皇都の攻防③
「……あ」
「悪いね」
僕は翼の少女の首を、黄色の大蛇の胴体と一緒に一閃した。
すると、翼の少女の頭が首からゆっくりとずれ、そのまま地面へと落下していく。
「あああああ!? ミシェル! ミシェル!」
ハニーブロンドの女は、絶望の表情で必死になって少女の首へと手を伸ばす。
でも……その叫びはもう、翼の少女には届かない。
「貴様あああああああああッッッ!」
エタンが、建物の屋根に着地した僕達に向かって絶叫した。
はは……オマエ達は平気で人を殺すのに、仲間が殺されれば怒り狂うんだな。
本当に、勝手な連中だ。
「だけど……やはり、今回であの連中は打ち止めみたいですね」
「ああ」
僕の言葉に、モニカ教授が口の端を持ち上げ、犬歯を見せた。
元々、命のストックが三つしかないということなのか……?
いや……それだったら、あのハニーブロンドの女はまだ一回しか倒していない。
なら、それ以外の理由があって死ねなかった、そう考えたほうがよさそうだ。
そして。
「……やってくれましたねッッッ!」
その理由は、あのサウセイル教授を激昂させるほどのものだったみたいだ。
「あはは、このままこの魔法陣ごと引き下がってくれると嬉しいんですけど」
「馬鹿な事を言わないでちょうだい! 絶対に、皇都消失は完遂させるわ! あなた達!」
「「「「「はい!」」」」」
残る五人が、サウセイル教授の合図で一斉に散開した。
一体何を……?
「ふふ、させませんよ。【雷槍】」
「「「「「っ!?」」」」」
その時、クスリ、と微笑むメルザの声と共に、五本の雷の槍が連中に向かって放たれた。
「チッ!」
「鬱陶しいわね!」
「「もー!」」
五人は雷の槍をかろうじて避ける。
あの翼の少女を失って、もう防ぐ術がないからね。
「ヒュー! サウセイル教授の狙いが分かりました!」
「っ! メルザ、それは本当ですか?」
「はい! あの五人が向かおうとした先、そしてこの光の魔法陣……つまり、五人は自分の身体を媒介にして、転移魔法を発動させるつもりです!」
っ!? 自分の身体を媒介に!?
だけど……そうか! 転移魔法陣の発動には、それに見合うだけの魔力を秘めた四つの魔石が必要!
つまり。
「連中は、自分達の身代わりの命全てを差し出したということか……!」
それを理解した途端、僕は思わずサウセイル教授を睨んだ。
「サウセイル教授……あなたは、この連中の命を引き換えにしてでも……」
「ええそうよ! そのために私は、この子達を作ったんですもの!」
すると、サウセイル教授が魔法陣が描かれた瞳孔を開きながら、嬉々として語り始める。
皇都消失という、膨大な魔力を持つ魔石が存在しない今、それに代わるものを作ることを考えたこと。
そのために、魔力量の多い人間や魔族を捕まえては、魔力抽出を長年行ってきたこと。
そんな膨大な魔力を蓄え続け、封じ込める器を求め、さらに多くの人間や魔族、その他の種族から選別をしてきたこと。
そして。
「うふふ! 私は六人の子ども達を手に入れた! 魔族から二人! 人間から三人! そして、天使族から一人!」
「…………………………」
「大変だったわ~……だって、膨大な魔力を入れても壊れない、そんな特殊な身体を持っている者なんて、三百年間彷徨っても六人しか見つからないんですもの!」
「そう、ですか……」
高らかに叫ぶ彼女を見て、僕はポツリ、と呟く。
この“原初の魔女”、シェリル=ダスピルクエット=サウセイルという女は、サウザンクレイン皇国建国時……いや、それ以前から存在し、ただこの時のために長い時間を捧げてきたという事実。
何のために、そんな気の遠くなるようなことをしてきたのか、それは僕には分からない。
でも、彼女にはそれをするだけの理由があった、そういうことなのだろう。
だけど。
「……あなたが何を想い、何を求めているのかは分かりません。ですが……僕は、そんなあなたを止めます。止めてみせます。僕と、メルザの未来のために」
「うふふ! 言うじゃない! だったら止めて見せなさいな! この私の、狂おしいほど求めるこの想いを!」
僕はサーベルの柄に手をかけ、ゆっくりと低い体勢を取る。
すると。
「ヒュー……」
「メルザ……これで、終わらせましょう」
「はい……!」
メルザが、僕の背中にそっと手を添える。
そして、僕はサウセイル教授へ向かって飛び出そうとした、その時。
「「っ!?」」
――突然、サウセイル教授の胸が、一本の細く白い腕によって貫かれた。
お読みいただき、ありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!




