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不手際

「……本当に、失礼な人達ですね」


 離れの屋敷へと向かう途中、メルザは吐き捨てるようにそう言った。


「すいません、メルザ……」

「! ヒューが謝ることではありません! ……ですが、あなたはこんな程度では済まされないほどの仕打ちを、ずっと受け続けていたのですね……」

「…………………………」


 ……こうなることは分かっていたから、できればアイツ等には会わせたくなかったんだけど……。


「それにしても、兄の婚約者に対して色目を使うなど、恥知らずもいいところですね」

「重ね重ね、申し訳ありません……」


 ああ……穴があったら入りたい気分だ……。

 確かにメルザは最高に綺麗だけど、まさかあそこまで節操がないなんて、思いもよらなかった……。


 すると。


「本当に……ヒューはこんなに素晴らしくて素敵な人なのに、とても同じ血が流れているとは思えません……」


 正面に立ったメルザが、僕の顔をまじまじと眺めながらそんなことを言う。


「はは……僕も、半分とはいえ同じ血が流れているなんて、思いたくないです……」

「ヒュー……」


 メルザが寄り添い、僕の頬をそっと撫でてくれた。


「ふふ……血ではないのだとしたら、やはりその違いは魂の差(・・・)、なのでしょうね」

「ありがとうございます……」


 ああ……本当に、あなたという女性(ひと)は……。


 そして、離れの屋敷に到着するというところで。


「ヒュ、ヒューゴ様! 今すぐご案内いたします!」


 後ろから必死で駆けてきたエレンが僕達に追いつき、扉を開けて中へと通した。


「……モリーの姿が見当たらないようだが?」

「そ、その、後程呼んでまいりますので、まずは応接室にご案内します!」


 はは……応接室って、あの部屋のことを言ってるのかな。

 誰も僕に会いに来る者なんかいないということで、物とほこりが散乱している、あの部屋を。


 まあいいや。いざとなったら、唯一まともな僕の部屋へ案内しよう。


 ということで、エレンの後に続いて応接室に到着すると。


「っ!? あ、も、もう少々お待ちを……」


 顔を引きつらせながら愛想笑いを浮かべ、エレンが応接室の中に入ってしまった。


「……メルザ、ここは放っておいて、僕の部屋へご案内します」

「はい……」


 僕とメルザは呆れた表情を浮かべながら、僕の部屋へと向かった。


「ここが……あなたがいつも過ごした場所なんですね……」


 部屋に入るなり、メルザはまじまじと中を眺めた。


「はは……本当に、何もない部屋ですが」

「いえ……ここには、確かにあなたの匂いが……温もりが、息づいています……」


 机にそっと触れながら、彼女が口元を緩める。


「メルザ……こんなところに連れてきてしまい、申し訳ありません……」


 侯爵邸についてからの不手際の数々に、僕は深々と頭を下げた。


「ヒュー、お願いだから謝らないでください。あなたの過ごしたこの部屋に一緒にいるだけで、私はここに来た甲斐がありました」


 僕の唇に人差し指を当てながら、彼女がニコリ、と微笑む。

 そんなメルザが愛おしくて、僕は彼女の手を取ると。


 ――ちゅ。


 その透き通るような白い手に、そっとキスをした。


「ふふ……そのようにされてしまいますと、愛しいあなたの血が欲しくなってしまいます……」

「はは……僕の血でよければ、いくらでも差し上げます……」


 メルザは僕の首に腕を回し、その桜色の唇を首筋へと近づけ……。


 ――コン、コン。


「失礼いたします」


 仏頂面をしたモリーが、図々しくも頭も下げずに入ってきた。

 ハア……なんて間の悪い……。


「……なにか?」


 ああ……メルザは邪魔をされただけでなくモリーがこんな態度なものだから、かなり不機嫌だ……。

 そして、ここでようやくメルザがいることに気づき、慌てて頭を下げる。


「あ、い、いえ……ヒューゴ様が私をお呼びだとお聞きしましたので、お伺いしたしだいです……」

「……あなた、名はなんとおっしゃるのかしら?」

「あ、ヒュ、ヒューゴ様の乳母を務めておりました、侍従のモリーと申します……」

「そう……乳母まで務めたような者が、彼の婚約者であるこの私の目の前でそのような態度を取るのですか。本当に、この侯爵家はどうなっているのでしょうか……」


 メルザに睨まれ、恐縮するモリー。

 でも……最初に入ってきた時のあの態度。

 ひょっとしたら横領に関する証拠を処分でもして、気が大きくなっているのかもしれないな。


 まあ、今となっては僕に関係ないが。


「あああ……ま、間に合いませんでしたか……」


 続いて部屋にやって来たエレンが、険しい表情のメルザと小さくなっているモリーを見て肩を落とした。


「エレン、どうした?」

「あ、は、はい……応接室と、メルトレーザ様にお泊りいただくお部屋の準備が整いましたので、ご案内に……」

「……ヒュー、行きましょう」


 メルザがス、と右手を差し出したので、僕はそっと手を添える。

 そして、縮こまるモリーを無視し、僕達はエレンの後についていった。


「メルトレーザ様のお部屋は、こちらになります」


 案内された部屋は、僕の部屋から一番遠い部屋だった。


「……どうしてヒューの部屋からこんなに離れているのですか?」

「そ、その……ルイス様の(・・・・・)指示(・・)で、『二人に間違い(・・・)があるといけないので、できる限り部屋を離すように』と……」


 アイツ……。


「……私の部屋は、ヒューの部屋の隣にしてください」

「は、はい!」


 ですよね、と言わんばかりに、エレンは勢いよく首を縦に振った。


「で、では、もうまもなくお館様がお戻りになると連絡がありましたので、応接室でしばらくお待ちくださいませ」


 僕達を応接室に連れてくると、エレンは逃げるように立ち去った。

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