大公殿下の説得
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「ふふ! 楽しかったですね!」
ダートプールの夜を満喫し、僕とメルザは宿屋への帰路に就いている。
なお、メルザは見たこともないような異国のお菓子を屋台で食べて、かなりご満悦だ。
もちろん僕も、そんな可愛らしい彼女を見てご機嫌なんだけど。
「ですが……明日には皇都へと帰るのですね……」
「はい。といっても、皇都に到着するまで二週間かかりますが」
行きもゲートを使わずに来たのだから、当然帰りもゲートを使うつもりはない。
何より、僕だってもっとメルザと二人だけの時間を楽しみたいから。
「ふふ。いっそのこと、遠回りして帰りますか?」
「あー……大公殿下が心配しておられると思いますので、それは厳しいかと……」
「そうです、よね……」
僕の言葉に、メルザは肩を落とす。
なので。
「ヒュー?」
「あはは、僕達の旅はこれだけではありませんよ。皇都に戻ったら、また次の場所へと向かうんですから」
「つ、次の場所!?」
少しおどけながらそう告げると、メルザが驚きの声を上げた。
「はい。ノーフォークとの面会で、僕のルーツが分かりました。ですが、肝心の僕の能力に関するヒントは何一つありません。精々、魔族の名前が“クロノス”であることと、能力が十四歳を迎えた時に覚醒するという程度です」
「そ、それは……」
「ですので、僕は魔族について最も詳しいと思われる方を訪ねようと思います」
「あ……そ、それって……」
どうやらメルザも気づいたみたいだ。
うん……魔族について知りたいのなら、やっぱり同じ魔族に尋ねるのが一番だ。
なので。
「はい。あなたの母君であるヴァンパイアの真祖、エルトレーザ=オブ=ウッドストックその人です」
「た、確かにお母様であれば、ヒューの時を操る能力について気づいたことがあるかもしれません!」
メルザは僕の手を取りながら、嬉しそうに顔を寄せる。
「そ、そうしますと、またオルレアン王国に侵入する形になりますが、どうするのですか……?」
「大公殿下には申し訳ありませんが、僕とメルザの二人だけで向かいます。前回は王都に入ることが目的だったためあの人数で行きましたが、今回はその王都からかなり距離があります。前回よりも安全に行けるでしょうし、大公殿下はむしろ目立ってしまいます」
一転して心配そうにおずおずと尋ねるメルザに、僕はそう説明した。
モニカ教授やアビゲイルの同行ならそれほど目立たないかもしれないけど、人数は多くないほうがいい。
だったら、サウザンクレイン皇国の真の最強であるメルザと、まだ不完全とはいえサウセイル教授やメルザの母君に対抗しうることができる僕だけのほうが身軽だしね。
……いや、違うな。
ただ僕が、メルザと二人きりになりたいだけだ。
「大公殿下の説得が少々大変ですが、何としても二人だけで向かいましょう」
「はい! ……ふふ、またあなたと二人きり、ですね」
「ええ……」
僕とメルザは宿に到着し、肩を寄せ合いながら中へと入った。
◇
「駄目じゃ駄目じゃ! そんなことは、絶対に認めんわい!」
ノーフォークとの面会を終えて皇都に戻った僕達は、大公殿下にオルレアン王国にいるメルザのご両親の元へ向かうことを告げると、案の定反対された。
「ですが、私とヒューの実力であれば申し分ないことはお爺様もご存知のはず。それにお爺様も一緒ですと目立ってしまい、オルレアン王国に気づかれてしまいます」
「むむむ……じゃ、じゃが、それならせめてモニカを連れて行くんじゃ!」
「大公殿下、モニカ教授の武器はあの大剣グレートウォールです……それこそ、すぐに“赤い死神”だと気づかれてしまいますよ……」
「うぬぬぬぬ……!」
僕とメルザに立て続けに論破され、大公殿下が唸る。
だけど。
「……ハア、どうせ言うても聞かんのじゃろう……?」
大公殿下は盛大に溜息を吐くと、肩を竦めながらそう呟いた。
「お、お爺様!」
「では……!」
「ただし! あくまでも行きだけじゃ! 帰りはエルトレーザの奴の転移魔法で送り届けてもらえ!」
「! お爺様、大好き!」
「うおっ!? ま、全く……こんな時だけ甘えおって……」
最高の笑顔を浮かべるメルザに抱きつかれ、悪態を吐きながらもまんざらではない……いや、目尻も頬も口元もゆるっゆるの大公殿下。
あ、あははー……こう言っては何だけど、チョロい。
「では、支度を整えて明日にでも出立いたします」
「そ、そんなに早く行くのか!?」
「ふふ……善は急げです。それに、ヒューが自分の能力を十全に使いこなせるようにこそが、私達が勝利する鍵となりますので」
「そ、そうじゃのう……」
寂しそうにする大公殿下を、メルザが苦笑しながらたしなめた。
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