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弟が抱く、邪な感情

「では、私はこれで失礼……っ!?」


 離れの屋敷の応接室の前、エレンが深々とお辞儀をして立ち去ろうとしたところで、彼女は顔をしかめながら応接室の扉を見つめた。


「? どうした?」

「あっ!」


 その様子が気になったので、応接室の扉の前に近づくと。


「……私には話なんてありませんので、どうぞお引き取りを」

「ハハ、そんなこと言わないでくださいよ。俺達、家族になるんですから」


 ……不機嫌なメルザの吐き捨てる言葉と、失礼極まりないルイスの横柄な声が聞こえてきた。


 ――ガチャ。

「! ヒュー!」


 僕は無言で応接室に入ると、パアア、と笑顔を見せるメルザは打って変わって嬉しそうに僕の名前を呼んでくれた。


「……ルイス、今まで一度も離れに足を運んだことがないオマエが、一体何の用だ」

「やだなあ兄さん。新しい家族になるメルトレーザ様と仲良くなりたくて、こうやって来たんじゃないか」


 低い声で尋ねると、ルイスは肩を(すく)めた。


「へえ……父上は夕食の際に顔合わせを、と言っていたのに、オマエはそれを無視するんだな。エレン」

「あ、は、はい……」

「僕が不在の時に勝手に(・・・)ルイスがメルザに会いに来たと、今すぐ父上に伝えてこい」

「っ! ……兄さん、いいの? 逆に叱られるのは兄さんだと思うけど?」


 エレンに指示を出すとルイスは一瞬息を飲んだが、逆に僕に脅しをかけてきた。


「構わない。それと、今回の件はウッドストック大公殿下にもちろん伝える」

「…………………………チッ」


 これ以上はまずいと思ったのか、ルイスは舌打ちをして応接室から出て行った。


「……エレン、何をしている。早く父上のところに行くんだ」

「で、ですが……」

「もし伝えないなら、夕食の時に直接話すまでだ」

「……かしこまりました」


 そこまで言うと、エレンは渋々といった様子でようやく父上の元へ向かった。


「……メルザ、本当にすいません」

「ふふ、大丈夫ですよ。あのような輩がウッドストック大公の孫娘である私に手出しできるはずがありませんし、万が一そのようになっても、ヴァンパイアの私に(かな)うはずがありませんから」


 (そば)に来たメルザが、頭を下げて謝る僕の顔を(のぞ)き込みながら微笑んだ。


「ですが……あのルイスという男は、あなたの婚約者である私に対して、(よこしま)な感情でいやらしい視線を向けてきました。なので、ヒューは責任を取って私を気分よくしてください」


 そう言って、メルザが僕の胸にしなだれかかり、頬ずりをする。


「ええ……僕にできることなら何でも」

「ふふ、言いましたね? でしたら……ヒューに膝枕をしてほしいです」

「膝枕、ですか……」


 それくらいお安い御用だけど、それだと僕にとってもご褒美みたいになってしまうな。


 じゃあ。


「キャッ!」


 僕はメルザにお姫様抱っこをすると、そのままソファーへと運ぶ。


「メルザって華奢(きゃしゃ)で軽いんですね」

「でしたらよかったです……」


 ゆっくりとソファーに降ろし、僕の膝へそのままメルザの頭を乗せた。


「ふふ……ヒューの太もも、温かいですね……」

「それはよかった」


 その艶やかな黒髪を、優しく撫でる。


「ところで……グレンヴィル侯爵とはいかがでしたか……?」

「はい……」


 僕は、グレンヴィル侯爵とのやり取りなど、メルザと別れてからここに戻ってくるまでの一連の出来事について説明した。


「……そうですか。あのメイドが……」

「ええ……さりげなく僕の背中に触れてきましたので、まず間違いないかと。それに、思い起こせばこれまでも似たようなことがありましたし……」


 そう……メルザが発見してくれた精神魔法の残滓(ざんし)は、背中にあった。

 つまり、この背中に触れることでメルザの言う術式を構築していたということだ。


「……精神魔法もさることながら、私の(・・)ヒューの背中に触れるなんて、いい度胸ですね」


 恐ろしく冷たい声でそう呟くメルザ。

 ……その前にしなだれかかってきたことは、黙っておこう。


「今から考えれば、ルイスと途中で出くわしたのは、僕がメルザから離れるのを見計らっていたのでしょう……」

「ハア……キモチワルイ」


 うん……僕も、あんなのが血の繋がった弟だなんて……無理。

 なのに、洗脳のせいで前の人生の自分は尽くしていたんだよなあ……。


「……とにかく、グレンヴィル侯爵も一週間後に婚約式を執り行うことについて賛同したんです。あと一週間、絶対にヒューにつらい思いなんてさせませんから」


 メルザは胸の前で両手の拳を小さく握った。


「僕もです。メルザに嫌な思いをさせないよう、絶対に守ってみせますから」


 そうだとも。ルイスの奴がどれだけちょっかいを掛けてこようが、全部僕が追い払ってみせる。

 そのためには。


「なのでメルザ。これからはずっと、僕の(そば)にいてください。ルイスが近づく隙もないほどに」

「あ……ふふ、それは素晴らしいですね……」


 メルザは嬉しそうに微笑むと、僕の手を取って頬ずりをした。

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