漆黒の森
「んう……」
寝苦しさを覚え、僕は、目を覚ます。
部屋がまだ暗いところを見ると、まだ深夜のようだ。。
そして。
「すう……すう……」
僕の腕枕で、メルザが寝息を立てている。
つい数時間前は、僕はこの美しいメルザと一つになった、んだよな……。
そう考えると、僕の胸がまた高鳴る。
肌に触れるメルザの温もりと、絹のような肌触りが、さらに心を掻き立てた。
「メルザ……」
顔にかかる艶やかな黒髪をすき、僕はその頬に口づけを落とすと。
「ふふ……」
「あ……起こしてしまいましたか……」
メルザが目を覚まし、真紅の瞳で僕を見つめながら微笑んだ。
「ヒュー……私、とても幸せです……」
「僕もです……あなたの全てを感じることができて、まるで夢のようです……」
本当に、あれは全て夢だったのかもしれないと思うほど、メルザは心地良くて、全て包まれるようで……」
「ね……ヒュー……」
「あ……」
メルザが掛かっているシーツをどけて僕の上に覆いかぶさり、その美しい裸体が露わになる。
僕は……。
「メルザ……メルザ……ッ」
「ふふ……ん……あん……」
やはり僕は自分の理性を押さえることができず、また彼女を貪るように求めた。
◇
「う、うう……ヒュー……もう少しゆっくり……」
「す、すいません……」
御者席に座るメルザが、馬車が揺れるたびにつらそうに眉根を寄せる。
これに関しては明らかに僕のせいなので、ただ平謝りするしかない。
「な、なんでしたら、後ろで横になっていますか?」
「っ! 嫌です! 私はヒューの隣がいいんです!」
僕は心配して休むように告げるが、メルザは僕の腕にしがみつて断固拒否の姿勢を取った。
昨夜、初めての夜を共にしたことで、メルザはこれまで以上に甘えるようになった。
もちろん僕も、これまで以上にメルザが愛おしくて仕方がない。
あはは……まさかここまで求めてしまうようになるなんて、僕自身びっくりだ。
「そ、それで、“漆黒の森”にはあとどれくらいかかりそうですか?」
「昨日の聞き込みでは、セルジュの街から三時間ほどだと言っていましたので、あと二時間はかかるかと……」
「に、二時間ですか……」
そう聞いた瞬間、メルザは腰を押さえながら肩を落とす。
「あ、あははー……誰も漆黒の森に行こうとする者はいませんので、人もいないですし、その……飲みます?」
僕は罪悪感とつらそうなメルザを見ていられなくなり、そんな提案をしてみた。
「! い、いいんですか!」
「はい。せめてもの、その……罪滅ぼしに……って!?」
話し終わる前にメルザが僕の首に勢いよく飛びつくと。
――かぷ。
「ん……んく、んく、んく……っ」
いつもよりもたくさん血を飲むメルザ。
腰の痛みから、せめて癒しを求めているんだと思うけど、それにしてもペースが速いなあ……。
「ぷあ……っ! はああ……!」
ようやく牙を抜き、頬を紅潮させて蕩けるような微笑みを見せるメルザ。
漏れる吐息も、まるで僕を誘うかのように色香を漂わせていた。
「ふふ、いけませんね……どうやら愛する人の全てを受け入れてしまうと、どうしようもなく求めてしまうようです……」
「そ、そうなのですか?」
「はい……漆黒の森に到着したら、お母様に聞いてみませんと」
う、うわあ……そんな話をメルザの母君に話したら、僕の命は尽きてしまうかも……。
そして僕達は、途中で何度か休憩を挟みながら、予定より一時間遅れで漆黒の森に到着した……んだけど。
「……まさか、生い茂る木々までもが文字通り漆黒だとは思いませんでしたね」
「はい……」
森の入口に馬車を停め、僕とメルザは森を見て立ち尽くす。
木々や葉の色が黒いという点以外は、基本的に普通の森と変わらない……とは思うけど、それでも、その異様な雰囲気に足を踏み入れることを躊躇してしまう。
「どうしてお父様とお母様は、このような場所に住んでおられるのでしょうか……」
「さ、さあ……」
とはいえ、魔族が棲んでいると言われると妙な納得感があることも事実。
むしろ、普通に街に魔族がいたら、それはそれで違和感を覚えていると思う。
「と、とにかく、覚悟を決めて森の中へ入りましょう」
「は、はい」
僕はメルザの手を取り、森の中を進む。
すると。
「「っ!?」」
「「「「「キキ……」」」」」
早速、この森にいる魔物が現れた。
しかも、よりによってゴブリンの群れか……。
ゴブリンは人間よりも小さく非力ではあるものの、集団で襲いかかり、しかも残忍な性格をしていて、決して侮っていい魔物ではない。
何より……コイツ等は、人間の女性を苗床にする。
「はは……貴様等、誰を見てそんな下卑た笑みを浮かべているんだ?」
メルザに対し濁った視線を向けるゴブリン達に怒りを覚えた僕は、サーベルを抜くと。
「ッ!? ギギ!?」
「ギャ!?」
一気に詰め寄り、瞬く間にゴブリンを二体斬り刻んだ。
「ふふ……ヒュー、離れてください。このような下衆な魔物は、全て燃やして浄化して差し上げます」
ニタア、と口の端を吊り上げ、メルザは瞳の色と同じ巨大な火球を出現させると。
「【紅蓮】」
「「「「「ギギャアアアアアアッッッ!?」」」」」
悲鳴を上げるゴブリン達が、全員業火に包まれた。
お読みいただき、ありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!




