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かけがえのないもの

「あれは……!?」


 皇都の夜空に浮かび上がった、超巨大な光の魔法陣を見上げ、僕とメルザは声を失う。

 もちろん、これはサウセイル教授の仕業だということは理解している。


 だけど、これは……。


「ど、どうして……転移魔法陣を描いていた洞窟は破壊と埋め立てをしましたから、発動は不可能なはずなのに……」


 メルザが口を震わせ、不安そうな表情を浮かべながら魔法陣を見つめる。


「分かりません! ですが、僕達はあれを止めないといけない!」

「っ! はい!」


 僕はメルザと手を繋ぎながら駆け出した。


 すると。


「メル! 婿殿!」

「大公殿下! それにみなさん! 行きましょう!」


 屋敷を飛び出してきた大公殿下達と合流し、僕達は光の魔法陣の中心へと急行する。


「あ、あれを見てくれ!」


 モニカ教授が指差した先……そこには。


 ――“原初の魔女”、シェリル=ダスピルクエット=サウセイルと、“グラン=グリモワール”の六人の男女がいた。


「チッ……やはり生きていたか」


 それを見て、僕は思わず舌打ちをした。

 確かに胴体を真っ二つにしたはずなのに、サウセイル教授は五体満足の姿で魔法陣の上に浮かんでいる。それは、他の六人も同様に。


「……今度は私も、油断いたしません。あの時の借りは返させていただきます」


 そう言うと、メルザは牙を見せてギリ、と歯噛みした。

 そうだった……あの時、メルザはサウセイル教授に危うく連れ去られてしまうところだったんだ。


「メルザ……今度こそ(・・・・)、僕があなたを守りますから……!」

「いいえ、ヒュー。あなたが私を守ってくださったからこそ、今こうしてあなたの隣にいられるのです。それに、今度は私の番です」


 メルザが僕の手を握り、ニコリ、と微笑む。

 彼女はいつもそうだ。いつも、僕のことばかり気遣ってくれて……。


 そんなあなただから、僕はどうしても守りたいんです。

 誰よりも、大切なんです。


 だから。


「なら、あのサウセイル教授を退けたあかつきには、この皇都で最高の夜を過ごしましょう。あの屋台のおじさんから、たくさんデザートを買い込んで」

「ふふ! それはいいですね!」


 僕の提案に、メルザがパアア、と咲き誇るような笑顔を見せてくれた。


「はっは、全く……これから皇国の存亡をかけた戦いがあるというのに……」


 そんな僕達を見て、大公殿下が苦笑する。


「……いけませんか?」

「はっは! まさか! それでこそ我が孫娘、それでこそ我が息子(・・)じゃわい!」


 メルザがジロリ、と見つめながらそう言うと、大公殿下は破顔して僕とメルザの頭を撫でてくれた。

 その、ごつごつとした大きな手で。


「フフ……夜の逢引きをする際には、私のお店の売り上げに貢献してくださいね?」

「え? アビゲイルさん、売り上げなんて気にしていらっしゃったんですか?」

「あは♪ それ、どういう意味♪」


 僕の言葉に、アビゲイルが暗殺者の顔になってジト目でこちらを見てる……き、気をつけよう……。


「むむ……! そ、それは独り身であるこの私への当てつけか!? 当てつけなのだな!?」

「あああああ! 違います! 違いますから!」

「そ、そうです! きっとモニカ教授にも、私のように素敵な御方が……!」


 僕達を見ていじけてしまったモニカ教授を、僕とメルザは必死でなだめる。


 だけど……ああ、いいなあ……。

 ここには今、いつもと変わらない、僕の大切なものが詰まっている。


 僕は……絶対に、このかけがえのないものを守ってみせる。


 だから。


「さあ! 夜空に浮かんでほくそ笑んでいるあの七人を倒し、僕達の大切な日々を守りましょう!」

「「「「おおー!」」」」


 気勢を上げ、僕達は馬車を降りて魔法陣の上……こちらを見下ろし、クスクスと(わら)っているシェリル=ダスピルクエット=サウセイルを見上げた。


「あらあら、この前は(・・・・)どうも~」

「こちらこそ。それにしても、あの洞窟はこの僕達が破壊したのに、よくこんな巨大な転移魔法陣を発動できましたね」

「そんなことないわよ~。邪魔をしてくれたオマエ(・・・)のせいで、こんなに小さくなってしまったもの~」


 そう言うと、サウセイル教授は一転、険しい表情で僕を見据えた。

 でも、確かに洞窟の規模から考えれば、この魔法陣はせいぜい皇宮と皇都中心部の一部の範囲に留まっている。

 それだけでも、僕達はサウセイル教授の企みを阻止できてはいるようだ。


「だったらもう諦めて、オルレアン王国の片隅で大人しくしていてくれませんか? 別に今さら、皇国に未練なんてないでしょう?」

「大ありよ~! 私は、このサウザンクレイン皇国が欲しくて、こんなことをしているのだから~!」

「皇国が欲しい?」


 サウセイル教授の言葉に、僕は首を傾げる。

 そういえば、サウセイル教授は元々、子どもを実験用にするとともに、魔力を吸収することで若さを保つ目的で人身売買の取引をして、その結果この国を追われたんだった。


 なのに気づけば、実は彼女がオルレアン王国の回し者で、今度は皇国が欲しいと言い出した。


「……それは、オルレアン王国として、この国が欲しいという意味ですか?」

「違うわ。この“原初の魔女”、シェリル=ダスピルクエット=サウセイルがこの国を欲しいのよ」

「だったら、皇都を消そうとするのはおかしいのでは? ここは文字どおり皇国の中心。そこを消してしまっては、あなたが欲しがっている皇国に傷がついてしまいますよ?」


 そう……サウセイル教授は皇国が欲しいと言っているのに、あえて皇都を消そうとしていることに違和感を感じていた。


 例えばこれが、オルレアン王国のように領土支配を図るという目的なら、まだ少しは理解できる。

 だって、皇国を滅ぼして支配下に治めるためには、皇国を象徴するようなものは邪魔でしかないから。


 だけど、サウセイル教授は個人として(・・・・・)皇国を欲しがっている。

 なら、皇国を大切に想っていると考えるのが普通だけど、そんな様子は一切感じられない。


 だとしたら、何故……。


「うふふ、傷つけるどころか、皇国なんて全て消してしまうわよ~! この私を裏切り、引き離そう(・・・・・)とした(・・・)皇国なんてッッッ!」


 たとえ敵に回ったとしても、常に(ほが)らかな表情を浮かべていたサウセイル教授。


 そんな彼女が僕達に対し、初めて激情を露わにした。

お読みいただき、ありがとうございました!


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