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第二皇子

 僕の知る“アーネスト=フォン=サウザンクレイン”は、まさに皇子と呼ぶに相応しい振る舞いをする男だった。


 皇国の有力貴族家の一つ、“アーバスノット”伯爵家出身である第二皇妃との間に生まれたこの第二皇子は、常に温和で笑顔を絶やさない印象があった。

 もちろん、この学院内においても身分や階級に関係なく、分け隔てなく接し、傲慢で尊大な態度を見せることは一切なかった。


 なので、学院内……いや、皇国内において絶大な人気を誇っており、第一皇子と第二皇子とで、皇位継承をめぐって皇国が荒れたことがあった。


 まあ……その時は内乱寸前まで行って、僕も一回目の人生の時に暗殺者として第一皇子派のグレンヴィル侯爵に色々と働かされたっけ……。


 そういえば、二回目の人生で替え玉としてこの学院に通っていた時は、何故か僕……というかルイスを避けていたふしがあったけど、それも派閥が影響していたのかもしれないな。


「……サウザンクレインの星、アーネスト第二皇子殿下にご挨拶申し上げます」


 とはいえ、ここで第二皇子について詮索していても(らち)が明かないので、僕は臣下の礼を取り(こうべ)を垂れた。


「ええと……君は?」

「はい。グレンヴィル侯爵家の長男、“ヒューゴ=グレンヴィル”と申します」

「……そうか。グレンヴィル卿に男子がもう一人いるとは、初耳だな……」


 僕をまじまじと見ながら、第二皇子はそう呟いた。

 はは……侯爵家の後継者として社交界に顔を出していたルイスと違って、大公家に来るまで僕はあの家から出たことがなかったからね……。


「……ウッドストック大公家の、“メルトレーザ=オブ=ウッドストック”と申します」

「ハハ……元々親戚なのだから、そんなかしこまらなくてもいい。それよりも」


 第二皇子はいきなりカーテシーをするメルザの白い手を取り……つ!?


「「おやめください」」


 僕は彼女の手を握る第二皇子の腕を取り、メルザは手を振り払った。


「……これは、どういうことかな?」


 そんな僕達の態度が気に入らなかったのか、笑顔を絶やさない第二皇子にしては珍しく、眉根を寄せた。


「失礼しました……ですが、メルザは大切な僕の婚約者です。なので、軽々にそのような態度はお控えいただけますでしょうか」

「私からもお願いいたします。私は、夫となるヒュー以外の殿方が触れることを良しとしておりませんので」


 口調は丁寧ながら、僕達は威圧的に断りを入れる。


「なるほど……それは失礼した。今後は気をつけよう」


 そう言うと、第二皇子は表情を崩した。


「これから三年間、この学園で一緒に学ぶことになるのだ。よろしく頼む」


 第二皇子は(きびす)を返し、遠巻きに眺めていた二人の子息の元へと離れていった。


「ふう……危ないところだった……」


 全く……そういえば第二皇子は、結構な数の女性と浮名を流していたんだった……。

 これからは、特に警戒しておかないと。


「ふふ……ヒュー、助けてくださってありがとうございました」

「はは……助けたというよりも、これは僕がメルザを独り占めにしたいだけだから」

「もちろん分かってますよ?」


 メルザは嬉しそうにクスリ、と微笑むと、そっと肩を寄せてきた。


「ですが……あのアーネスト殿下と一緒にいらっしゃる二人……こちらを睨んでいて少々不快ですね」

「ああ……」


 あの二人は第二皇子の幼馴染……というか、将来の側近候補になる者達だ。


 一人は、近衛騎士団長の長男、“サイラス=マクレガン”。

 もう一人は、宰相の次男、“ジーン=グローバー”。


 確か一回目の人生の時に第二皇子派が秘密裏に集まっていた会合を襲撃した際、サイラスは第二皇子を必死で守っていたっけ。

 結局、僕の手によって命を落としたけど。


 ジーンに関しては、二回目の人生でやたらと替え玉の僕に嫌がらせをしていたなあ……。

 といっても、本来はルイスに対してだけど。


「あ……そういえば、ヒューは既に学院での生活を送った経験がおありなのでしたね」

「ええ……ですので、あの三人についてもよく覚えて(・・・・・)いますよ(・・・・)


 まあ、この七回目の人生では、前みたいな関係になることはないだろう。

 ただ……もし僕達の邪魔をするというのなら、その時は容赦しないけど。


「ヒュー、眉間にしわが寄っておりますよ?」

「あ……」


 苦笑しながら眉間を人差し指で押すメルザに、僕は頬を緩める。

 やっぱりメルザにはかなわないなあ……。


「第二皇子のせいで余計な時間を取られてしまいました。私達も早く入学式が行われる講堂へとまいりましょう」

「ええ……そうですね」


 メルザの手を取り、僕達は少し足早に講堂へと向かうと、到着した時には制服を着た子息令嬢のほとんどが来ており、あらかじめ分けられたクラスごとに並んでいた。


「私達の場所はどちらになるのでしょうか……」

「僕達はA組となりますので、あちらの列ですね」


 メルザの手を引き、僕達のクラスとなるA組の列にやって来ると。


「やあ」

「「…………………………」」


 第二皇子とその取り巻き二人が、A組の列にいた。

 まあ、基本的に皇族と高位貴族についてはA組で固められるのだから、当然こうなるんだけど。


「……これからどうぞよろしくお願いします」

「ああ、よろしく頼む」


 僕とメルザが渋々頭を下げると、第二皇子は微笑んだ。

お読みいただき、ありがとうございました!


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