シモン王子とセルマの恋
「ふふ……さすがはウェッジウッド侯爵家のパーティーです。来賓の方々も含め、かなり豪華ですね」
今日の会場となるホールへと入るなり、メルザはそんな感想を呟く。
「そうですね。それに、今日のパーティーにはクリフォード殿下も来られますので、なおさらでしょう」
さすがに王族が出席するパーティーだから、恥ずかしい真似はできない。
それに、リディア令嬢はクリフォード皇子の婚約者、二人の仲睦まじい姿を多くの貴族に知らしめ、ウェッジウッド侯爵家の権威を誇示することも必要だからね。
「メルザ……僕達も、サウセイル教授とのことが終われば、盛大にパーティーをしましょう。それこそ、多くの方々をお呼びして」
「ふふ! それはいいですね!」
僕の提案に、メルザはパアア、と笑顔を見せる。
うん……僕とメルザの仲睦まじい姿をこれでもかと見せつけ、加えて万に一つもメルザと僕の間に隙間はないのだと示さないといけないし。
「あ、ウェッジウッド侯爵が挨拶をするみたいですよ」
「そうですね」
ウェッジウッド侯爵が夫人とリディア令嬢を連れ、ホールの壇上に立ち、今日のパーティーの開催の挨拶をした。
そして。
「では皆さん、本日は大いに楽しんでください」
侯爵の宣言と共に、パーティーが始まった。
「メルザ、どうぞ」
僕は給仕に料理を取り分けてもらい、メルザの口元へフォークで刺した料理を差し出す。
「はむ……ん……ふふ、美味しいです」
「で、ではこちらはいかがですか?」
料理を食べて顔を綻ばせるメルザを見て嬉しくなった僕は、もっと彼女の笑顔を見たくて次の料理を差し出す。
「もう……ヒュー、落ち着いてください。そんなに次々と食べられませんよ?」
「あ……す、すいません……」
「ふふ、ですので今度はヒューの番です」
そう言うと、メルザはキャビアのカナッペをつまみ、僕の口元へと差し出した。
「はむ……もぐ……美味しいです!」
「ふふ! 本当にヒューは、いつも美味しそうに食べますね!」
僕の食べる姿を見て、今度はメルザが嬉しそうに顔を綻ばせる。
ああ……僕は彼女とのこんなやり取りが、楽しくて、幸せで仕方ない。
その後も、僕とメルザはそんなやり取りをしていると。
「今日はお越しいただき、ありがとうございます」
「「あ……リディア殿(様)、今日はお招きいただき、ありがとうございます」」
主催者として挨拶に来てくれたリディア令嬢に、僕とメルザも揃って挨拶を返した。
「ふふ……リディア様、本当に素晴らしいパーティーですね。それに、至る所にウェッジウッド家……いえ、リディア様の心遣いがを感じられます」
「ありがとうございます。そうおっしゃっていただけると、私も頑張った甲斐がありました」
緊張からか、リディア令嬢はどこか表情を硬くしているものの、メルザに褒められて嬉しいらしく、顔を上気させているのが窺える。
あ、あはは……相変わらず、不器用な女性だな……。
「ところで、クリフォード殿下の姿が見えませんが……」
「殿下でしたら、執務が残っているとのことで少し遅れるとの連絡をいただいております」
「そうですか」
リディア令嬢に特に寂しいといった、そんな様子も見受けられないため、すぐに来られるのだろう。
これでクリフォード皇子が来ないとなっていれば、彼女のことだからもっと表情を硬くさせているだろうし。
「では、名残惜しいですが他のお客様のところへと挨拶に行ってまいります」
そう言ってカーテシーをすると、リディア令嬢は別の令嬢のところへと向かった。
「さて、では僕達も食事の続きを……って」
「? ヒュー、どうしました?」
「ほら、あれを見てください」
不思議そうに尋ねるメルザに、僕はホールの隅のところを指で指し示す。
そこには。
「あれ……ひょっとしてシモン王子とセルマ、ですか……?」
「みたいですね……」
シモン王子とセルマは、にこやかに会話を楽しんでいる様子が窺えた。
だけど……へえ、シモン王子のあんな顔、初めてみたかも。
「……ですが、これだとミラー子爵家が婿を取るという話から、さらに遠ざかってしまいますね……」
「ですね……」
このまま二人が上手くいけばいいのに、と心の中で思いつつも、一方で二人の前途には色々と障害がありそうだな、と考えてしまう。
もちろん、二人が幸せになるのなら僕も全力で応援しようとは思うけど……。
「ふふ……でしたら、こうすればいいのです」
クスリ、と微笑みながら、メルザがそっと耳打ちする。
「! それはいいですね!」
「ふふ! でしょう?」
メルザが提案した内容は、もしシモン王子とセルマが結ばれた場合、必然的に家を出ることになるであろうセルマに代わって、ミラー家が養子を取ればいいというもの。
もちろん、その養子というのはヘレン、というわけだ。
「これなら、セルマはシモン王子との恋も成就できますし、何よりヘレンも再びミラー家に戻ることができます」
「はい! 本当に、僕のメルザは素晴らしい発想をしますね!」
「あ……ふふ、ヒューに褒められることが、私には何よりも嬉しいです」
僕とメルザが、嬉しくなって手を繋いではしゃいでいた、その時。
「ヒューゴ、メルトレーザ」
クリフォード皇子が、神妙な面持ちで声を掛けてきた。
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