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夜這い

「あれは……」

「ルイス……ですね……」


 屋敷の玄関で、周りの様子を(うかが)いながら、中へと入っていくルイスの姿があった。


 アイツ……グレンヴィル侯爵にあれほど釘を刺されたのに、まだこんな真似をするのか……。


「……とにかく、どのような行動をするのか後をつけてみましょう」

「ええ……」


 僕達はルイスの奴に気づかれないよう、慎重に尾行する。

 だけど、ルイスの動きはお粗末極まりなく、あれでは誰かに見つけてくれと言わんばかりの様子だった。


 そして。


「っ!? ル、ルイス様!?」


 案の定、屋敷の者……侍従のモリーに見つかった。


「っ! 馬鹿! 静かにしろ!」

「むぐっ!?」


 慌ててモリーの口を塞ぐルイス。

 というか、コイツは何をしたいんだ……。


「……いいか、よく聞け。オマエはこの俺を見なかった。いいな?」

「……(コクコク)」


 有無を言わせないとばかりに低い声で告げられ、モリーは何度も頷いた。

 でも……モリーは口の端を(わず)かに持ち上げている。このことが、後々モリーにとって有利になると判断したんだろう。

 ひょっとしたら、横領の件についてルイスにフォローしてもらおうとでも考えているのかもしれないな。


「よし……行っていいぞ」

「し、失礼します……」


 解放されたモリーは、ほくそ笑みながらそそくさとその場を立ち去った。


「ふう……危ない……」


 汗を(ぬぐ)う仕草をすると、ルイスは気を取り直して階段を上っていく。

 僕達も同じく階段を上がるが……三階まで来た、ということは……。


「……私の部屋に来た、ということでしょうか……」


 メルザが苦虫を噛み潰したような表情で呟く。

 ハア……これじゃ、夜這いをしているのと一緒じゃないか……。


 そして、僕の部屋から一番遠い部屋の扉に手を掛け、中に入っていった。

 そういえば、ルイスはメルザの部屋をその部屋にするように、エレンに指示をしていたんだったな……。


 メルザの部屋じゃないと分かったからか、ルイスはすぐに出てきて、今度は僕の部屋のあるほうへと歩いて行く。


 その時。


「……ルイス様、このようなところで何をしていらっしゃるのですか?」

「っ!?」


 低い声で尋ねる一人のメイド。

 それは……エレンだった。


「……エレン。どうして指示どおり、メルトレーザの部屋をあの男から一番遠い部屋にしていないんだ?」


 まるで、メルザがいなかったのはオマエのせいだとでも言わんばかりに、ルイスはエレンに詰め寄る。

 自分が夜這いをしに来たことは棚に置いて。


「ルイス様、あなたはお館様からこの離れに近づかないよう、指示をされたはずですが?」

「聞いているのは俺だろう! サッサと答えろ!」


 わざわざ忍び込んでいるのに、既に二人に見つかった上に大声を出すなんて、コイツは本当に何がしたいんだろうか……。


「……ヒュー。こんなことをあなたに言うのは大変心苦しいのですが……彼は、根本的に足らないのではないかと……」


 少し憐憫(れんびん)(たた)えながら、メルザがおずおずとそう話す。

 うん……何が足らないかを言わない時点で、メルザの優しさを感じる……。


「ハア……」


 盛大に溜息を吐いたかと思うと、エレンはス、と廊下の先を指差した。

 そこは僕の部屋の隣……つまり、メルザの部屋だ。


「チッ……最初からそうしていればいいんだ」

「…………………………」


 舌打ちをしてメルザの部屋を目指すルイスの背中を忌々し気に(にら)みつけながら、エレンもその場から立ち去った。


「……二人共、本当に最低だな」

「……ええ」


 僕達はルイスがメルザの部屋へと忍び込んだのを見届け、その扉の前に立って呟いた。


 すると。


 ――メキ。


「え……?」


 あまりのことに、僕は呆けた声を漏らした。

 だって……メルザが扉のノブを握った瞬間、完全に潰してしまったのだから。


「ふふ……明日の朝、そこで無様に醜態をさらすのですね」


 恐ろしく低い声で(わら)いながら、メルザは扉を見つめている。


「そ、その……メルザ……?」

「あ……こ、これはその……」


 この時になって、僕が隣にいることに思い至ったようで、彼女は握り潰された扉のノブを隠すように立ち、手をわたわたとさせた。

 そんな焦った表情や仕草、その全部がとても愛おしく思えて。


「プ……あはははは!」

「……ヒ、ヒュー、その……」

「ああ、すいません。やっぱり僕の婚約者は、可愛らしい方だなあ、と」

「あう!? そそ、そんなこと! ……もう」


 僕のそんな言葉で余計に恥ずかしくなってしまったのか、メルザは口を尖らせてプイ、と顔を背けてしまった。

 もちろん、そんな姿も可愛くて仕方ないんだけど。


「とりあえず、これでは今夜はこの部屋で寝ることができませんので、そ、その……僕の部屋で、一緒に……」

「あ……ふふ、ぜひ」


 僕は熱くなった顔を気づかれないように少し顔を逸らして手を伸ばすと、メルザが自分の手を僕の手に添えて一緒に僕の部屋に来た。

 なお、メルザの部屋からは激しく扉を叩く音が聞こえるけど、当然無視だ。


 そして、僕達は一緒にベッドの中に入ると。


「そ、その……メルザ、おやすみなさい」

「え、ええ……おやすみなさい、ヒュー」


 僕達はお互いの手を握りながら、この日は眠りについた。

お読みいただき、ありがとうございました!


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