メルザのヤキモチ
新作始めました。どうぞよろしくお願いします。
『自分で書いた小説のヒロインの悪役令嬢にざまぁされる婚約者の小公爵に転生した僕は、彼女の幸せを願い身を引いたのに、逆に溺愛されることになりました』
「ふふ……ですけど、この四人でパーティーに出席をするなんて初めてですね」
今日の会場であるリディア令嬢の実家、ウェッジウッド侯爵邸へと向かう馬車の中、メルザがそう言ってクスリ、と笑った。
「あはは、といっても僕とメルザがパーティーに出席すること自体、数えるほどもないんですけどね」
「そうですね……なので、実は今日のパーティーは楽しみにしておりました……」
「僕もです。素敵なメルザと、たくさん踊れるのですからね」
「ふふ……ええ」
「「コホン」」
……せっかくメルザと二人の世界にいたのに、ヘレンとセルマに咳払いをされてしまった。
「ヒューゴ様とメルトレーザ様が仲睦まじいのはよろしいですが、ここに未婚女性が二人いることをお忘れなく」
「そうですよ! しかも私達、婚約者もいないんですからね!」
必死なセルマを見てさすがに申し訳ない気持ちになった。
だけど、処刑されて死んだことになっているヘレンとは違い、セルマはミラー子爵家の令嬢。婚約者の一人や二人くらい、いてもおかしくないんだけど……。
「……例のグローバー家が、ミラー家に色々と圧力をかけていましたので」
「ああ……」
そういうことか。
本当に、いつまでも迷惑ばかりかける連中だ。
「ですので! 私は今日のパーティーで素敵な殿方を見つけるんです!」
「そうね! できれば婿入りに支障のない三男を狙うのよ!」
「もちろん!」
ヘレンとセルマが、鼻息荒く頷き合う。
ウーン……それだったら、大公家で相手を世話したほうが早いような気がするんだけど……。
「ふふ……セルマも、やっぱり素敵な出逢いをしたいですものね」
「そうなのですか?」
「はい。私はヒューという素晴らしい人と奇跡のように出逢うことができましたけど、女性でしたら物語のような素敵な出逢いを求めるものです」
そうか……そう考えたら、僕もメルザとの出逢いは本当に女神グレーネに心から感謝するほど、奇跡の一言に尽きたけど……それでも、物語のような展開とは程遠いかもしれない……。
「あ……ふふ、私はあの出逢いが一番だったのですから、肩肘を張らなくてもいいんですよ?」
あ、あはは……やっぱり僕の考えてることなんて、お見通しかあ……。
クスクスと笑うメルザを眺めながら、僕は苦笑するばかりだった。
◇
「さあ、どうぞ」
「ふふ、ありがとうございます」
ヘレンとセルマをエスコートして馬車から降ろした後、最後に控えるメルザの手を取って降ろす。
やっぱり最高のヒロインは満を持して最後に登場しないとね。
すると。
「ヒューゴ! メルトレーザ殿!」
「シモン殿下」
声をかけてきたのは、シモン殿下とクロエ令嬢だった。
だけど……ふむ、さすがは大国の王子だけあって、なかなか見事に着こなしているものだなあ。
そして、クロエ令嬢も……うん、いつもはシモン王子の陰に控えていることに徹しているから学院では目立たないけど、皇国の令嬢達と比べても、頭一つ抜けて綺麗な女性だ。
特に今日は、その緑色のドレスやエメラルドで統一されたアクセサリーと相まって、ひと際綺麗だ。
「クロエ殿、今夜はとても素敵ですね」
「あ……そ、その……ありがとう、ございます……」
そう声をかけると、クロエ令嬢は、顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
すると。
「……ヒュー?」
「? メルザ、どうしましたか?」
「……いえ、別に」
明らかに不機嫌になってしまったメルザを見て、僕は首を傾げる。
だけど、その様子を見るに、僕がクロエ令嬢を手放しで褒めたことが気に入らないみたいだ。
あはは、本当に僕の婚約者は最高に可愛いな……。
「ヒュー……?」
「メルザ、パーティーの前に、ちょっとだけいいですか?」
「え、ええ……」
意図が分からず不思議そうな表情をするメルザを連れ、僕は人気のないところへとやって来ると。
「あ……ヒュ、ヒュー……」
「メルザ、クロエ令嬢を見て思いましたが、やはりあなたの美しさには誰も敵いませんね。だから、ほら」
メルザの手を取り、僕の左胸へと当てた。
「どうです? あなたが傍にいるだけで……あなたが触れるだけで、僕はいつだって胸を高鳴らせています。先程のヤキモチを焼いた表情だって、それだけで僕がどれだけ嬉しいか、どれだけあなたが愛おしいか……」
「ヒュー……も、もう……本当にずるい……」
顔を赤くしたメルザは、そっと僕の胸に頬を寄せた。
「あはは、これでお分かりだと思いますが、クロエ令嬢ではこうはまいりません。僕の胸を高鳴らせることができるのは、メルザただ一人だけですよ」
「あう……」
「それと、僕はそんなことよりも、会場にいる男連中がメルザに下心満載の視線を送ってくるかもしれないと思うと、気が気ではありません……!」
そう言うと、僕は拳を強く握りしめながら歯噛みする。
もちろんメルザが他の男に懸想するだなんてことは絶対にあり得ないんだけど、そもそも僕のメルザを見るだけでも万死に値する。
うう……こんなことならサーベルを持ってくればよかった……。
「ふふ……でしたら、今日の私はヒューのこの腕をずっと抱きしめたままパーティーに参加します。これだけ仲睦まじい姿を見れば、さすがに私を見続けることなんてできないでしょうから……」
「それはいい提案です!」
嬉しそうに微笑むメルザに、僕は嬉々として右腕を差し出すと。
――ぴと。
「ヒュー……では、行きましょう」
「はい!」
そして僕達は、みんなのいる会場へと向かった。
お読みいただき、ありがとうございました!
前書きにあるとおり、新作をはじめました。
『自分で書いた小説のヒロインの悪役令嬢にざまぁされる婚約者の小公爵に転生した僕は、彼女の幸せを願い身を引いたのに、逆に溺愛されることになりました』
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