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みんなの前で

これにて第三部ラストです。

「んう……」


 眩しい何か(・・)が顔を覆い、僕は少しずつ覚醒する。


 そして、ゆっくり目を開けると。


「あ……目が覚めましたか?」

「メル、ザ……?」

「はい」


 僕の目の前には、微笑むメルザの綺麗な顔があった。

 だけど、ここは……うん、ベッドの上で、僕は今メルザと同衾しているみたいだ。


「ええと……確か、メルザのご両親が帰られて、メルザの肩をお借りして……」

「ふふ、ヒューはその後、私に寄り掛かりながら眠ってしまったんです」

「ああー……」


 そうだ、時を止める能力を使った反動で、僕の身体が限界を迎えてしまったんだった。


「それで、そのまま私の部屋にお連れして、その……心配でしたのであなたの傍におりました」


 そう言うと、メルザが頬を赤く染めながらはにかむ。

 うん……目が覚めてメルザがいて、しかも最高の表情を見せてくれているんだから、こんな幸せな目覚めはないな。


「あ……ん……ちゅ……」

「メルザ……」

「ヒュー……ん……」


 僕は我慢できなくなり、メルザに顔を寄せ、その柔らかい唇に口づけをした。


「メルザ、僕の血を飲んでください」

「いいのですか? ヒューは今、例の能力の反動でその身体が傷ついています。そのような時にあなたの血をいただいてしまったら……」

「あはは、大丈夫ですよ。それよりも、あなたに血を飲んでいただくことで、僕はもっとあなたを感じていたいんです。そして、僕達の勝利をメルザと一緒に享受したいんです」

「あ……ふふ」


 メルザはクスリ、と微笑んだ後。


「では……はむ……ん……ん、ん……ぷあ」


 僕の首筋に牙を突き立て、血を飲んだ。

 でも、あまり飲まないところを見ると、僕の体調を気遣っているみたいだ。


「メルザ、僕なら大丈夫ですから、もっと飲めばよかったのに……」

「はああ……! そんなことはありません。最愛の人の血をこんなに堪能できて、私は本当に幸せです……!」


 恍惚の表情を浮かべながら、メルザはその手を自身の頬に当てる。

 その真紅の瞳が、吸い込まれそうなほど美しく輝いていて……。


「あ……ヒュー……ちゅ、ちゅく……も、もう……血が付いてしまいますよ?」

「ん……元々僕の血です。それに、血が付いたのならメルザが綺麗に取ってくれませんか?」

「ほ、本当に……覚悟してください。ちゅ、ちゅ……れろ……ちゅぷ……」


 それから僕とメルザは、飽きることなく互いの唇を貪り合った。


 ◇


「はっは! してやったりじゃわい!」


 あの後、僕が目を覚ましたことを知った大公殿下が、お酒とたくさんの料理をメルザの部屋……つまりこの部屋へと運んでやって来た。

 で、今は皇都を守ったお祝いと称して宴会が開かれている。


「本当にもう……お爺様ときたら……」


 メルザは額に手を当てながらかぶりを振る。


「メルよ、そう言うな。今回の一番の立役者である婿殿が目を覚ましたのじゃから、それを祝わんでどうするというものよ。のう、モニカ」

「た、大公殿下、私に振らないでください」


 お酒を飲んで大公殿下にそう言われ、モニカ教授が困った表情を浮かべた。


「フフ、まあいいじゃないですか。大公殿下のお気持ちも分かりますよ」


 アビゲイルが、クスリ、と微笑みながら酒を口に含む。


 なお、今回は僕が意識を失ってから丸一日しか経っておらず、モニカ教授とアビゲイルはこの屋敷に泊まったとのこと。

 どうやら二人は、僕が目を覚ますまで心配してくれていたらしい。


 あはは……モニカ教授はともかく、あの(・・)アビゲイルが僕の心配を、ね……。


「ヒューゴ様、汗などかいておられませんか? もしよろしければお召し物を……」


 ヘレンとセルマが、僕の(そば)に来てそう尋ねる。

 ああ……そういえば、昨夜のサウセイル教授の一戦の時と同じ服装だなあ……って、こ、これはメルザに申し訳ない。


「そ、そうさせてもらうよ。ヘレン、セルマ、準備を頼む」

「「はい! お任せください!」」


 そう言うと、二人は僕を両脇から抱えて運ぼうとする……んだけど。


「二人共、ヒューは私がお連れいたします」


 メルザが僕を、その……お姫様抱っこして、僕の部屋へと運んでくれた。

 そんな僕の姿を見て大笑いする大公殿下と、必死に笑いをこらえるモニカ教授とアビゲイル……。

 こ、これは恥ずかしい……。


「さすがに着替えは私達二人で行いますので、メルトレーザ様は一旦お部屋の外でお待ちいただけますでしょうか」

「……仕方ないですね」


 メルザは口を尖らせ、渋々部屋を出て行った。


「さて……お着替えのついでに、お身体も拭いておきましょう。ご心配なく、全てはこのヘレンにお任せください」

「あー! お姉ちゃんずるい!」


 な、何だかこの二人、妙に鼻息が荒くないか!?


 そうして僕は、息の荒いヘレンとセルマに身体を拭いてもらったけど、やたらと二人の目が血走っていたことと何度も背中や胸に触れてきたことが怖くて仕方がなかった。

 も、もちろん僕も注意したんだけど、全然聞いてくれないので諦めた。


 そうして、またメルザに運んでもらって彼女の部屋に戻り、宴会の続きをする。


「ヒュー、どうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 メルザが差し出してくれた料理を、僕は口に含む。

 うん、こうやってメルザにお世話してもらえるのなら、こうやって負傷するのも悪くないかも。


「さて……婿殿、これからどうするんじゃ?」

「そうですね……」


 僕はメルザを見つめながら思案する。

 とりあえず、僕達は皇都を消失させるという“原初の魔女”、シェリル=ダスピルクエット=サウセイルの企みは阻止した。

 確証は持てないけれど、サウセイル教授が同じ手を使うことはもうないだろう。


 そうすると、今度はどう出てくるか……。


「ヒュー……あなたは傷ついているんです。今はただ、ゆっくりしてください……」

「メルザ……」


 心配そうに見つめながら僕の手を握るメルザ。

 うん……やっぱり、次はあれ(・・)だよね。


「……僕の身体が治ってからですが、義父上と義母上が暮らしているという、“漆黒の森”へ向かいましょう。そして、できればサウセイル教授が次にどのような手を打ってくるか、オルレアン王国で探ることができれば最上ですね」

「ふむ、そうじゃの」

「うむ……だが、最近学院を休んでばかりで、給料が……」

「フフ、クビになったらうちの雑貨屋で雇ってあげますよ? ……あは♪ あなたなら腕も申し分ないし♪」


 いやいや、モニカ教授を闇の世界に引きずり込まないでほしい……。


「ですが、メルザのご両親にお会いするからには、今度こそ認めてもらわないとですね」

「あ……ふふ」


 僕の言葉に、メルザが嬉しそうに微笑み、胸に飛び込んでくる。


 そして。


「はっは! やりおったわい!」

「むむ! これは私への当てつけか!?」

「フフ、見せつけてくれますね」

「「キャアアア! ヒューゴ様!」」


 みんなが注目する中、メルザが僕にそっと口づけをした。

お読みいただき、ありがとうございました!


これで「第三部 原初の魔女編」は終了です。

この後はいよいよ最後の第四部になるのですが、その構想を練るため、一旦更新をお休みさせていただきます。

再開時期は早ければGW明けにできればと考えております。


なお、その間にいくつか幕間を投稿すると思いますので、引き続きどうぞよろしくお願いします。


少しでも面白い! 続きあが読みたい! と思っていただけたら、

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