洞窟と転移魔法陣
「ヒュー、おはようございます」
次の日の朝、身支度をしているとメルザが僕の部屋にやって来た。もちろん、洞窟探索のためにドレスではなく動きやすい服装で。
でも、昨日も思ったけど、やっぱりメルザってスタイルがいいから、男性のような服装を着ても、その……凛々しいというかカッコイイというか……。
「? どうしましたか?」
「あ、ああいえ、まずはおはようございます。今日もメルザが素敵でしたので、思わず見惚れてしまいました……」
「ふふ……もう、ヒューはそうやって、いつだって私を喜ばせるんですから……」
メルザがはにかみながら僕の傍へ寄ると、そっと胸に顔をうずめた。
「メルザ、昨夜はよく眠れましたか?」
「はい。しかも、嬉しいことにヒューとピクニックをする夢を見てしまいました」
「あはは、そうなんですね。でしたら、この洞窟探索が無事に終了したら、夜のピクニックに出掛けましょう」
「はい! ですが……ふふ、夢の中では昼間だったんですが」
「それはいけません。夢の中の僕は叱ってくださいましたか?」
嬉しそうに告げるメルザに、僕は少しおどけながらそんなことを言った。
もちろん、ヴァンパイアのメルザは陽射しを受けたら綺麗な白い肌が赤くなってしまうので、僕としては彼女の夢に出てきた僕をぶん殴ってやりたいんだけど。
「大丈夫デス。夢の中でも優しいヒューは、ずっと私を傘で差し続けてくださいました」
「むう……なら、注意程度に留めておきます」
「もう……ヒューったら、少し過保護すぎますよ?」
「当然です。だって、メルザなんですから」
そんな朝のやり取りをしていると。
「「コホン」」
「「あ……」」
口元を緩めているヘレンとセルマの咳払いに、僕達は思わず二人を見た。
「ヒューゴ様、メルザ様、朝食の準備が整っておりますので、食堂へお越しください」
「お姉ちゃん、私達、もう少し気を遣ったほうがよかったんじゃ……」
淡々と用件を告げるヘレンに対し、苦笑しながらそんなことを言うセルマ。うん、よく言ったセルマ。そのとおりだセルマ。
「ふふ……ではヒュー、行きましょう」
「はい」
僕はメルザの手を取り、部屋を出て食堂に向かう。
すると。
「……続きは夜、ですね」
そっと耳打ちをするメルザに、僕は勢いよく頷いた。
◇
「おはよう、ヒューゴ君、メルトレーザ君」
「フフ、おはようございます」
僕達が馬車で皇都の門まで来ると、既に来ていたモニカ教授とアビゲイルと合流した。
「それで、その洞窟というのはどのようになっているのだ?」
「はい、これをご覧ください」
馬車に乗り込んだ二人に、僕は昨日作成した地図を広げて見せる。
「このように、洞窟が円になっているんです。しかも、皇都を取り囲むように」
「ふむ……確かに、それだとかなりの規模になるな……」
「ヒューゴさん、これを見ると円の内側へ向かう通路もありますが、そちらは……?」
「そちらはまだ調査できていません。むしろ、それがあるからこそお二人に協力していただくことにしたんです」
僕はそう答えると、アビゲイルが納得の表情を浮かべながら頷いた。
「なお、この外円については兵士の皆さんにお願いしていておりますので、僕達はここから内側を探索していきます」
そう言って僕が指し示した場所は、昨日大蛇の魔物が現れた場所から対角線上にある、地図の空白部分だ。
「婿殿、そこは何も記されておらんから、まだ行っておらぬ場所じゃぞ? なのに、どうして正確にそこを選んだんじゃ?」
「はい……オルレアン王国でエタンの首を通じてサウセイル教授が言っていた、皇都消失の手段……つまり、転移魔法によるものなのですが、そもそも転移魔法に必要なものとは何でしょうか?」
「む、それはもちろん、転移のための魔法陣と、それに必要となる魔力を増幅させるための媒介である魔石だな」
僕の問いかけにモニカ教授が答えた。
「そのとおりです。そして、転移魔法は転移魔法陣の範囲内のものを転移させることを考えると……」
「「「「あ!」」」」
どうやら四人も気づいたみたいだ。
そう……僕が考えたのは、この皇都を囲むように描かれている洞窟の円が、まさに魔法陣に見立てられているのではないかということ。
そして、昨日のあの鍾乳洞で見つかった意味があるように思えなかった石の扉。
あれも、実は転移のための魔石を置くための台座なんじゃないかと考えたんだ。
「なるほど……転移魔法陣は対角線上に魔石を配置しますから、それを踏まえると鍾乳洞の対角線上に何かあると考えたヒューの推測は正しいと思います」
「ありがとうございます、メルザ」
僕の考えを正確にくみ取ってくれたメルザに、僕は頭を下げた。
「ふふ、私はあなたの婚約者なのですから、当然です」
そう言って、少し自慢げに胸を張るメルザ。
「よし! では婿殿の言ったその場所を今日は探索する、よいな!」
「「「「はい!」」」」
僕達は馬車の中、大公殿下の言葉に力強く頷いた。
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