大公殿下の想い
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「メ、メルよ、待つんじゃ!」
リディア令嬢のパーティーから帰宅するなり、メルザは執務室へと真っ直ぐ向かい、仕事をしていた大公殿下を詰問する。
そのあまりの剣幕に、大公殿下は頭を抱えながらひたすら謝っていた。
「いいえ、待ちません。そもそも、そんな大事な話をどうして私達に先に言わなかったのですか」
「そ、それは、今後の婿殿とクリフォード殿下が良好な関係を内外ともに示す意味合いがあるのと、クリフォード殿下自身に皇国に迫っておる危機について認識してもらうため……」
「だとしても、あらかじめ私達にお話しいただいてもよかったのでは?」
メルザはニタア、と口の端を吊り上げ、大公殿下を追い込んでいく。
それを傍観している僕は、必死で助けを求める大公殿下の視線から目を逸らしつつ、こうやって怒るメルザの愛おしさに見惚れていた。
そして。
「……次はありませんよ?」
「ぐふう……わ、分かったわい……」
ようやくメルザに許してもらい、大公殿下は青い顔で机の上に突っ伏した。
「そ、それでじゃな、今回の橋梁工事には、我が大公軍の兵が当たることになっており、婿殿の副官にはオリバーをつける」
「パートランド卿がですか!」
「うむ、あやつは戦場での工作も見事でな。必ずや婿殿の成長につながるはずじゃ」
そう言うと、大公殿下は口の端を持ち上げた。
あはは……本当に、僕のことをいつも考えてくださって……。
「ありがとうございます。この任務、見事成し遂げてみせます!」
「はっは! 期待しておるぞ!」
「はい!」
豪快に笑う大公殿下に、僕は元気よく応えた。
「ふふ……それでお爺様、私の仕事になる紋様のある石の調査ですが、どのような紋様なのですか?」
「おお、そうじゃった」
大公殿下は机の引き出しを開け、中から小さな石を取り出した。
「これは……」
「全部ではないのじゃが、アイシス川の地下からかなりの量の石が採掘された。しかも、大きさも形も寸分違わずな」
まじまじと見つめるメルザに、大公殿下が説明する。
「メル、どうじゃ?」
「はい……紋様そのものは魔法陣とは違うようですが、この石そのものには微量の魔力が宿っていますね……」
「ほう……?」
メルザの言葉に、大公殿下が顎鬚を撫でた。
「いずれにしても、一つ一つの石であれば問題ないと思いますが、これが大量にとなると、何かしらの影響があるかもしれません」
「ふむ……やはり、あの川一帯を調査する必要がありそうじゃの。何せ、地下洞窟での一件もある」
「「はい」」
やはりこれは、サウセイル教授の仕業なのだろうか……。
だけど、あの洞窟もサウセイル教授は利用こそしたが、元々は最初から皇都の地下にあったもの。
そう考えれば、彼女とは別の何かによるものなのかもしれない。
「ふふ、いずれにしましても、調査をしてみなければ始まりません。ですから」
メルザがしな垂れかかり、僕の眉間を人差し指でそっと押した。
あ、あはは……どうやら顔に出ていたみたいだ。
「そ、そうですね。メルザなら、どんな魔法が施されていたとしても、すぐに見抜くことができますから」
「はい! 任せてください!」
僕の言葉に、メルザは笑顔で応えてくれた。
◇
「メル、婿殿……気をつけるんじゃぞ」
「大丈夫ですよ、お爺様。さほど離れた場所でもありませんし、週に一度は屋敷に戻りますから」
「う、うむ……そ、それはそうじゃが……」
心配そうな表情で見送りに来た大公殿下に、メルザは苦笑する。
でも、まんざらではないようだ。
「それに私には、私だけの騎士様がいらっしゃいます。だから、心配いりません」
そう言って、メルザが真紅の瞳で僕を見つめながらニコリ、と微笑んだ。
そんな彼女に応えるように、僕は胸に手を当ててお辞儀をした。
メルザを護る、たった一人の騎士として。
「では、行ってきます」
「くれぐれも気をつけるんじゃぞー!」
僕達の馬車が見えなくなるまで、大公殿下が手を振り続ける。
あはは、本当に身内には過保護だなあ。
「ふふ……お爺様ったら、仕方ありませんね」
「当然ですよ。大公殿下にとって、メルザは宝物ですから」
「もう……何をおっしゃっているんですか。お爺様は、ヒューを心配されているのですよ?」
「あ……あ、あはは……」
少し呆れた表情でメルザが告げると、僕は誤魔化すように苦笑いをした。
だって……そんなの、嬉しすぎるから、照れくさくて……って!?
「メ、メルザ!?」
「ふふ、ヒューはやっぱり分かりやすいですね」
メルザに突然頭を抱きしめられ、僕はしどろもどろになる。
し、しかも、顔がメルザの胸に挟まれてるんだけど!?
「ヒュー……私の愛おしい御方……」
「メルザ……」
胸の中から覗いたメルザの幸せそうな表情を見て、目的地であるアイシス川まで、僕は彼女に甘えた。
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