ヴァンパイアの真祖
僕がサウセイル教授へ向かって飛び出そうとした、その時。
「「っ!?」」
――突然、サウセイル教授の胸が、一本の白く細い腕によって貫かれた。
だ、だけど、白い腕以外は僕達の目には映っていないぞ!?
これは一体……。
「あ、あらあら~……まさか、あなたがここで参戦してくるだなんて、思いもよらなかったわ~……」
っ!? サウセイル教授の知っている人物なのか!?
すると。
「ヒュー!」
メルザに名前を呼ばれ、僕は我に返る。
そ、そうだ、ただ呆けていても仕方がない。とにかく、あの腕の正体が分からない以上、警戒をするに越したことはない。
僕はメルザの前に立ち、背中に庇う。
「と、ところで、どうしてここへ~? やっぱり、娘は可愛いのかしら~?」
「フン……そんなこと、この妾が答える義理などないの」
口から血を吐きながら尋ねるサウセイル教授に、白い腕の持ち主が尊大に答えた。
声を聞く限り、どうやら女性のようだ。
「それで、どうするのじゃ? このまま前と同じように、妾と千日手を続けるかの? その間にも、貴様の手塩にかけた子どもとやらが、全員死ぬことになるじゃろうて」
「っ!?」
白い手の持ち主が告げた、その瞬間。
「目標、“グラン・グリモワール”! 全員放てえええええッッッ!」
突如現れた者達から、一斉に攻撃魔法が放たれた!?
しかもあの容姿……ひょっとして、魔族か!?
「ヒュー……わ、私達はどうすればいいんでしょうか……」
「分かりません……ですが、少なくともあの魔族とサウセイル教授達は敵同士のようです」
でも、だからといって魔族が僕達の味方かどうかは分からない。
今は、下手に動かないほうが得策だろう。
「あは♪ 訳が分からなくなってきたわね♪」
「ああ……」
アビゲイルとモニカ教授も傍にやって来て、ポツリ、とそう呟く。
だけど、一人だけ全く違う反応を示す人がいた。
「こ、この声は……っ!?」
大公殿下が、わなわなと震えながら周囲を見回す。
その言葉と反応から察するに、大公殿下は魔族に指示を出した声の主に、心当たりがあるみたいだ。
「大公殿下……知っているのですか……?」
「む、婿殿……うむ……分からぬはずがない……この、声の主は……」
そう口を開いた、その時。
「……ここで何もできないまま、ただあの子達を失うのは得策じゃないわね~」
「ほほう? では貴様、大人しく帰るのかの?」
「ええ、そうね~……!」
サウセイル教授が、夜空に向かって光属性魔法を放つ。
「「「「「っ!」」」」」
どうやら、それが合図だったのだろう。
五人の男女は、一斉に転移魔法陣が描かれた羊皮紙を空中にばら撒いた。
そして。
「じゃあね~……次は、先にオマエを潰すから」
怨嗟の言葉を吐きながら、サウセイル教授と五人の男女は、皇都の空から消えた。
「……とりあえず、サウセイル教授達の企みを阻止できた、ということでいいんですよね……?」
「そのよう、ですね……」
光の巨大魔法陣も消え、僕とメルザは肩を寄せ合いながら夜空を眺める。
「ふむ……お久しぶりでござりまするな、御父上」
「……フン、私よりはるかに年上の者にそのように呼ばれても、嬉しくもないわい」
後ろから聞こえた、大公殿下と女性とのやり取りを聞いて、僕とメルザは慌てて振り向いた。
そこには……白銀の長い髪、真紅の瞳、透き通るような白い肌……そして、可愛らしい口から特徴的な牙を覗かせる、一人の少女がいた。
「ふむ……そこの小僧は知らぬが……お主、メルか?」
「「っ!?」」
メルザを“メル”と呼ぶ、目の前の少女。
間違いない。
この、少女は。
「お母……様……?」
「……大きくなったの」
――ヴァンパイアの真祖にしてメルザの母親、“エルトレーザ=オブ=ウッドストック”だ。
「ホホ……さあ、母の胸に飛び込んで……は、くれんのか?」
「…………………………」
両腕を広げ、待ち構える母君に対し、メルザは訝しげな表情を浮かべながら僕の背中に隠れてしまった。
悪意や嘘が見抜けるメルザだから、目の前の少女が実の母親だということは分かっているはず。
だけど……だからといって、赤ん坊の頃に行方不明になっていた母親が、突然目の前に現れたからって、すぐに受け入れられるわけじゃない、よね……。
「……私の可愛いメルにそのように懐かれておる貴様、何者じゃ?」
まるで娘に嫌われてしまった腹いせとばかりに、ジロリ、と僕を睨みつける母君。
そ、そうだ、ちゃんと挨拶をしておかないと。
「は、はじめまして、義母上。僕はメルザの婚約者の、ヒューゴと申します。元グレンヴィル侯爵家の長男でしたが、今はいみじくもウッドストック姓を名乗らせていただいております」
僕はそう告げ、メルザの母君の前で胸に手を当てて傅いた。
すると。
「フン……貴様のような男、この妾は認めぬぞ!」
腰に手を当て、母君は鼻を鳴らしてそう叫んだ。
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