斧槍と大剣の蹂躙
「さて……みんなは?」
痙攣することすら止め、完全に沈黙した翼の少女を一瞥した後、僕はみんなの状況を確認する。
といっても、やっぱり一番気になるのは、メルザなんだけど。
そんな彼女を見てみると。
「ふふ……どうしました? 来ないのですか?」
「いやはや……馬鹿正直に仕掛けるのは自殺行為というものですよ……」
どうやらメルザの実力に攻めあぐねているようで、戦況は膠着しているみたいだ。
そんな中。
「チッ!?」
「はっは! 何じゃ、得意の毒はどうした!」
息を吐かせぬハルバードの連撃に、エタンがたじろぐ。
そもそも、エタンはあの身体に似合わず、毒属性の魔法使いだから、物理での戦いはそれほどじゃない。
それは、オルレアン王国で刃を交えた時に分かっている。
「チクショウ! これでも食らえ! 【ペインピアッサー】!」
エタンはまたもやあの時と同じように無数の毒針を出現させ、大公殿下を攻撃する。
だけど。
「ぬうん!」
大公殿下はハルバードを高速回転させ、全て弾き落とした。
やはり、エタンごときでは大公殿下の敵じゃない。
「貴様、ひょっとしてこれで終わりかの? だとしたら、とんだ拍子抜けじゃわい」
思いのほか大したことがなかったからか、大公殿下はガッカリした表情を見せる。
あはは、本当に頼もしいというか、何というか……。
「ウルセエ! あんまり俺を舐めるなよ! 【アシッドガス】!」
すると、今度はエタンが口から紫色の煙を吐き始めた。
おそらく、吸い込んだり浴びたりしたら毒に侵されるとか、そんな類のものだろう。
だけど、そんなものは大公殿下には意味をなさない。
何故なら、その煙を浴びせるには、風向きや地形、それと距離がものをいう。
ここは洞窟の中で無風状態の上、大公殿下の武器はハルバード、そもそも間合いが遠い。
ハッキリ言ってしまえば、エタンにとってこの環境は条件が悪すぎる。
「ハア……やれやれ、結局私はハズレを引いてしまったようじゃの……」
「な、何を……っ!?」
かぶりを振ったかと思うと、大公殿下のハルバード一閃、エタンの左胸を正確に貫いていた。
「ア……アガガ……ッ」
「終わりじゃ」
大公殿下がハルバードを振り上げ、地面へと叩きつける。
その瞬間、エタンの肉と骨が潰れる音と共に、ただの肉塊と化した。
「ふむ……モニカ、お主は二対一じゃろう。私も加わってもよいかの?」
物足りない大公殿下は、双子の少女を相手取っているモニカ教授に声をかけた。
「私一人で問題ありません」
「そんなつれないことを言うな。どれ」
大公殿下がゆったりと歩きながら、戦闘中の三人の元へと近づくと。
「「っ!?」」
おもむろに突き出したハルバードが、双子の少女が仕掛けようとしていた連携攻撃を止めた。
「もー! 邪魔しないでよ!」
「そうだそうだ!」
「はっは! まるで子どもじゃの!」
両手を振り上げて猛抗議する双子の少女を見て、大公殿下は豪快に笑う。
あはは……やっぱり大公殿下とでは、所詮は格が違うか。
「ハア……仕方ありません。ですが、この双子との戦いにおいては私に主導権がありますので、それはお忘れなく」
「はっは! 分かっておる!」
モニカ教授は溜息を吐くと、大公殿下と背中合わせになって双子の姉妹と対峙した。
あの双子と戦った僕だから分かるけど、双子一人一人の実力はあのエタンにすら劣る。
結局のところ、その連携による戦闘スタイルこそが鍵のあの二人に、大公殿下とモニカ教授が負ける要素は何一つない。
「っ!? そんな大きくて重そうな剣を持ってるのに、なんでそんなに速いの!?」
「捉えた!」
素早く動く双子の一人に並走し、まるで迎え撃つかのように大剣を振り払った。
「ギュ……ッ!?」
身体を覆い隠すほどの大剣の身幅で叩かれた双子の一人は、そのまま壁へと叩きつけられ、まるで踏みつぶされた小さな虫のようになった。
「ふむ……汚い」
そう呟くと、モニカ教授が無造作に剣を振り、地面へと少女だったものを落とした。
「ルカ!」
「はっは、よそ見はいかんの」
「え……?」
ほんの一瞬、叩き潰された少女を見た隙に、大公殿下のハルバードの斧が、もう一人の少女の首を刈り取った。
そして、首が地面へと転がる。
「しかし、大層な登場の仕方じゃったから何かあると思ったのにのう……」
「仮に何かあるとしても、それならばオルレアン王国から脱出する時に見せていたでしょう。わざわざ隠す必要のないものですから」
「それもそうじゃの」
モニカ教授の言葉に納得した大公殿下は、顎鬚を撫でながら破顔した。
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