見つけてくれた② ※メルトレーザ視点
「……グレンヴィル侯爵家が長男、“ヒューゴ=グレンヴィル”と申します」
振り返って拝見したその御方は、顔立ちは整ってはいたが少し童顔で、見た限りでは私と同い年か、ひょっとすれば私よりも年下かもしれない……そんな印象を受けた。
そんな彼に、私は早速噂のことを話すけど、彼は真剣な表情で噂を一蹴した。
だから……私はヴァンパイアの証である牙を見せた。
「ふふ……見えましたでしょう? 私の正体はヴァンパイア……といっても、人間とヴァンパイアの間に生まれた混血ですが」
そう言って、私はヴァンパイアらしく嗤った。
私は、彼に一切期待していない。どうせ彼だって、これまでの方達と同様、恐怖で顔を引きつらせて逃げ出すに違いないから。
なのに。
「……あなたの手で死を迎えるのなら、本望ですから」
彼は、微笑みながらそんなことを告げた。
暗がりの中で輝くその瞳に、生きる意志も、希望も、何も感じさせぬまま。
そして彼は、死と引き換えに望みを告げる。
――グレンヴィル侯爵家に……家族に、復讐すること。
私は、彼に尋ねた。
どうして、家族に復讐しようなどと考えたのか。
どうして、そんなに生きることを諦めているのか。
そんな彼が告げたのは、到底信じられない、六回の壮絶な人生の顛末だった。
この話が全部嘘だったら、どれだけ滑稽で救われただろうか。
でも……私には彼が本当のことを話していることが分かる。
だからこそ……私には、彼を受け入れてあげることしかできなかった。
すると……彼は顔を紅潮させ、ただ泣き続けた。
まるで、これまでの人生が報われたとでも言わんばかりに。
その後、落ち着きを取り戻した彼に謝罪した。
だって……私が余計なことを聞いてしまったばかりに、彼の心を傷つけてしまったのだから。
なのに、彼ときたらむしろ私を気遣って、私に聞いてもらえて良かっただなんて……。
私は、彼の復讐の手助けをすることを約束した。
だけどそれは、ヴァンパイアである私と彼が一緒になることを意味する。
ふふ……いくら復讐のためとはいえ、私みたいな怪物と一緒になりたいだなんて思うわけが……ありません、よね……。
そんな自嘲気味に笑いながら、あくまでも仮であることを告げると。
「ち、違うんです! ……僕は、僕の復讐のことは別にして、あなたと一緒になれることを心から嬉しく思っています。僕が気にしているのは、その、復讐のためにあなたを利用してしまっていることについてでして……」
「あなたは僕が出逢ってきた人の中で、一番綺麗な女性です……容姿が、それ以上に、あなたの心が」
そんなことを言って、私の心を揺さぶった。
でも……彼の言葉には一切嘘がなくて……。
お爺様と同じように、愛情だけが込められていて……。
さらにこの後、彼は驚くことを口にした。
「その……よければ、僕をあなたの眷属にしていただけませんでしょうか……?」
信じられなかった。
そんなことをしてしまったら、彼は人間をやめるということだ。
私は混血のヴァンパイアであるため、彼を眷属にするような力はないけど、でも……彼の瞳には覚悟が宿っていた。
だから私は、彼を脅した。
彼の首筋に、牙を突き立てるフリをしたのだ。
それでも彼は動じることなく。
「僕は……これで正真正銘、あなたと一緒になるのですね」
そんなことを、この私に告げたのです……っ!
この時の私がどれほど嬉しかったか、どれほど救われたか、彼……ヒューには分からないでしょうね……。
しかも、彼がくれたのはこれだけじゃなくて。
「これからは、血が欲しい時は僕の血だけを飲んでいただけないでしょうか」
ああ……! あなたは、こんな私のために血を……その身まで捧げてくださるのですか……!
お母様の日記に書いてあったヴァンパイアに関することで、特に印象に残っている言葉がある。
『ヴァンパイアは、番ができるとその相手からの血を得ることを至上の悦びとする』
ヒューの血を飲んだ時、私の心は歓喜に震えた。至福だった。
あの言葉の意味は、こういうことだったのだと理解した。
その副産物として、ヒューの過去六回の死に戻りが、何代前かの魔族の血によるものだということが分かった。
ただ、死に戻りなどという破格の能力を持っているということは、ヒューに流れる魔族のルーツは、相当な高位魔族であることは間違いない。
それこそ、お母様……真祖のヴァンパイアに匹敵するほどに。
でも……私には、そんなことはどうでもいい。
ただ彼が……ヒューが、私のところに来てくれた、それこそが、私にとって最大の幸せなのだから……。
◇
「……ふふ」
「? メルザ、どうしましたか?」
お爺様と稽古を終えたばかりのヒューを見つめながら思い出し笑いをしていると、彼は不思議そうに私の顔を覗き込んだ。
ふふ……本当に彼は愛しくて、素敵な御方です。
実際、彼のどうしようもない弟……ルイスと比べても天と地ほどの差があるほど、その……ヒューはかっこよくて……。
「ヒュー、私は幸せですよ?」
「はは、それは僕の台詞です。あなたと出逢ったことで、僕がどれほど幸せか分からないんですよ」
「そうですか?」
「ええ。それこそ、今の僕にとってはあれほど僕の心を焦がし続けた復讐の二文字が、あなたの存在で霞んでしまうほどに」
「あ……」
壮絶な人生を送ってきたヒューにとって、復讐というものがどれほど彼の心を占めているのか、この私はよく理解している。
でも……それよりも、私の存在があなたの中で大きくなっているのですね……!
「うわ!?」
「ヒュー……ヒュー……ッ!」
「メルザ……」
感極まって飛び込んだ私を、ヒューは優しく抱き留め、この黒髪を撫でてくれた。
ああ……ヒュー……。
あの暗がりの中で、息を潜めながら一生を終えると思っていた私に、光を照らしてくれたあなた。
渇き切っていた私の心に、潤いを与えてくれたあなた。
ヒュー。
私を見つけてくれて、ありがとう。
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