視し、僕達は教室を出て行く。


 そして、第二皇子がそんな僕達とルイスを交互に見つめていた。

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