ノーフォークとの面会
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「この先、みたいですね……」
お店を出た後、僕達は賑やかな大通りから少し離れた、老朽化した建物が立ち並ぶ区画へと足を踏み入れた。
ここは大通りとは打って変わって薄暗くひっそりとしており、道端はかなり汚れている。
所謂、貧民街と呼ばれるところだ。
この交易都市ダートプールの街を治めていたノーフォーク辺境伯も、落ちぶれたものだな……。
「メルザ、僕から決して離れないでくださいね?」
「ふふ、はい」
メルザの手を握りそう告げると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
もちろんメルザには悪意や嘘を見抜く能力があるのだから、よからぬ連中が何かしてこようとしてもすぐに気づくし、何よりヴァンパイアである彼女に太刀打ちできる者なんて、この皇国にはいない。
でも、それでも僕はメルザを守り抜きたいし、彼女も僕に守られることを心から望んでくれている。
そんな互いの関係が、僕は好きだ。
「この辺りは特に酷いようですので、足元に……いえ、少々失礼します」
「キャッ!」
通路があまりに汚かったので、僕はメルザを横抱きにした。
これなら、メルザは靴や服を汚さずに済む。
「ふふ……もう、いきなりですね」
「あはは、すいません」
苦笑するメルザに、僕は微笑み返した。
でも、こうやって夜の貧民街を歩くのも悪くない。
そして。
「ここが、あの男の家のようです」
みすぼらしいレンガ造りの建物を見上げ、僕はそう告げた。
知らなければ、まさかこんなところに元貴族が住んでいるなんて思わないだろうな……。
すると。
「メルザ……?」
「その……ヒューの元祖父との話が終わるまで、こうして手を繋いでいてもいいですか?」
僕の顔を覗き込みながら、メルザがおずおずと尋ねる。
あはは……あなたはいつも、そうやって僕のこと慮って、支えようとしてくださって……。
「ありがとうございます……あなたのおかげで、僕はどんな現実にも立ち向かえます」
「はい……あなたは強い御方。自分の弱さを認め、あなたの大切な人の弱さを埋めることができる御方……」
「それは全て、あなたが教えてくださったことです。あなたがいてくださるおかげで、僕はどこまでも強くなれます」
「ん……」
そうだ……僕にはメルザが、大公殿下が……家族がいる。
だから、たとえ最後の家族との面会が最低の結果に終わったとしても、何も気に病むことはない。
大切な家族さえ、いてくれれば。
――コン、コン。
意を決し、僕は扉をノックする。
だが、中から返事はない。
「留守、でしょうか……?」
「分かりません。ですが、既に高齢のノーフォークがこんな夜更けに出歩くとも考えられません……」
僕とメルザは顔を見合わせながら、首を傾げると。
――ぎい。
「こんな時間に、誰じゃ……?」
扉が開き、面倒くさそうな声で尋ねる髭を生やした老人。
その顔を見て、僕は息を呑んだ。
「……お久しぶりです」
「ん? ……ま、まさか……っ」
お辞儀をして挨拶した瞬間、ようやく僕に気づいた元祖父が声を失うと同時に、慌てて扉を閉めようとした。
「っ!?」
「すいません。僕は、あなたに聞きたいことがあってここに来ました。中に入れてくれませんか?」
隙間に足を差し込んで扉を閉められなくすると、低い声でそう告げた。
有無を言わせないとばかりに。
「わ、私には貴様に話すことなどない!」
「ですが、僕にはあるんです。それとも、こんな貧民街で騒ぎを起こして、ここにすらもいられなくなることをお望みですか?」
そう言って脅しをかけると、ノーフォークは観念したのか、僕達を招き入れた。
「ありがとうございます。お聞きしたいことさえ聞ければ、すぐに去りますので」
「……何が聞きたいんじゃ」
声を震わせ、僕の藍色の瞳とは異なるこげ茶色の瞳に怖れの色を湛え、ノーフォークが吐き捨てるように尋ねた。
「単刀直入に聞きます。僕の……いえ、ノーフォーク家の祖先に、魔族と結ばれた人はいますか?」
「っ!? な、なんじゃと!?」
僕の言葉を聞いた瞬間、ノーフォークは腰を抜かし、驚きの声を上げた。
その反応からも、ノーフォーク家に魔族のルーツがあることは間違いない。
「どうなんです? いるんですか? いないんですか?」
「し、しし、知らん! 儂は知らんぞ!」
「ヒュー、この者は嘘を吐いております」
僕の問い掛けに頭を抱えながら否定するノーフォークに対し、メルザが冷たい視線を送りながらそう教えてくれた。
「ハア……あなたが答えてくれるまで、僕達はここから一歩も動きませんよ? 別に取って食おうって話でもないんですし、お互いのためにも話してしまったほうが気が楽ですよ?」
その小さく腰が曲がった身体を持ち上げ、無理やりこちらへと向き直らせて詰め寄る。
だが……どうしてこの男は、そんなに話すことを躊躇うんだ?
何か言えない事情でも、あるんだろうか……。
そんなやり取りを繰り返すこと、およそ十分。
ようやく諦めたノーフォークが、大きく息を吐くと。
「……話したら、すぐに出て行けよ」
そう言うと、ノーフォークが訥々と話し始めた。
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