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円を描く洞窟

「しかし……メルの能力が通用せんというのは、誤算じゃったわい……」


 大公殿下が顎鬚(あごひげ)を撫でながら、顔をしかめる。


「ですが、メルザは魔物と対峙したことなどないでしょうから、分からなかったのも当然かと。それに、元々はサウセイル教授の手下への対策としての意味合いも強かったのですから……」


 正直言って、僕も穴の底で魔物との戦闘になることは想定していなかった。

 そもそも、どうしてこんな皇都の地下深くに、魔物なんかが存在するんだ……?


 これも、サウセイル教授が仕組んだことなのだろうか……。


「ヒュー……先に言っておきます。私は、絶対に今回の調査から降りませんから」


 そう言うと、メルザはその真紅の瞳で僕を見つめた。

 そこに、覚悟と意志を込めて。


「あはは……僕は、メルザに調査から降りるようになんて言うつもりはありません」

「……本当、ですか?」


 苦笑しながら僕がそう告げると、メルザは少し不安そうな表情でおずおずと尋ねる。


「僕は魔物ではないのですから、今の言葉に()がないのはメルザも分かっているでしょう?」

「そ、それはそうですが……」

「メルザ、たとえその能力が魔物に通用しないとしても、僕はあなたが強いことを知っています。そして、決して折れるつもりもないことも」

「…………………………」

「それに……魔物が現れたとしても、この僕があなたを守ればいいだけですから。だって、僕はあなたの騎士(・・・・・・)なのだから」

「あ……」


 そう……今回の調査にメルザが同行することが決まった時点で、その覚悟はとうにできている。

 愛するメルザを、絶対に守り抜く覚悟が。


「なので、このまま一緒に調査を進めて、そして、サウセイル教授の陰謀を一緒に阻止しましょう」

「ヒュー……はい!」


 ようやく安心してくれたのか、メルザは僕の胸の中に飛び込み、打って変わって嬉しそうな表情を浮かべて頬ずりをした。


「はっは! 婿殿は誠に心が強いのう! それでこそ、この私の後継者に相応しいわい!」


 そんな僕達を見て、大公殿下は破顔した。


 ◇


 その後、大勢の兵士が鍾乳洞へとやって来て、大規模な調査を開始する。


「ふむ……今の間に、またあの分岐路へ戻って今度は左側の通路を調べてみるかの?」

「ああ、それもいいかもしれませんね」


 僕と大公殿下がそんな会話をしていると。


「大公殿下! 泉の中に扉のようなものが発見されました!」

「なんじゃと!?」


 兵士の報告を受け、僕達は慌てて泉の(そば)へと向かった。


「あれか……!」


 泉の底には、金属のリングの取っ手がついた、石の扉のようなものが確かに見受けられた。

 つまり……この洞窟は、少なくとも人の手が加えられているものだということの証左だ。


「果たして、これはシェリルの奴の手によるものなのか、それとも、別のものなのか……」

「いずれにせよ、ここまでのマッピングから分かるように、ここが皇都の真下であることは間違いありません。なら、サウセイル教授が何らかの関与をしていることは間違いないかと」

「ヒューの言うとおりです。ここには、何かあるとしか思えません」

「そうじゃの……」


 僕とメルザの言葉に、大公殿下も頷く。

 さあ……この下に、どんな仕掛けがあるのか……。


 兵士達が泉の水を()き止め、石の扉が露わになる。


「では、開けてみるのじゃ」

「はい」


 兵士の一人が扉のリングに手をかけ、思い切り引っ張る。


 そして、ゆっくりと開くと。


「……何もない」


 なんと、石の扉の下は、同じく石があるだけだった。

 僕達も扉の元へ行き、色々触ったり扉そのものを調べたりしても、どこにも手掛かりになりそうなものはなかった。


「全く……こんなものを何のために作ったんじゃ……」

「あ、あはは……」


 肩を落とす大公殿下に、僕は苦笑するしかない。

 せめて罠でも仕掛けてあったのなら、意味はあったと思うんだけど、本当に何もなかったからなあ……。


「……お爺様、この鍾乳洞の調査は引き続き兵士の皆様にお願いして、私達は別の場所の調査をいたしましょう……」

「……そうじゃの」


 そうして、僕達は一旦鍾乳洞を離れ、またあの分岐路へと戻ってきた。


「では、今度は左側の通路へ進んでみましょう」

「はい!」

「うむ!」


 気を取り直し、僕達は左側の通路を進む。


 その後、かなりの距離を進んだはずだけど、魔物などが現れる気配はない。

 途中途中で、右へと曲がる洞窟が現れるものの、今回はただひたすら真っ直ぐに進んでみた。


「……何もないようじゃの」

「ですが、洞窟はこの先も続いているようですし、まだ分かりません。それに……」

「? ヒュー、どうかしたんですか?」


 メルザが、僕の顔を(のぞ)き込む。


「はい……僕達は真っ直ぐ進んでいるように見えて、実はほんの少し通路が右に曲がっていることに気づいてましたか?」

「いえ……そうなんですか?」

「ええ、これを見てください」


 僕は、歩きながら記していた地図をメルザに見せた。


「ああ……本当ですね。こうやって見ると、まるで円を描いているように見えます」

「そうなんです。このまま進んで行けば、あの穴の下の拠点に出てくるんじゃないかと思います」


 そう……まるで、この洞窟そのものが皇都を取り囲むように、円を描いているとしか考えられない。

 それが、何を示しているのか、意味があるのかどうかは分からない。


 だけど僕には、それが気になって仕方なかった。

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