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原初の魔女、降臨

「ふむ……あの大道芸人、先程から動かなくなってしまったな」


 対峙するメルザと大道芸人を眺めながら、モニカ教授が顎に手を当てる。

 まあ、どんな奇術を使おうとしても、悪意(・・)()を見抜けるメルザには、全て通用しない上に、ちょっとでも仕掛ければ先程みたいにその圧倒的な魔法の餌食になるだけだからね。


「婿殿、このままメルの活躍を眺めておってもよいが、お主はそのつもりはないのじゃろう?」


 そう言うと、大公殿下が口の端を持ち上げる。

 あはは、さすがは大公殿下、よく分かっていらっしゃる。


 そう……僕はこの膠着状態をただ見ているつもりはない。

 何より、僕達はあの男から聞き出さないといけないから。


 メルザの、ご両親について。


「……アビゲイルさんは、ここでジッとしていてください」

「あは♪ 嫌よ♪ 大体、この程度では怪我のうちに入らないわ♪」


 静かにそう告げると、口の端を吊り上げながら不愉快とばかりに僕を睨んだ。

 アビゲイルなら、そう言うとは思ったんだけど。


「では、僕達は距離を取ってあの二人を取り囲むようにしましょう。その上で、少しずつ距離を詰めていくんです」

「うむ」

「分かった」

「あは♪」


 僕はメルザと大道芸人に聞こえるくらいの大きな声で告げ、みんなが頷いて二人を取り囲む。

 あの大道芸人の男は唇の動き又はその耳の良さで、僕達の会話は全て筒抜けだろうから。


 とはいえ、聞かれたところであとは力押しで捕えるだけなんだけど……って、うわあ……せっかく一対一で戦っていたのに割り込んだものだから、メルザがすごく不機嫌だ……。


「メルザ……戦っているのに横槍を入れてしまい、すいません」


 ジロリ、とこちらを見るメルザに、僕は平謝りをした。

 だけど、これからも同じような状況になったら、僕は迷わず同じ方法を取るだろう。


 たとえメルザに恨まれても、彼女の安全こそが最優先だから。


「……もう。本当に、ヒューは過保護過ぎます」


 そう言いながらも、メルザは口元を緩める。

 あはは……本当に、僕の考えなんてお見通しなんだからね。


「なので、罰としてこれ(・・)が片づいたら、あなたを独占させてくださいね?」

「それでしたら喜んで。ならば、すぐに終わらせてしまいましょう」


 僕はサーベルの柄に手をかけ、大道芸人を見据えた。


「……あなた方が五人に対し、こちらはもう私一人のみ。絶体絶命とはこのことでしょうね」

「その割には口が回るし、態度も余裕じゃないか」


 肩を(すく)める大道芸人に、僕は口の端を持ち上げながらそう告げる。

 さて……このまま一気に詰め寄って……?


 大道芸人が、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。


「なので、強力な助っ人を一人お呼びすることにいたします」


 そう言い放つと、大道芸人が羊皮紙を放り投げ……って、あ、あれは、転移魔法陣!

 既にグラン・グリモワールと呼ぶ連中が一人だけになった今、呼べる人間なんて限られている。


 それは。


「……あらあら~。あの子達、負けちゃったのね~」


 転移魔法陣が光り、現れたのは間延びした口調で話す、眼鏡を掛けた銀髪のおっとりとした女性


 ――“原初の魔女”、シェリル=ダスピルクエット=サウセイル。


「はは……ここにきて、真打の登場ですか……」


 久しぶりに彼女を見ながら、僕は顔を引きつらせながら笑う。

 もちろん、僕やメルザがサウセイル教授に負けるとは思っていないけど、それでも、彼女は何をしでかすか分からない危うさ(・・・)がある。


「ベルナール、やっぱり今の(・・)あの子達では駄目ね~」

「はい、シェリル様。やはり、真祖(・・)の血を手に入れるしかないかと」

「「っ!?」」


 何気ない二人の会話を聞き、僕とメルザは目を見開いた。

 今……大道芸人は何て言った?


「お、おい……真祖(・・)の血を手に入れるというのはどういう意味だ……?」

「うふふ、決まっているわ~。アイツ(・・・)に傷つけられたこの身体を癒し、可愛い子ども達を強くするために、まさにアイツ(・・・)が必要なのよ~。分かるかしら~?」


 僕の問いかけに、サウセイル教授は口の端を吊り上げながら答える。


 その時。


「シェリルウウウウウウウウウッッッ!」


 サウセイル教授の背後から、モニカ教授が叫びながら愛剣“グレートウォール”を担いで突撃した。


 元々、モニカ教授はサウセイル教授のことを親友と思っていた。

 だから……なおさら、裏切られたという想いが強いんだろう。それを、モニカ教授の涙で濡れた瞳が如実に物語っていた。


 だけど。


「あらあら~、あなたじゃ(・・・・・)無理よ(・・・)~」

「っ!? あぐっ!?」


 クルリ、と振り返り、サウセイル教授が右手をかざした瞬間、現れた炎の槍がモニカ教授の左肩を貫いた。


「っ!? 魔法の発動が速い!?」

「当然じゃない、私は“原初の魔女”よ~? これくらい、造作もないもの~。それより」


 サウセイル教授が吊り上げていた口を結び、真剣な表情で、メルザを見据えた。


「あなたの真祖(・・)の血、ここでもらい受けるわね~」

「っ! メルザ!」

「はい! 【雷槍】!」


 メルザはサウセイル教授目がけて雷の槍を放ち、僕は一気にメルザに駆け寄る。

 絶対に……メルザに手出しさせない!


「うふふ、残念でした~」

「っ!?」


 サウセイル教授はすかさず転移し、メルザの真上に魔法陣を出現させて上半身を(のぞ)かせた。


 そして。


「取ったわ~」

「ぐ……っ!?」


 伸ばした右手がメルザの白くて細い首を捉える。

 気味の悪い笑顔を浮かべるサウセイル教授とは対照的に、メルザの表情が苦痛に歪んだ。


「サウセイルウウウウウウウウッッッ!」


 その光景を目の当たりにした僕は、ガキン、と歯が折れてしまうんじゃないかというほど強く噛みしめる。

 メルザ……メルザ……ッ!


「うふふ~、もう間に合わないわ~」


 サウセイル教授が嬉しそうにそう告げた、その瞬間。


 ――ドクン。


 僕の心臓が、今まで経験したことがないほど、激しく打った。

お読みいただき、ありがとうございました!


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