セルジュの街
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コミカライズも決定です!
オルレアン王国に入国してから十日。
僕達の旅は順調に進み、ようやく漆黒の森の手前にある街、“セルジュ”に到着した。
ここはオルレアン王国内でも内陸部に位置し、王都をはじめとした主要都市とを結ぶ街道もない。
まあ、よくある田舎の地方都市といったところか。
「メル……いえ、ご主人様。いよいよ明日は、漆黒の森へ入ることになります。宿屋に入ったら、まずはこの街で情報収集してまいります」
本当はメルザと一緒がいいけど、まだ陽が高いから、メルザの透き通るような白い肌が焼けて赤くなってしまう。
それだけは、絶対に避けないといけないからね……。
「ふふ、本当にヒューは過保護ですね……ですが、それが嬉しくてたまらない私は、少々贅沢でしょうか?」
「まさか。僕からすれば、まだまだ足りませんよ。僕はもっともっとあなたを大切に、そして甘やかしたいと思っていますから」
「あ……ふふ、もう……」
宿屋を探して馬車で通りを進む中、隣に座るメルザがしな垂れかかり、甘えた表情を見せる。
そんな彼女が愛おしすぎて、使用人としてはあるまじき行為……メルザの艶やかな黒髪を優しく撫でた。
あはは、一応、メルザと僕は女商人と使用人という設定なのにね。
「メルザ、あの宿はいかがですか?」
僕は通りの先にある、三階建ての少し大きな建物を指差した。
その入口には、宿屋であることを示す木の看板もある。
「ええ、もちろん構いません」
メルザの了解も得られたので、僕は宿屋の前に馬車を横付けすると。
「ご主人様、どうぞお手を」
「ふふ、ありがとうございます」
メルザを馬車から降ろし、僕達は宿屋の中へ入った……って。
「「「「「…………………………」」」」」
中にいた男連中が、一斉に口を開け、驚いた表情でメルザへと視線を向けた。
どうやら、メルザのあまりの美しさに目を奪われてしまったみたいだ。
「……メルザ、この連中を全て斬り伏せることを、どうかお許しください」
怒りのあまり、僕は思わずサーベルの柄に手を掛けてそう呟くと。
「ふふ……そんなことをしなくても、良い方法がありますよ?」
「良い方法って……むぐっ!?」
「ん……ちゅ……」
突然メルザに唇を奪われ、僕は目を見開いた。
「ぷあ……ふふ、いかがですか?」
その可愛らしい舌でぺろ、と唇を舐め、微笑むメルザ。
周囲を見ると、男連中が眉間にしわを寄せながら、悔しそうに僕を睨んでいた。
「そういうことですので、この宿で一番高い部屋を用意してくれるかしら? もちろん、一部屋で」
「へ……? あ、は、はい……」
同じく声を失っていた宿の主人が、メルザの言葉で我に返り、慌てて鍵を用意した。
「へ、部屋は最上階の一番奥です」
「ふふ、ありがとう」
鍵を受け取り、メルザが僕の腕をこれ見よがしに抱きしめる。
僕も男共の表情を見て溜飲が下がり、メルザと微笑み合いながら階段を上がった。
◇
「いやいやいや、漆黒の森は大量の魔物が出る上に、森の中央にある山には“ヴィーヴィル”の巣があるんだぞ!? あんなところに行くなんて自殺行為さ!」
メルザには部屋で待機してもらい、僕は大通りの店で買い物をしがてら漆黒の森についての聞き込みをする。
この店で三件目だが、軒並み同じことを言っているから、どうやらそういうことなのだろう。
「へえ……それはおっかないですね……森の反対側へ行かないといけないのですが、これは少々時間がかかっても迂回したほうがよさそうです」
「ああ、そうしたほうがいい」
その後、僕は適当に言葉を交わして店を出た。
これ以上は聞き込みをしても有力な情報は得られないだろうし、宿へ戻るとしよう。
メルザは僕の帰りを、首を長くして待っているだろうし。
そんな愛しい婚約者の様子を思い浮かべながらクスリ、と笑うと。
「……へえ」
僕の後ろ……いや、前方にもいるな。
何者かが数人、一定の距離を保ちながら僕を取り囲んでいる。
だけど、少々お粗末なところをみると、サウセイル教授やオルレアン王国の手の者というわけではなさそうだ。
僕は口の端を持ち上げ、わざと大通りから外れて人気のない場所へと移動する。
「この辺でいいかな」
立ち止まり、そう呟くと。
「……よう」
前から三人、後ろから二人の男が現れた。
コイツ等の顔には見覚えがある。宿で僕のメルザをいやらしい目で見ていた連中だ。
「僕に何か用ですか?」
「別に? ちょっとムカツク面してるなって思っただけだよ」
そう言うと、男達はヘラヘラと嗤い合った。
……メルザを待たしているし、早く済ませよう。
「まあ、そういうわけだから少し……っ!?」
「ウルサイ」
――バキッッッ!
男が言い終わる前に、僕はサーベルの柄頭をその鳩尾に叩き込むと、男は吐しゃ物をまき散らしながら腹を押さえて地面でのたうち回る。
「遅いよ」
「がふ……っ!?」
「あぐッ!?」
「ぷげッッッ!?」
瞬く間に三人を打ちのめし、残るは一人。
「まま、待て!? おおお、俺はたまたま一緒に……べきょ……っ!?」
顎を思いきりかち上げてやると、最後の一人は変な声を上げて泡を吹きながら倒れた。
全員死んではいないが、少なくとも骨は折れているだろうな。知ったことじゃないけど。
「おっと、こんなことをしている場合じゃない」
僕はサーベルを納めると、急いで宿へと戻った。
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