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メルザの両親

「フン……貴様のような男、この(わらわ)は認めぬぞ!」


 腰に手を当て、母君は鼻を鳴らしてそう叫んだ。


「え……?」


 その言葉に、僕は思わず絶句した。


「っ! 勝手なことを言わないでください! 突然現れて母だと名乗った挙句、私の(・・)ヒューを認めないなどと……! そんなこと、私は絶対に受け入れません!」


 今まで隠れていたメルザが僕の前に躍り出て、母君に対して拒否を示す。


「全く……黙って聞いておったら、この私が(・・)認めた・・・・を、部外者(・・・)のお主が認めぬ、じゃと?」


 すると今度は大公殿下も僕の前に来てメルザと並び、恐ろしく低い声でそう告げた。

 メルザ……大公殿下……。


「な、なんじゃ……ふ、二人共、これでは(わらわ)が悪者ではないか……」


 そんな二人の剣幕に、母君が困惑した表情を浮かべながらたじろぐ。


「ふふ……エル、そりゃあ今まで放ったらかしにしておきながら、いきなり現れてそんなことを言ったら父上もメルも、怒るに決まってるよ」

「オ、オラシオ……じゃが……」


 そこへ、眼鏡をかけた優しそうな表情の男性が、微笑みながら母君へと声をかけた。

 でも、その名前は……。


「オラシオ……生きて、おったか……」

「父上……おかげさまで、生き恥をさらしております」

「馬鹿者が……」


 やはり、メルザの父君で大公殿下の実のご子息……“オラシオ=オブ=ウッドストック”だった。


 すると。


「あ……」

「ふふ……あの(・・)父上に認められるなんて、君はすごいね。しかも、あれだけ可愛がっていたメルの婚約者として受け入れているんだからね」


 メルザの父君は、(かしず)く僕を抱き起こすと、ニコリ、と微笑んだ。

 その優しさが滲み出た表情は、メルザとそっくりだな……。


「あ、ありがとうございます! その……ヒューゴと申します!」

「うん、僕はオラシオ。知ってのとおりメルの父親だよ。といっても、父親失格(・・・・)だけどね」


 そう言って右手を差し出すと、父君が苦笑した。


「その……お話は大公殿下からお伺いしているのですが……今まではどうなさっていたのですか……?」

「それについては、場所を変えて落ちついて説明しよう。父上、僕達の部下を含め、屋敷へ行ってもいいですか?」

「……私が断ったところで。どうせ来るのじゃろう? それに、メルと婿殿のために、話を聞かねばならぬしの」


 大公殿下は、顔を背けながら渋々了承する。

 だけど……あはは、大公殿下も素直じゃないなあ……。

 本当は、メルザの父君が無事だったことが嬉しいくせに……って。


「うう……メルにも御父上にも嫌われて、しかもどこの馬の骨かも分からぬ小僧に居座られるとは……」

「ふふ、まあまあ。僕も、彼……ヒューゴ君は気に入ったけどね」

「オラシオまで!?」


 ……とりあえず、義母上に認めてただくには、時間がかかりそうだなあ……。


 ◇


「それで……今まで何をしておったのじゃ?」


 現場の後処理をパートランド卿に一任し、大公家の屋敷へと戻った僕達は、応接室で父君と母君から話を伺うこととなった。

 そして大公殿下はジロリ、と父君と母君を交互に見やりながら、低い声で尋ねる。


「うん……まず、僕が父上の部隊からはぐれてしまったところから説明するよ」


 そう言うと、父君が訥々と語り始めた。


 まず、先のオルレアン王国との戦において、敵の指揮官により部隊を分断されてしまった父君は、部下を散開させて大公殿下のいる本隊に合流するように指示を出し、父君自身も本体への合流を目指した。


 だけど、運の悪いことにオルレアン王国軍の部隊と鉢合わせとなってしまい、そのまま戦闘。かろうじて逃げることに成功したものの、父君は重傷を負ってしまった。


 生死を彷徨う父君だったが、たまたま逃げ込んだ場所がよかった。

 そこは、今では数少ない魔族の集落だったのだ。


 父君は魔族の方々の治療を受け、一か月後には無事に回復した。

 そして、いよいよ皇国へと戻ろうとした、その時。


 魔族の集落が、サウセイル教授とその部下に襲撃を受けた。

 目的は、人間よりも魔力の多い魔族を狩り、その魔力を抽出するため。


 その時、皇国を飛び出して父君を捜索していた母君がサウセイル教授の魔力を感知し、その現場に現れたことで父君と再会、サウセイル教授との戦いとなった。


 サウセイル教授に回復魔法や少々の魔力供給では治癒できないほどの傷を与え、退けたものの母君自身も深手を負い、そのまま魔族の集落で夫婦揃って身を落ち着けることになってしまった。


「……それからは、あの“原初の魔女”の手の者から逃れるために集落を移動させると共に、今も捜索にやって来る連中との小競り合いを繰り返して今に至る、といったところだよ」


 一気に話し終えた父君が、深い息を吐いた。


「……まあ、事情は分かったわい。じゃが、王都におる諜報員に手紙の一つや二つ渡して、連絡を寄こすことくらいできたじゃろう。何故それをせなんだ」

「残念ながら、王都周辺は全て“原初の魔女”の管理下に置かれていた。僕達が姿を見せた時点で、集落が被害を受ける危険があった」

「むう……」


 肩を竦める父君の説明に、大公殿下が唸った。


「……父上とメルには、本当に申し訳ないと思っています。ですが、僕は救ってくれた魔族のみんなを、見捨てるなんてことはできなかった」

「オ、オラシオは何も悪くないのじゃ! 悪いのは、全部あの“原初の魔女”の奴で……!」


 そんなことを言いながら、父君と母君が必死で謝罪する。

 でも、そんな二人のことなんかよりも。


「…………………………」

「…………………………」


 僕は、複雑な表情を浮かべている、メルザと大公殿下のほうが心配で仕方なかった。

 一番つらい思いをしてきた、僕の大切な家族のほうが。


 だから。


「……差し出がましいですが、僕にはお二人が本当に謝っているようには思えません」


 メルザのご両親に対し、僕は静かにそう告げた。

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