残る一つと大道芸人
「はっは! メルザ、できればこの溶岩の泉もその氷魔法で凍らせてくれんかの? さすがに熱くてたまらんわい」
氷漬けの鳥の魔物を見て豪快に笑いながら、大公殿下がメルザに懇願する。
た、確かに大公殿下の場合、厚手の甲冑を着ているから仕方ないよね……。
なお、大蛇の魔物がいないことを確認し、アビゲイルも洞窟内に呼び寄せている。
そのことを告げた瞬間、いつにも増して饒舌になったアビゲイルは、ちょっとだけ面白かった。思い切り睨まれてしまったけど。
「分かりました。では……【絶対零度】」
先程と同じ氷魔法を放つと、溶岩の泉も一瞬にして氷と化した。
あ、これなら石の扉を探すことができるかも。
「さすがは僕のメルザですね。本当に鼻が高いです」
「あ……ふふ、ヒューにそう言っていただけるのが、何より嬉しいです」
そう言うと、メルザは僕の腕にそっと寄り添う。
本当に、優しくて綺麗で強くて、最高の女性だ。
「では、このまま泉の底を調べてみましょう。一瞬で氷となりましたから、点で砕けば固まった溶岩ごと破壊できそうです」
「うむ! ならば任せてくれ!」
モニカ教授は背中の大剣、“グレートウォール”を抜いて振りかぶると、高く飛び上がった。
「ハアアアアアアアアアアアアアッッッ!」
そのまま切っ先を凍った泉の表面に突き刺すと、そこから徐々にひび割れを起こし、氷を突き破って溶岩までをも破壊する。
「す、すさまじい威力ですね……」
「まあの。モニカの膂力は、この私をも凌駕しおる」
あ、あの小さな身体で、大公殿下よりも力は上なのか……。
僕なんかじゃ、素手では絶対に太刀打ちできそうにないな。
「む、ひょっとして石の扉というのは、あれのことではないか?」
「「「「っ!?」」」」
僕達はモニカ教授に駆け寄り、その指差す先を見ると……確かに、同じ石の扉だ。
「これで、間違いありませんね。やはりあの鍾乳洞とここは、転移魔法陣を作動させるための魔力を供給する部屋だったんです」
「はい……」
となると、同じような場所はあと二つ。
そして、この洞窟そのものが転移魔法陣であることは確実だ。
「あとは、残り二つの場所を押さえ、サウセイル教授が来るであろうその時にここで待ち構えれば……」
「うむ。皇都そのものを転移させ、消滅させるというシェリルの企みを阻止することができる」
僕達は顔を見合わせ、力強く頷いた。
「そうすると、次は残り二つの場所の探索ですね」
「はい。これが転移魔法陣だと分かれば、どこに魔石を配置するのかは法則があるので分かりますから。ですよね、メルザ」
「そのとおりです。この私に任せてください」
そう言って、メルザは胸を張った。
うん、そんな誇らしげな表情も可愛いなあ……。
「フフ、愛する婚約者に見惚れるのもいいですが、早く次の場所へ移動しましょう」
「「あ……」」
クスクスと笑うアビゲイルに指摘され、僕とメルザは思わず顔を赤くした。
◇
「ここの魔物は堅かったですね……」
三つ目の洞窟に来た僕達は、やはり待ち構えていた魔物を倒し、一息吐いていた。
何せここの魔物ときたら、巨大な亀だったせいでその甲羅を破壊するのに四苦八苦した。
最終的にはモニカ教授の大剣と大公殿下のハルバートによって破壊できたものの、それでもかなりの時間がかかった。
だけど。
「アビゲイルさん、亀は大丈夫なんですね」
「はい。というか、可愛いじゃないですか」
僕からすれば、亀も蛇もその顔はよく似ているような気がするんだけど……まあいいか。
「では、石の扉も見つけたことですし、最後の場所へと向かいましょう」
僕達は亀の魔物が棲む洞窟を後にし、残る一つの場所へと向かうと。
「あ、あれは」
洞窟の向こうから、松明を持った兵士達、そしてパートランド卿がやって来た。
これで、綺麗な洞窟の円が完成したな。
「おうオリバー、ご苦労さんじゃの」
「お疲れ様です、大公殿下。それで、例の場所はいかがでしたか?」
「うむ。婿殿の予想どおり、同じ石の扉があったわい。そして、その場所こそが転移魔法陣を作動させるための魔力供給地点じゃ」
「そうでしたか……」
大公殿下の説明に、パートランド卿が納得の表情で頷いた。
「それで、皆さんはこれからどちらへ?」
「もちろん、残る一つの場所を探索に向かうところじゃ。オリバー達は、それぞれの洞窟に兵を派遣し、場所の維持と警備に務めてくれ」
「はっ!」
敬礼するパートランド卿と兵士達と別れ、僕達は再び目的の場所を目指す。
「ここに、残る一つの石の扉があるはずです」
「はい……行きましょう」
僕達は、その洞窟の奥へと入っていくと。
「お待ちしておりました」
「「「「「っ?」」」」」
地面に横たわる巨大な虎の魔物の上で、昨夜見た大道芸人が恭しく一礼した。
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