変わり者の魔物
大変お待たせしました……!
また、本日から新作開始です!
「はい……僕は、エルトレーザさんに教えていただきたいのです。僕のこと……いえ、僕のこの時を操る能力について。そして、この能力を得る原因となった、遠い祖先のことについて」
義父上からエルトレーザさんへと視線を移し、僕は尋ねる。
六度の苦しみを味わい、七度目の人生を送ることとなった、呪いの原因を知るために……って、それは違うか。
だって、この能力がなければ、僕はメルザと出逢うことができなかったのだから。
「む……そうじゃのう……」
エルトレーザさんは小さな顎に手を当て、思案する。
その様子から、もちろん知ってはいるものの、口にするのを躊躇っているように見えた。
「エル」
「……今から三百年前、変わり者の魔族がいた」
義父上に促され、エルトレーザさんは重い口を開き、訥々と語り始めた。
――僕の祖先である、一人のしがない魔族について。
◇
そやつは黒い髪と黒い瞳を持つ、魔族にはよくある風体の男じゃった。
魔族にしては魔力も少ない奴で、その身体もひょろっとしておって腕っぷしもイマイチ。他の魔族からは『情けない男』だと、いつも馬鹿にされておったのう。
じゃが、あやつはいつもヘラヘラするばかりで、怒ることもなく頭ばかり掻いておった。
その姿に思うところもあった妾は、いつも言ってやったものじゃ。『馬鹿にされて悔しくないのか』とな。
あやつは魔力こそ低いが、その能力だけは他の魔族と比較しても破格じゃったし、魔族の長のようなものである妾が気にかけるのも当然といえば当然であるしな。
おお、そうじゃったな。
そやつの能力についてじゃが……既に分かっているとおり、貴様と同じ『時を操る能力』じゃ。
といっても、魔力もそれほどないので、できることといえばほんの数秒、時間を巻き戻すか止めることくらいしかできんがの。
じゃが……例えばこの妾が、それをすればどうなると思う?
そうじゃ。そのたった数秒で、全てを支配できる。
あやつが自分の能力を恥ずかしそうに妾に語った時、戦慄したものじゃよ。
ただ、惜しむらくは、あやつ自身が弱すぎたことじゃな。せめて普通の魔族くらいの身体能力があれば、この妾にすらも手が届くほどの魔族となれたのに。
まあ、そんなことを言ったところで、あやつはそんなものを求めてはおらぬし、それはそれでよかったのかもしれん。
そんなあやつの性根はその後も変わることなく、相変わらずへこへこして日々を過ごしておったのじゃが、今から百五十年前ほどのある日、突然、あやつが魔族の集落で見かけなくなる時があったんじゃ。
そもそも、魔族達から馬鹿にされておったあやつじゃから、気に留めるような奴は一人もおらなんだ。
この、私を除いてな。
こう言ってはなんだが、あやつが外に出てタチの悪い人間にでも遭遇すれば、下手をすれば殺されるじゃろう。
一応とはいえ、妾も魔族の長。下の者が死んでしまうのは忍びない。
ということで、部下にあやつの動向を監視させて、集落からいなくなる時に後をつけてやったのよ。
そうしたら、何が分かったと思う?
なんと、人間の女と逢引しておったのじゃ。
この時の妾は、人間なんぞとそのような真似をしておったあやつを軽蔑して……い、いや、今はそんなことは微塵も思っておらんぞ!? オラシオ、本当じゃ! 信じておくれ!
……コホン。とにかく、あやつは人間との逢瀬を重ねておったので、一度呼び出して説教してやった。『魔族と人間は相容れぬ。弱い貴様では、いいように殺されるだけじゃ』とな。
じゃが、性懲りもせずにあやつは人間の女のところへ足繁く通い、だらしない顔を晒しておったものよ。
結局、いくら言っても聞かないので、妾もこれ以上何かを言うのは諦め、逆にのろけ話に付き合わされる始末。
……まあ、それがきっかけで人間に興味を持って、オラシオと結ばれたわけじゃから、何とも言えんがの。
そして……人間の女は、あやつの子を宿した。
あやつは殊の外喜び、妾に毎日のように自慢しに来おったわ。
鬱陶しいと思いつつも、嬉しそうに話すあやつを見て何も言えなくなってしまったわい。
じゃが、あやつは人間の女と会えなくなった。
人間の女は政略結婚とやらで他の人間の男を迎え入れ、あやつとの間に生まれた子供は、その人間の男の子ということにされておったわ。
それでもあやつは、『彼女が幸せ』ならと、魔族のくせに泣きじゃくって何度も言い聞かせておったな。
すっかり笑わなくなってしまったあやつじゃったが、子供ができてから十四、五年経ったある日、とうとう我慢できなくなり人間の女とまだ見ぬ息子に逢いに行き、それ以来ここには帰ってきておらぬ。
――それが、人間の女を好きになった愚か者、“クロノ”という男じゃ。
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