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見つけてくれた① ※メルトレーザ視点

 ――私は、生まれながらにして怪物(・・)だと知った。


 ウッドストック大公家の後継者である父、“ニコラス=オブ=ウッドストック”と母、“エルトレーザ=オブ=ウッドストック”の間に生まれた。


 でも、物心ついたころには父も母もおらず、私はお爺様に男手一つで育てられた。

 無骨な性格のお爺様のことです。私をこうやって大きく育てるのには、相当の苦労をなされてきたでしょう……。


 私はお爺様から愛情をたくさん注がれ、すくすくと成長した、

 それに伴い、私の歯も同じように少しずつ伸びてゆき、八重歯程度だったものが牙と呼べる長さになった。


 子ども心に、鏡に映った自分の牙が他のみんなと違うことに、それなりに感じるところがあったけど、その理由について知ったのは十歳の時。


 私はお爺様から、人間の父とヴァンパイアの母の血を引く、混血のヴァンパイアであることを告げられた。

 それと併せて、お母様が記した日記を手渡された。


 お爺様の話では、この日記は私が一歳の誕生日を迎えてすぐ、当時戦争中だったオルレアン王国への遠征で行方不明になってしまったお父様を探しに、お母様が捜索に向かう際に託されたものらしい。


 日記を受け取り、中身に目を通すと……それは日記とは名ばかりの、ヴァンパイアに関して記されたものだった。


 私は日記を熟読し、ヴァンパイアについての全てを知った。

 そして……これまでほんのちょっとの血を見ただけでも、自然と喉が鳴っていた理由を知った。


 私はヴァンパイアとして、血を欲しがっていたのだと。

 私は……人間の血を求める、怪物(・・)なのだと。


 大公家の使用人達は、元々お母様がいた頃から仕えている者達ばかりなので、私がヴァンパイアの混血であっても奇異な目で見る者はいなかった。


 だけど。


「ヒイイッ!? こ、この子はバケモノだああああっ!」


 お爺様……ウッドストック大公家の()である子爵家の者が屋敷を訪れ、私の牙を見て恐怖に顔を引きつらせながら叫んだ。


 当然、そのことを知ったお爺様はその者を処断した。

 私がヴァンパイアであることを知られないようにするためであることはもちろん、私をバケモノ(・・・・)扱いしたことに激昂して。


 でも……その者が言ったとおり、私はバケモノ(・・・・)だった。

 月に一度、領民から少しずつ血を買い、グラスに注がれたそれ(・・)を飲むことで喉の渇きを癒す……こんなもの、人の所業とは呼べない。


 さらに、人間の血を飲むようになってから、私の中に眠っていたヴァンパイアとしての能力が発現した。

 それは、人の感情……特に、悪意(・・)()が分かるようになった。


 お爺様であれば、私に向けられる愛情(・・)を感じられるのに、他の者からは悪意(・・)()ばかりを感じてしまう。

 おそらく、お爺様だけが肉親ということもあって特別で、本来は悪意(・・)()だけが分かるものなのだろう。


 この時の私は、そう思っていた。


 私が十二歳の誕生日を迎えたあたりから、お爺様は他の貴族との縁談を進めるようになってきた。

 貴族……特に皇室を除いて最も高い身分であるウッドストック大公家ならば、この年齢で婚約者選びをすること自体おかしくない。むしろ、動き出すのが遅いくらいかもしれない。


 そして、私の縁談相手として、伯爵家の三男の方と面会をすることになった。

 その方は、私よりも五歳年上で、来年皇立学院を卒業予定とのこと。

 卒業のタイミングに合わせ、私は婚約するという段取りだった……のですが。


「っ!? そ、その牙……ま、まさかっ!?」


 この時、未来の伴侶となる御方に隠すわけにはいかないと、私は自分が混血のヴァンパイアであることを明かし、その証拠となる牙を見せた際の反応がこれだった。

 その方は目を見開き、後ずさり、(きびす)を返して部屋から飛び出して行った。


 要は、私が怖かったのだ。

 怪物(・・)である、この私が。


 その後も、お爺様が用意した子爵家の三男も、男爵家の次男も、同じように私の前から逃げ出した。

 最初はサウザンクレイン皇国が誇るウッドストック大公家に婿入りするということで、悪意と打算に満ちた目で私を見ていたけど、結局は怪物(・・)の伴侶になることはそれ以上に無理だということだ。


 そんな連中をお爺様は全員処断し、その賠償をそれぞれの家に支払ったことに尾ひれがついて、私とウッドストック大公家によからぬ噂が飛び交う結果となった。


 ふふ……噂ではなく、ほとんど事実ですが……。


 こうなってしまっては、もはや私に縁談を申し込むような貴族家は一つもない。

 ですが……私はこれでよかったと思っていました。


 だって、これで私は悪意(・・)()を向けられることはない。

 もう……私は、傷つけられることはない。


 もちろん、大公家の孫娘がこのような年齢にもなって婚約すらしていないことは、世間的には問題があることも承知している。

 でも……私はもう、誰かに会うのが怖かった。


 このまま、私は一生を屋敷の暗い部屋の中で過ごせばいい。

 本気でそう考えていた。


 最初の縁談相手との面会から約一年後、お爺様が懲りもせずにまた縁談を持ってきた。

 結果なんて、目に見えているのに。


 ただ、この時のお爺様は少し違った。

 聞くところによれば、その縁談相手は例の噂を知った上で、私との婚約を望んでいるとのことだった。

 それに加え、お爺様自身もその御方を気に入ったらしい。


「メル……今回で最後じゃ。もし今回駄目(・・)じゃったら、もうこのようなことはせぬ……」


 あの無骨なお爺様が、泣きそうな表情で私にそう告げた、

 お爺様が、ご自身がいなくなった(・・・・・・)()のことを考え、私を守ってくれる殿方を(そば)に置きたいと考えていることも理解している。


 だから……私はそんなお爺様の頼みを断れなかった。


 それから一週間後。

 私の前に、一人の殿方がお見えになられた。


「……グレンヴィル侯爵家が長男、“ヒューゴ=グレンヴィル”と申します」


 それが……私とヒューとの出逢いだった。

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