義父母との再会
「……なんじゃ。妙な気配がすると思ったら、お主達か」
「「っ!?」」
突然背後に現れた気配とその独特の言葉遣いに、僕達は勢いよく振り返ると。
「フン」
ヴァンパイアの真祖であり、メルザの母君……エルトレーザ=オブ=ウッドストックが、腕組みしながら仏頂面で仁王立ちしていた。
「お、お久しぶりです……」
「このようなところまで性懲りもなくやって来おって、よほど死にたいと見える」
母君はニイ、と口の端を持ち上げ、その牙をまざまざと見せつける。
というか、少しは僕のことを認めていただけないかな……。
「もう! お母様! せっかく娘の私と婚約者のヒューが漆黒の森まではるばる来たのですから、もう少し歓迎してくださってもいいでしょう!」
「フン、何故歓迎してやらねばならんのじゃ。妾からすれば、この男は疫病神じゃ」
ひ、酷い言われようだなあ……。
「それで、何しに来た」
「は、はい。実は、僕のことを教えていただきたくて、義母上に……」
「っ! 妾を『義母上』などと抜かすか! 貴様を息子などと認めた覚えはないわ!」
「っ!?」
どうやら、この言葉は彼女の逆鱗に触れてしまったらしい。
義母上……いや、エルトレーザさんが烈火のごとく怒り出した。どうしよう。
「もう! もう! ヒューは私と結婚するのですから、『義母上』とお呼びするに決まっているでしょう!」
「何を言う! 妾はまだ、認めてなど……」
「……お父様に言いつけてやりますから」
「っ!?」
メルザのその一言は、エルトレーザさんを戦慄させるには充分だったようで、彼女は息を呑み、急に顔を青ざめさせた。
「ま、待て! オラシオは関係ないじゃろう!?」
「関係あります。お父様も、ヒューの義父になるのですから」
「うぐう……」
何とも情けない呻き声を上げ、エルトレーザさんがうつむく。
完全に、形勢が逆転したな……。
「と、とにかく、義父上にもご挨拶しないといけませんので、僕達を義母……エルトレーザさんの集落に案内してはいただけないでしょうか?」
とりあえず話を進めるため、そうお願いするけど。
「……嫌じゃ。オラシオに貴様等を会わせたら、妾が叱られる」
「「「…………………………」」」
……いくら見た目が子どもとはいえ、本当に子どもみたいなことを言い出すとは思いもよらなかった。
僕達だけでなく、子どもであるキキですら、彼女を白い目で見ているよ……。
「ハア……お母様がヒューの質問に答えてくださるなら、お父様に言いつけたりいたしませんから」
「! ほ、本当か!」
溜息混じりのメルザの一言で、エルトレーザさんは打って変わって表情を明るくした。
面倒な性格をしているものの、意外とチョロイのかもしれない。
「し、仕方ない……今回だけは特別じゃ」
「ありがとうございます!」
おそらく、彼女はこうやって下手に出たほうが喜びそうなので、僕は全力で媚びを売るように深々とお辞儀をした。
「う、うむ……まあ、貴様がそのような態度を見せるなら……」
ほらね。やっぱりチョロイ。
「キキはどうなさいますか? 隣の集落ということであれば、一緒に行きませんか?」
「うん! お姉ちゃんたちと行く!」
ということで。
――パチン。
「ここは……」
「決まっておる。妾達、魔族の集落じゃ」
エルトレーザさんが指を鳴らした瞬間、突然現れた魔法陣によって転移したのは、目的地である魔族の集落だった。
でも、いきなり僕達が現れたっていうのに、付近にいる魔族達は特に気にする様子がない。
おそらく、こういったことが日常茶飯事なのだろう。
すると。
「! メルじゃないか!」
「あ……お父様」
後ろから大声で叫ぶ男性……義父上が、満面の笑みで駆け寄ってきた。
「いやあ、遊びに来てくれて嬉しいよ! もちろん、ゆっくりしていくんだろう?」
「は、はあ……」
詰め寄る義父上に、戸惑うメルザ。
そもそも、父親に会ったのですら前回が初めてだというのに、メルザからすればどんな距離感で接すればいいのか迷うのは当然だ。
というか……メルザのご両親は、どちらも人付き合いが決して得意というわけではなさそう。
「それに……ヒューゴ君もよく来てくれたね! 歓迎するよ!」
「ありがとうございます」
嬉しそうに肩を叩く義父上に、僕は深々とお辞儀をする。
気に入られてメルザとの仲を認めていただくためなら、いくらでも猫を被るとも。
「……オラシオ。そやつなんぞに愛想を言ってやる必要はない」
「そんなことを言わない。まだ彼に負けたことを根に持っているのかい?」
「っ! わ、妾は負けてなどおらん!」
顔を真っ赤にし、むきになって怒り狂うエルトレーザさん。どうやら図星らしい。
「それで、敵であるオルレアン王国を突っ切って漆黒の森まで尋ねてきてくれたんだ。理由があるんだろう?」
さすがは義父上、話が早い。
義父上は『皇国一の参謀』との、大公殿下の言葉どおりだ。
「はい……僕は、エルトレーザさんに教えていただきたいのです。僕のこと……いえ、僕のこの時を操る能力について。そして、この能力を得る原因となった、遠い祖先のことについて」
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