メルザの魔法
「ふむ……だが、この洞窟が人の作ったとは、とてもそうは見えないな……」
洞窟の奥へと進む中、モニカ教授がポツリ、と呟く。
「確かに、見た目はそうかもしれません。ですが、わざわざ皇都の中心を円を描くようにして囲むように存在する洞窟は、人の手によるものとしか考えられません」
「フフ、もちろんヒューゴ君を疑っているわけではない。ただ、これだけの規模のものを座標を確認しながら掘るとなると、相当な人員や金がつぎ込まれているのだろうな」
そう言うと、モニカ教授はクスリ、と笑った。
でも……モニカ教授に言われて気づく。
確かにこれだけの規模のものを作ったのなら、かなりの実力者でなければ不可能だ。
それこそ、一国の王くらいの身分でないと。
「ところで婿殿、目標の場所にはあとどれくらいじゃ?」
「そうですね……」
大公殿下に尋ねられ、僕は地図を取り出して確認する。
「今でちょうど拠点の対角線上にありますので、あと少しですね」
「はっは、そうかそうか。さすがに蜘蛛の魔物ばかりで飽き飽きしておったところじゃから、そろそろあの大蛇の魔物でも仕留めたいところじゃの」
そう言って、大公殿下は顎鬚を撫でながら口の端を持ち上げた。
「フフ、私も是非その大蛇を見てみたいですね」
「そ、そうですか……」
何故か楽しそうに言うアビゲイルに、僕は心配になってしまう。
だって彼女、本当は蛇が苦手だったはずだし……。
一度目の人生でも、小さな蛇が目の前に現れただけで僕を置いて逃げ出してしまったくらいだしね。
「……あは♪ 何かしら♪」
「……いいえ、何でもありません」
まるで誤魔化すかのように暗殺者モードになったアビゲイルに睨まれ、僕は慌てて顔を逸らした。
そして。
「……ここですね」
地図とコンパス、それに座標を見比べながら僕はそう告げた。
やはり、同じ場所に内側へと続く洞窟もある。
「では、行きます……よ?」
「あ、あは……♪」
アビゲイルが僕の服をつかんでいるせいで、前に進めないんだけど……。
「……アビゲイルさん、ヒューの服を離していただけますか?」
「あ、あは♪ もちろん、よ……♪」
不機嫌そうに告げるメルザと、顔中から冷汗を大量に流しながら口の端を吊り上げているアビゲイル……いや、これは吊り上げているんじゃなくて、引きつっているんだろうなあ……。
「アビゲイルさん、あれでしたらここで待っていますか? 大蛇の魔物を倒したらお呼びしますから」
「あああ、あは! そそ、そうね! そうしようかしら!」
もはやいつもの話し方すらできなくなってしまったアビゲイルは、できる限り大蛇から離れようと一気に飛び退いて洞窟の壁にへばりつく。
……本当に、変に強がったりするから……。
「ヒュ、ヒュー……ひょっとして彼女……」
「……はい。実は蛇が苦手です」
まあ、さすがにアビゲイルのあの様子を見れば一目瞭然だよね……。
ということで、アビゲイルを洞窟の前に残し、僕達は中へと進むと。
「あれ?」
「これは……」
「うむ?」
「……聞いていた話とは違うな」
そこは鍾乳洞ではなく、地の底から湧き出す赤い溶岩の泉だった。
「これは、少々厄介ですね……」
僕は溶岩の泉を眺めながら、そう呟く。
鍾乳洞の時は水だったから、魔物だけに気をつければ問題なかったけど、溶岩となると触れるだけでただでは済まない。
「とにかく、調べてみるしかなさそうじゃの……皆、気をつけるのじゃぞ」
「「「はい」」」
僕達は手分けして溶岩の泉周辺を見回す。
でも、あの鍾乳洞と同じなら、溶岩の泉の中に例の石扉があると考えたほうがいいだろうな……。
その時。
「クエエエエエエエエエエエエッッッ!」
「「「「っ!?」」」」
溶岩の泉の中から、炎をまとった巨大な鳥の魔物が飛び出してきた。
くそっ! 案の定魔物がいたか!
「これは……下手に武器で攻撃してしまうと、溶かされてしまうかもしれない……」
鳥の魔物を見据えながら、モニカ教授がギリ、と歯噛みする。
確かに、このままじゃ僕達のほうから攻撃が……って!?
「ふふ……でしたら、私の出番ですね」
メルザはクスリ、と微笑むと、その左手に氷の結晶が渦を巻く。
「氷漬けにして差し上げます。【絶対零度】」
「クエッ!?」
彼女の左手から放たれた氷の結晶が、鳥の魔物を上下左右に球を描くようにして取り囲む。
まるで、鳥かごのように。
「終わりです」
「ギュッッッ!?」
鳥の魔物が変な悲鳴を上げたかと思うと、その瞬間には氷の球体が出来上がり、地面に落下した。
もちろん、鳥の魔物を氷漬けにして。
「や、やっぱりメルザの魔法はすごいですね……!」
「ふふ、ありがとうございます」
そんな月並みな僕の言葉だけど、メルザは嬉しそうに微笑んでくれた。
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