遺体と本
「僕は七度目の人生で、怪物姫を手に入れた」の発売まで、あと2日!
7月20日発売ですので、どうぞよろしくお願いします!
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https://fantasiabunko.jp/special/202207seventhtime/
書籍の帯には重大発表あり!
お見逃しなく!
「とにかく、中に入ってみよう」
「はい」
モニカ教授の言葉に頷き、僕達は部屋の中へと足を踏み入れる。
周囲を警戒しながらゆっくりと奥へと進むと。
「これは……」
現れたのは、金属製の無骨な棺だった。
黒く重厚な金属……おそらくは鋼鉄製と思われるが、錆や腐食といったところはなく、むしろ年代の新しさすら感じさせるような不思議さを持ち合わせていた。
それに。
「この紋章……サウザンクレイン皇室のものと全く同じじゃの……」
大公殿下がハルバードの柄にある、同じくサウザンクレイン皇室の紋章を眺めながら、ポツリ、と呟く。
「ということは……ここは皇室の墓で、この棺に眠っているのは皇族、ということですか……?」
僕は大公殿下の顔を覗き込みながら、おずおずと尋ねた。
「……じゃが、そんなことはあり得ん。サウザンクレイン皇族が代々眠る墓はここではなく、皇宮の地下深くにあるのじゃからな。もちろん、初代皇帝陛下をはじめ、歴代の皇帝陛下の遺体は全て安置されておる」
「では、これは一体……」
大公殿下の話が本当なら、ここにある棺には皇室を騙った不届き者の遺体が入っているということになる。
だけど、そんな者がわざわざこんな仕掛けまで施して、ここに置くだろうか……。
「ヒューゴ君、まずは確認してみようじゃないか。話はそれからでもいいだろう」
「は、はい」
考え込んでいる様子を見かねたモニカ教授に促され、僕達は棺を調べる。
棺の外側は、初見どおり比較的新しい鋼鉄製であることと、サウザンクレイン皇室の紋章が施されていること、それに、かなり頑丈そうな鍵が掛けられていることくらいしか見受けられなかった。
「あは♪ 鍵を開けるわね♪」
ニタア、と口の端を吊り上げ、アビゲイルは胸の谷間から鍵開けのための道具を取り出した。
はは……暗殺者として色々な所に侵入するから、こういった道具は常に持ち歩くんだよね。
僕は一度目の人生で教わったことを思い出し、作業を行っているアビゲイルを眺めながら感慨にふけっていると。
「え、ええと……メルザ?」
「……あまりアビゲイルさんを見ないでください」
隣にいるメルザが、僕をジト目で睨みながら口を尖らせていた。
「あは♪ ヤキモチ♪」
「ち、違います!」
暗殺者の顔で揶揄うアビゲイルの言葉を、メルザが大声で否定した。
「ええ……違うのですか?」
そんなメルザを見て、僕はわざと肩を落として見せる。
「あ、あの、もちろんヒューが他の女性に目移りするのは、その、嫌ですし……ええそうです! 嫉妬です!」
わたわたしながら説明を始めるメルザ。
でも、最後には嫉妬だということを認めた。
そんな彼女が可愛くて、愛おしくて。
「あ……」
「ありがとうございます。大好きなあなたに嫉妬してもらえるなんて、婚約者冥利に尽きます」
「も、もう……ふふ」
メルザの両手を取ってそう告げると、メルザは嬉しそうにはにかんだ。
うん、そんな表情も可愛くて、尊い。
すると。
――カチリ。
「あは♪ 開いたわ♪」
「っ! 本当ですか!」
アビゲイルの言葉に、僕達は彼女の傍へと駆け寄る。
鍵は見事に外れ、あとは棺の蓋を開けるのみだ。
「うむ、では私が開けよう」
そう言うと、僕達五人の中で一番怪力のモニカ教授が蓋に指を掛けた。
「ふっ!」
モニカ教授は強く息を吐くと同時に、一気に蓋を持ち上げる。
は、はは……普段から大剣グレートウォールを小枝のように扱うだけあって、あんなに重そうな蓋も、モニカ教授にとっては大したことないんだな……。
「さて……中には誰が眠っているのかの?」
開いた棺の中を、僕達は覗き込む。
そこには。
「これは……」
棺の中には、綺麗に装丁された一冊の書物を抱きしめる白骨の遺体が安置されていた。
「……わざわざ隠された転移魔法陣を使わないと来れない場所に、ご丁寧に金属製の棺に一冊の本を大事に抱える遺体……趣味が悪いですね……」
遺体とその本を見やり、僕は皮肉を込めてそう言い放つ。
「大公殿下……」
「……うむ。あり得んことじゃが、この遺体は王族に間違いないじゃろう。何より、まとっている衣にある紋章がそれを物語っておるわい……」
チラリ、と覗き込みながら声を掛けると、大公殿下は苦虫を噛み潰したような表情でそう答えた。
なら、この遺体はやはり。
――初代皇帝、ナイジェル=フォン=サウザンクレイン。
「ですが、どうしてそのような遺体がここに……」
僕と同様、遺体について察したメルザがそう呟く。
「分からぬ……じゃが、その理由についてはその本にありそうじゃな」
かぶりを振る大公殿下は、初代皇帝の遺体が抱える本をジロリ、と見やった後、僕へと視線を移した。
これは……僕にこの本を手に取るように、という大公殿下の指示だ。
「ですね……」
僕は遺体の手をどけ、本を手に取ってまじまじと見つめる。
「ヒュー、本はどのような内容なのでしょうか……?」
「ええと……表紙には何も書かれてはいませんね……」
となると、本をめくって読んでみるしかないな。
僕は表紙をめくり、最初の一ページを目にした。
そこには。
『――親愛なる、シェリル=ダスピルクエットへ』
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