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僕の大切なもの

「……差し出がましいですが、僕にはお二人が本当に謝っているようには思えません」


 メルザのご両親に対し、僕は静かにそう告げた。


「……部外者(・・・)は引っ込んでおれ」


 僕の言葉が気に食わない母君は、殺気を込めて僕を睨む。

 あはは……さすがはヴァンパイアの真祖(・・)で、あのサウセイル教授と渡り合っているだけのことはある。


 だけど、僕だって引き下がるつもりはない。


「失礼ですが、僕は十四歳の時にメルザの婚約者となってから今まで、ずっと一緒に過ごしてきたんです。それは、お二人よりも」

「ほお……いい度胸じゃの」


 母君は、さらに殺気を膨らませる。

 並の者なら、それだけで気を失ってしまうほどに。


 すると


「エル……まずは彼の話を聞こう」

「っ! オラシオ! じゃがこやつは!」

「まあまあ。それで……どうして僕達が、謝罪をしていないと思うのかな?」


 父君が母君をたしなめ、僕に話すように促した。

 でも、父君もやはり納得がいっていないと、そう瞳が訴えている。


「はい。そもそもお二人は先程から謝罪の言葉を口にしていますが、その前に何故メルザと大公殿下に、これまでどう過ごしてきたのか、元気なのか……そういった二人への労わりの言葉が一切ありません」

「な、何を……」

「それだけじゃありません。義父上は先程、サウセイル教授……“原初の魔女”から逃れるために連絡できなかったとおっしゃいましたが、本当にそうでしょうか?」

「それはそのとおりだよ。僕が王都で諜報員に接触しようとしたら、僕達の居所を突き止められてしまうから……」


 父君は、そう言って悔しそうに唇を噛んだ。


「それならば、どうしてお二人は“原初の魔女”が皇都を襲撃することを知っていたのですか? そして、どうやってこの皇都に来ることができたのですか?」

「…………………………」

「この皇都に来られるのであれば、別に王都で諜報員に接触しなくても、ここで直接会えばよかったんです。でも、それをしなかった」


 そう……その気になれば、ご両親はいつだってメルザや大公殿下に会うことはできたはずなんだ。

 なのに、危害が及ぶとかもっともらしい理由をつけて、会おうとはしなかった。


 つまり。


「はっきりと言います。お二人は、ただメルザや大公殿下と、会うことから逃げていただけです。お二人は知っていますか? メルザが、その()からどれだけつらい思いをしてきたのか……大公殿下が、どれほど悔やんできたのか……」


 僕は、二人の(そば)にずっといたから、どれだけ苦しんできたのかを知っている。

 二人は優しいから、それを見せまいといつも気丈に振る舞っているけれど、その姿を見せる二人を見て、僕は口惜しくて仕方がない。


「そんな二人の気持ちに気づこうとしないで、自分達の都合だけを並べて形だけ謝罪して……だから僕は、お二人が謝っていないと言ったんです」

「貴様に何が分かるのじゃ! (わらわ)とオラシオが、日々どんな想いをしてきたか、分からぬくせに!」

「ええ、僕には一切分かりません。そして、そのことがメルザと大公殿下を苦しめてきた理由にもなりません」

「貴様ッ!」


 僕の言葉に激昂した母君が立ち上がり、その牙を剥き出しにした。


 すると。


「お母様……もし私の(・・)ヒューに手を出そうというのなら、私がお相手します」

「そうじゃの……婿殿に……私の息子(・・・・)に、指一本触れさせるわけにはいかん」


 メルザと大公殿下が、僕と母君の間に立ち、そう告げた。


「……エル」

「……フン」


 父君にたしなめられ、母君は眉根を寄せながらまた座った。


「だがヒューゴ君……君の言うことはもっともだが、だからといってそれが正しい(・・・)わけじゃない。それに、僕もエルも、もっと大きな世界を相手にしている。君はもっと世界を知るべきだ」

「義父上、僕は正しいか正しくないか、世界がどうとか、そんな話は一切していません。僕はただ、メルザと大公殿下を……僕の(・・)大切な家族(・・・・・)の想いを、自分達の都合でないがしろにしないでほしいと言っているのです」


 正直、本音を言えば僕にとって世界なんてどうでもいい。

 僕はただ、メルザと大公殿下……それに七度目(・・・)の人生で出逢った、大切な人達が幸せに暮らせる、ほんの小さな世界だけ守れればいいのだから。


「ヒュー……本当に、あなたは……!」

「はっは! 全く、婿殿には敵わんわい!」


 メルザが僕の胸に飛び込んで頬ずりをし、大公殿下がそのごつごつとした大きな手で僕の頭を撫でてくれた。

 僕の大切なものが、今、確かにここにあった。


「……フフ、ヒューゴ君は僕やエルなんかより、余程家族(・・)をしているんだね……」


 そう言うと、父君が苦笑した。


 だけど。


「フン、やっぱり気に入らん。貴様、そこまで大きな口を叩いたのじゃ。ならば、貴様の吐いた言葉に偽りがないか、(わらわ)に示してみせよ」


 母君は鼻を鳴らし、吐き捨てるように告げる。


「……それは、どういう意味ですか?」

「貴様の持つ、その得物(・・)。それを用いて、この(わらわ)を服従させてみせよ。ならば、貴様の望むようにしようぞ」


 そう言うと、母君は牙を剥き出しにして、獰猛な笑みを浮かべた。

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