一日目、終了
「さて……今日のところは、調査はこれくらいでいいじゃろう」
ある程度の洞窟探索を行ったところで、大公殿下が今日の調査終了を告げた。
なお、僕とメルザ、それに大公殿下は洞窟のかなり奥まで進んでみたものの、最初に遭遇した蜘蛛の魔物がちらほら現れた程度で、それ以外に危険らしい危険はなかった。
それと、洞窟自体はそれなりの広さがあったので、大公殿下のハルバードも十全に使えることが分かったのは大きい。
これだけで、僕達の戦力は大幅に上がるからね。
「では、拠点まで引き返しましょう。パートランド卿にも、話しておきたいことがありますし」
「ほう? それは何じゃ?」
大公殿下が顎鬚を撫でながら、興味深そうに尋ねる。
「はい。洞窟探索の途中でお話ししたとおり、この洞窟が少しずつ右に曲がっているという話をしましたが……二人共、これを見てください」
そう言って、僕はここまでマッピングした羊皮紙を見せる。
「ヒュー、これって……」
「そうなんです。やはりこの洞窟は、この皇都を囲むように円を描いているのは間違いなさそうです」
そう……ここまでの距離の歩数から換算してみると、皇都全体とまではいかないものの、皇宮を含めた皇都の中心部は洞窟の円の中に確実に収まっている。
ここまでくると、僕にはこれが偶然だとはとても思えない。
何者かが、この洞窟を意図的に作ったのは間違いないだろう。
「ふむ……そうすると、この洞窟自体を作ったのはシェリルの奴ということかの?」
「その可能性も、もちろんあると思います。ですが、洞窟の規模もそうですが、足跡もなく洞窟ができてからかなりの時間が経過していると考えられることもあり、元々あったのではないでしょうか」
「ちょっと待ってください。ではヒューは、サウセイル教授以外にこの洞窟を作った者が、かなり昔にいたというのですか?」
メルザの問いかけに、僕はゆっくりと頷いた。
「鍾乳洞の泉の底にあった不可思議な石の扉といい、ここが人工的に作られたものであることは間違いありません。規模などからも、サウセイル教授一人でできることではないでしょうし。なら、長い年月をかけて別の者が作ったと考えるのが妥当でしょう」
「そうじゃの……むしろそう説明されたほうが、納得がいくわい」
どうやら大公殿下は僕の推察を支持してくれるみたいだ。
「あとは……その昔の人が何の目的で洞窟を作ったのか……そして、サウセイル教授はこの洞窟の秘密を知っている可能性が高いと思います」
でなければ、皇都を一瞬で消失させるなんて真似、いくら“深淵の魔女”……いや、“原初の魔女”でも不可能だろう。
「うむ! ならば、明日からは洞窟調査の人員を増やすとするかの! 婿殿の地図を見る限り、洞窟もほぼ半分は調査を終えておるし、特に危険な魔物や罠も見受けられんからの!」
「はい、そのほうが効率的だと思います」
「そうと決まれば、早く戻ってオリバーの奴に相談じゃ」
ということで、僕達は足早に拠点まで戻った。
◇
「分かりました。ヒューゴ殿の地図が確かならば、あの石壁の向こうが洞窟になっているはずです。明日は、そこから洞窟を見つけてみましょう」
「よろしくお願いします」
拠点に戻った僕達は、パートランド卿に探索結果の報告を行い、明日からは洞窟の円を繋げるための探索を行うこととなった。
それにしても……。
「パートランド卿、いつの間に地上までの階段を作ったんですか……?」
「洞窟の探索自体は大公殿下やヒューゴ殿、それにメルトレーザ様がしていただいているおかげで、その間に兵士を動員して作業に当たらせました。これで、物資の運搬や人員の配置などもスムーズに行えますから」
「確かに」
うん……こういった作業をキッチリとこなすパートランド卿は、やはり大公軍にとってかけがえのない存在だな。
「では、私達は引き上げる。オリバー達も、今日はもう切り上げて休むんじゃ」
「はっ!」
敬礼するパートランド卿に見送られ、僕達は屋敷へと戻る……んだけど。
「大公殿下、洞窟の規模や様子もある程度つかめましたので、明日から可能ならばアビゲイルとモニカ教授も加えたほうがいいかもしれません」
「ふむ……じゃが、モニカはともかく、アビゲイルに関しては兵士に存在を知られるとまずいことは、婿殿も分かっておるじゃろう?」
「はい。ですので、アビゲイルではなくて金級冒険者のアビーを雇ってはどうでしょうか」
これも、洞窟探索をしている際に考えていたことだ。
確かに“影縫いアビゲイル”の素性を知られてしまうとまずいけど、アビゲイルは偽装のために冒険者としての身分も持っている。
しかも、どの階級のものでも。
「はっは! それはいいわい! なら、あやつが加わるとなれば調査は盤石じゃの!」
「……仕方ありませんね」
膝を叩いて愉快そうに笑う大公殿下とは対象的に、口を尖らせてプイ、と顔を背けてしまったメルザ。
あはは……やっぱりメルザ的には気分のいいものじゃない、か。
「メルザ」
僕は、メルザの白い手をそっと握る。
「申し訳ありませんが、まずはサウセイル教授の陰謀を挫くことが最優先です。そうじゃないと、二年後に控えるあなたとの結婚式を無事執り行えませんから」
「……もう。その言い方はずるいです」
そう言ってますます顔を背けてしまうメルザ。
でも、愛する彼女の口元は、思い切り緩んでいた。
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