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戦いを終えて

 僕達が洞窟内でサウセイル教授達と戦闘してから、一週間が経った。


 あの後、大公殿下の指示を受け、パートランド卿は兵士達に連中の遺体を回収させた後、例の洞窟にあった石の扉四つを全て破壊した。


 加えて、再び侵入できないようにと、その洞窟を全て土や岩で埋めてしまったらしい。

 これなら、仮にあの洞窟に転移したとしても、土と石に(まみ)れることになるだろう。


 また、転移魔法陣はその紋様が変わってしまったら発動できないことを踏まえ、魔法陣を描く洞窟の通路に穴を掘ったり埋め立てたりすることで、その機能を果たせなくしたようだ。


 これなら、仮に洞窟を掘り起こして石の扉を復旧しても、転移魔法は発動できない。


 そして。


「ヒュー……お身体の具合はいかがですか?」

「はい、ようやく痛みも取れてきました」


 心配そうに見つめるメルザに、僕は微笑んで返した。


 そう……サウセイル教授との戦闘時において止まった世界で無理に動いた反動で、僕の身体はかなり負傷していた。

 治癒師に見てもらったところ、全身の筋肉や腱が傷ついていて、回復魔法による治療を行っても二週間の安静を言い渡されてしまった。


 そして今は、僕はメルザに看病してもらっている……というより、メルザが僕をベッドから出してくれないんだけど……。


「ヒューはいつも、頑張りすぎるんです。今回は私がいいと言うまで、絶対にベッドから出てはいけませんからね?」

「はい……」


 うう……身体を動かせないのはつらい……。


「で、ですが、ヒューも身体の痛みが引いてきたということですので、その……もっとよくなるように、身体をほぐしてあげます」


 急に顔を真っ赤にしたメルザが、そんなことを言ってベッドの上に乗ってきた。

 その表情から察するに、僕には逃れる術はないらしい……。


「わ、分かりました……では、お手柔らかに……」

「はい!」


 胸の前で小さく拳を握るメルザ。

 うん、そんな彼女の姿は、尊くて可愛いしかない。


「ではヒュー、うつ伏せになってください」

「こ、こうですか?」


 メルザの指示に従い、僕はうつ伏せになると。


 ――ギュ。


「あ……」


 肩を揉まれた瞬間、僕は変な声を出してしまった。

 い、いやだって、メルザの手が柔らかくて、おまけに優しく揉んでくれたものだから、その……はい、気持ちいいです。


「ふふ……このまま腕や背中、腰もほぐしていきましね」


 そう言って、メルザは順番に優しく揉みほぐしていく。

 ああ……気持ちいい……。


 うっとりしながら枕に顔をうずめていると、僕はまどろみの中へと消えていった。


 ◇


「んう……」

「あ、起きましたか?」


 ゆっくりと目を開けると、同じようにベッドで横になっているメルザの顔があった。


「ひょっとして僕、眠ってしまっていましたか?」

「はい、それはもう気持ちよさそうに」

「あはは……」


 クスリ、と微笑むメルザに、僕は苦笑した。


「ですが、ありがとうございます。メルザに揉みほぐしてもらったおかげで、すっかり身体が軽くなりました」

「ふふ、それはよかったです」


 メルザが嬉しそうに顔を寄せる。

 うん……やっぱりメルザは、綺麗で可愛くて、本当に女神のようだ。


「メルザ……」

「ん……ちゅ……」


 僕はそんな彼女に、そっと口づけをした。


「ね、メルザ……僕の血を吸ってくれませんか?」

「……そうしたいのはやまやまですが、ヒューはまだ療養中です。あなたが完治するまで我慢を……って、キャッ!?」


 残念そうに微笑むメルザを抱き寄せ、僕の上に覆いかぶさるように乗せた。


「メルザが血を吸ってくれるまで、僕はあなたを離しません」

「もう……ヒューったら……」


 苦笑しながらも、どこか嬉しそうにするメルザ。


 そして。


 ――かぷ。


「は……む……んく、ん、ん、ん……っ」


 喉を鳴らしながら、僕の血を飲むメルザ。


「ぷあ……ああ……! 久しぶりの、ヒューの血です……!」


 恍惚の表情を浮かべ、メルザは頬に手を当てる。

 そんな彼女の姿が、どうしようもなく僕の心を焚きつけた。


「メルザ……」

「あ……ん、ちゅ、ちゅ……ちゅぷ……」


 僕の血の味が残るメルザの口唇を、僕は外も内も堪能する。

 メルザ……僕の、愛しい女性(ひと)……。


「ぷは……ふふ、ヒューはもう、私なしには生きていけませんね」

「もちろんです。僕は、あなたがいなければ七度目(・・・)の人生を絶望の中で終わらせていましたよ」

「そ、それは絶対にいけませんからね!」


 僕が比喩として不用意に放った言葉に、メルザが眉根を寄せながら本気で怒った。

 言葉が過ぎたと思いつつも、こうやって心配してくれて、大切にしてくれる彼女の想いが本当に嬉しくて……。


「あ……」

「当然じゃないですか。あなたがいる世界は、この七度目(・・・)の人生だけなんです。僕は、絶対にあなたを手放したくはありません」

「ヒュー……嬉しい……」


 それから僕達は、ヘレンとセルマが夕食へと呼びに来るまで、ずっと口づけを交わし、抱き合っていた。

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