表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
205/241

皇都の攻防①

「うふふ、傷つけるどころか、皇国なんて全て消してしまうわよ~! この私を裏切り、引き離そう(・・・・・)とした(・・・)皇国なんてッッッ!」


 たとえ敵に回ったとしても、常に(ほが)らかな表情を浮かべていたサウセイル教授。


 そんな彼女が僕達に対し、初めて激情を露わにした。


「あはは、やっと人間らしい(・・・・・)ところを見せてくれましたね」

「余計なお世話ですよ~」


 僕がおどけながらそう言うと、サウセイル教授はまたいつもの笑顔に戻り、そう言った。


 だけど……そうか。

 サウセイル教授は、この皇国に対して怨嗟(えんさ)の念を抱いていた、ということか……。


「サウセイル教授」


 大公殿下に目配せをした後、僕は上空の彼女の名を呼んだ。


「? 何ですか~?」

「実は僕、このサウザンクレイン皇国そのもの(・・・・)に、思い入れなんてないんですよ」

「あらあら、そうなんですか~?」

「はい」


 僕の言葉に、サウセイル教授が興味深そうな表情を浮かべた。


「僕は十四歳の誕生日を迎えるその時まで、実の父であるジェイコブ=グレンヴィルとその家族に人としての尊厳を奪われ、ただ受け入れて生きてきました」

「はいはい、それで~?」

「そんな僕を、皇国は助けてはくれませんでした。それどころか、こんな目に遭ったのは今の皇帝陛下が僕の母に懸想していたことが原因だったんです。そのせいで嫉妬したグレンヴィルが勘違いして、この僕を蔑ろにすることで溜飲を下げていたんです」

「なるほど~……うふふ、でしたらこの私と一緒に、この皇国を更地にして地図から消してしまいませんか~? 実は私、ヒューゴさんのこと気に入っておりますから~」

「っ!? シェリル様!?」


 僕の身の上を聞いたサウセイル教授が、口の端を吊り上げて勧誘をしてきた。

 それを、彼女の隣にいた六人が驚きの声を上げる。


「…………………………」


 一方で、僕の最愛の女性(ひと)であるメルザは、その真紅の瞳でただジッと、僕を見つめていた。

 揺るぎない、意思を込めて。


「残念ですが、それはできません」

「あらあら、そうなんですか~? ですが、私の元に来れば、何だって叶えてあげますよ~? 例えば、あなたの隣にいるメルトレーザさんとの幸せな毎日、とか~?」

「あはは、それは別に、あなたの力を借りなくてもメルザと幸せな毎日を過ごしていますから、間に合ってますよ」


 そう言って、僕はサウセイル教授の提案を一笑に付す。


「僕はですね、あのグレンヴィル家を自ら出て、何よりも大切なもの(・・・・・)に出逢ったんです。最愛の女性(ひと)、最愛の家族、最高の仲間……」

「……………………」

「それだけじゃない。あの日(・・・)から出逢ってきたたくさんの人が、僕のかけがえのないものになっているんです。だから」


 僕は一拍置き、すう、と息を吸う。


 そして。


「僕は、大切な人達の幸せを、守り抜いてみせる。僕自身の幸せのために」


 静かにそう告げると、サーベルを抜いて切っ先をサウセイル教授に向けた。


 その瞬間。


「総員! 一斉に放て!」

「「「「「おおおおおー!」」」」」


 大公殿下の声が夜の皇都に響き渡り、突然現れた兵士達が一斉に矢を射かける。

 それに合わせ、魔法使いで編成された部隊が、攻撃魔法を次々と放った。


「……あらあら、ひょっとして私達、待ち伏せされていたのかしら~?」

「そういうことになりますね」


 そう……たとえ洞窟を破壊したからといって、サウセイル教授達が皇都に仕掛けてこないという理由にはならないと考えた僕達は、この日のために準備をしておいた。


 皇宮周辺の住民にはこの一か月の間に別の場所へと一時的に移住してもらい、民家や商店の建物に大量のスコーピオンを配備する。

 あとは、この時のために兵士を配置しておき、現れたら大公殿下の合図で一斉掃射を行う。


 もちろん、あの“原初の魔女”をこんなもので倒せるなんて思っていない。

 実際、サウセイル教授は迫りくる全ての矢や魔法を消失させているしね。


 でも、そのおかげで。


「あは♪ 取りついた♪」

「覚悟!」

「「「「「「っ!?」」」」」」


 スコーピオンから放たれた巨大な矢に紛れ、上空へと飛んだアビゲイルとモニカ教授が、例の六人へと攻撃を仕掛ける。

 この攻撃こそが、僕達の本命だ。


「ちいっ!? 本当に面倒だな!」

「……邪魔」


 そんな二人を排除しようと、取りつかれたエタンと翼の少女が振り払おうとする。

 だけど、そうはさせない。


「【雷槍】」


 メルザの右手から、巨大な雷の槍が六人目がけて放たれる。

 あの翼の少女をモニカ教授が抑えてくれているおかげで、あの連中にメルザの魔法を防ぐ(すべ)はない。


「……本当に、面倒ですね~」


 忌々しげな表情を浮かべたサウセイル教授は、六人のほうへ視線を向けて加勢しようと手をかざした。


「婿殿!」

「っ! 大公殿下!」


 大公殿下が構えるハルバードに、僕は飛び乗る


 そして。


「おおおおおおおおおおおおおおッッッ!」


 激しくも雄々しい“戦鬼”の雄叫びと共に、僕はサウセイル教授へ向けて矢のように放たれた。

お読みいただき、ありがとうございました!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、

『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ