夜空の魔法陣
「いよいよ、あと数時間でサウセイル教授が言っていた半年を迎えますね……」
僕とメルザ、大公殿下、モニカ教授、アビゲイル、そしてヘレンの六人は、大公家の応接間に集まりその時を、固唾を飲んで待っていた。
なお、洞窟についてはパートランド卿と大勢の兵士達が中と外を警護しており、サウセイル教授達が現れた際には通信用の魔道具で連絡をもらう手筈となっている。
また、万が一の時のために、皇帝陛下やクリフォード皇子といった皇室の方々、それにシモン王子達にも適当な理由をつけて皇都を離れてもらっている。
クリフォード皇子とシモン王子に関しては、僕達と一緒に皇都に残ると聞き分けのないことを言ったので、皇帝陛下の強権によって無理やり離れてもらった。
本当に、僕のことを親友として見てくれているのはいいけど、逆に懐きすぎてこういう時は面倒だ。
「ヒュー……サウセイル教授達は、来ると思いますか?」
「そうですね……状況として半々、といったところでしょうか」
僕達があの洞窟内の魔石設置場所である石の扉を破壊して埋め立て、さらには洞窟全体に穴を開けたり埋めたりすることで転移魔法陣としての役割を果たせなくしてある。
さすがに極大規模の転移魔法の行使は不可能だとは分かっていながらも、あの“原初の魔女”、シェリル=ダスピルクエット=サウセイルが簡単に諦めるとも考えづらい。
なら、この皇都に襲撃してくることを前提として考えるべきだ。
そして、再び現れた場合は、まだ他にも皇都を消失させる方法があるということ。
僕達はそれを見つけ出し、絶対に阻止しなければならない。
「はっは! 心配するな婿殿! なあに、シェリルとあの連中が来おったら、その時こそ何かしよる前にハルバードの錆にしてくれるわ!」
「うむ! 今度こそ、この私がシェリルを止めてみせる!」
大公殿下とモニカ教授が気勢を上げる。
「あは♪ 今度こそ、ちゃんと調理したいものね♪」
ニタア、と口の端を吊り上げ、アビゲイルはククリナイフを器用に回した。
「及ばずながら、私もヒューゴ様のお力に……!」
「ヘレン、君にはこの屋敷でセルマや他の使用人達を守ってもらうという役割がある。頼んだぞ」
「はい!」
うん、ヘレンは自分の力をちゃんと弁えている。これなら、安心して後ろを任せられるな。
「さて、と……すいません、僕は少し夜風に当たってきます」
「ヒュー、私もご一緒します」
「うむ、ゆっくりしてくるとよい」
微笑むみんなに見送られ、僕はメルザの手を取っていつもの庭園へと向かった。
◇
「ああ……今日も月が綺麗ですね」
「はい……」
庭園に来た僕とメルザは、ベンチに座りながら明々と輝く満月を見上げていた。
「そういえば、ヒューがサウセイル教授との戦いで起きた、止まった世界を体験することはないのですよね……?」
「はい。あれ以来、一度もありません」
心配そうに僕の顔を覗き込むメルザに、僕はゆっくりと頷いてみせた。
あの現象が起きて以降、僕はメルザと共に同じようなことが過去にあったかなどを含め、クリフォード皇子に頼んで皇宮の蔵書庫まで行って調べたりした。
だけど、そんな現象に関する記述は一切見つからず、今もあの奇跡は謎のままだ。
「ヒュー……これは、あくまでも私の思いつきでしかないのですが……」
「? はい」
何故か少し躊躇う様子を見せるメルザ。
何か僕に対して言いにくいことでもあるんだろうか……。
「その……ヒューはこれまで六度の人生を体験し、今は七度目の人生を私と共に歩んでいます」
「はい……」
「初めてお逢いした時の、ヒューの中に魔族の血が混ざっているという話を覚えていらっしゃいますか?」
「ああ、そういえば……」
確か僕の血を初めて飲んだメルザが、すぐに僕の瞳を確認してそのことに気づいたんだったけ。
そして、それこそが僕の死に戻りの原因だということだったはず。
「で、ですが、それが何か?」
「よく考えてみてください。死に戻るということは、過去に戻るということです」
「あ……!」
メルザにそう告げられ、僕はようやく気付く。
そうだ……もし、この前の現象が僕の能力によるものだと仮定した場合、それが示す答えは……。
「僕が、時を止めた……?」
あり得ないことだけど、あり得なくはない。
だって僕は確かに、僕の中に流れる魔族の血によって、六度も死に戻りをしたのだから。
「つまり……」
「ヒューの能力は、時を操る能力」
メルザが、僕に代わってはっきりと告げる。
「……このことをあなたに告げるべきかどうか、迷っていました。ですが、もしサウセイル教授が襲撃して同じような状況になった場合、また時を止める能力が発動しないとも限りません。そして、ヒューがその能力を行使したら……」
「……その後は、僕は能力の反動で身動きができなくなる」
この前の時は、サウセイル教授を斬って終わりだったからよかったけど、もし他の連中が健在の中で同じように身動きができなくなったら、その時、僕は無防備になってしまう。
「はい……ですので、ヒューの能力発動のきっかけが分かればその状況は防げますし、何より、ヒューの切り札にもなり得ると思うのです」
「確かにそうですね……」
うん……メルザの言うとおりだ。
この能力を自分のものにできれば、僕はメルザを今以上に守り抜くことができる。
「ありがとうございます……やはりあなたは、この僕になくてはならない女性です……」
「それは私の台詞です……だってヒューは、その能力の使い道を私のためにと考えてくださっているのでしょうから……」
あはは……やっぱりメルザには、僕の考えなんて全部お見通しだ。
でも、彼女の真紅の瞳は、喜びと不安、それに僕への心配で満ちている。
あなたこそ、考えることはいつも僕のことなんですから……。
「あ……」
「メルザ……僕はあなたを好きになって、本当によかった……」
「私も、あなたを好きになって、よかったです……」
僕とメルザは、満月の下でそっと口づけを交わす。
その時。
「「っ!?」」
――皇都の夜空に、超巨大な光の魔法陣が浮かび上がった。
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