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鍾乳洞の魔物

「それにしても、兵士達をあの場に置いたままで大丈夫でしょうか……」

「はっは! メルよ、心配いらん。あの者達とて私や婿殿には及ばぬものの、並みの兵士よりも充分強い。それに、上からも拠点確保と防衛のために次々と兵士達が降りてきておるはずじゃ」


 心配するメルザに、大公殿下が豪快に笑いながらそう告げる。

 まあ、穴の底にたどり着いたことは上には既に伝達済みではあるし、パートランド卿なら後方支援も抜かりないだろう。


「それよりも、メルザは絶対に僕の(そば)から離れないでください。先程のように魔物が現れたら、この僕が全部打ち倒しますから」

「あ……ふふ、もちろんです」


 メルザは嬉しそうに微笑むと、僕の腕にぴったりと寄り添った。

 そうとも、僕はメルザの騎士なんだ。彼女の前に立ちはだかる者がいるなら、それを全て打ち倒すことこそが、この僕の役目……いや、僕だけの特権(・・)なんだから。


 そうして、特に魔物が現れることもなく先へと進んで行くと、洞窟は二手に分かれていた。


「さて、どちらへ進むべきか……」

「まずは、ここに何か手掛かりや道標のようなものがないか、調べてみましょう」

「そうですね」


 僕達は予備の松明(たいまつ)のうちの一本を(とも)し、周囲を隈なく調べる。

 だけど、手掛かりとなりそうなものは見当たらなかった。


「ふむ。こうなると、運任せで進むしかなさそうじゃの」

「ええ……ですが、その前に拠点から兵士数人に来てもらい、命綱を用意してからにしましょう」

「そうじゃの」


 ということで、僕達は拠点へと一旦引き返すことにした。


 ◇


「はっは! 短時間で一気に拠点らしくなったわい!」


 僕達が通ってきた穴のあった場所へと戻ってくると、そこには既に数十人の兵士が下へと降りてきていて、幕舎の設置や物資の運び込みが行われていた。


「おや? 大公殿下、いかがなさいましたか?」

「うむ。洞窟の先が二手に分かれておったのでな、先を調査するために、分岐路で待機してもらうために兵の何人かについて来てもらいたいのじゃ」

「ああ、そういうことですか」


 一緒に降りてきた五人の兵士の一人にそう告げると、その兵士は残り四人の兵士を招集し、命綱となるロープを抱えた。


「では、あの分岐路まで戻るとするかの」

「「はい」」


 僕達は五人の兵士を引きつれ、また先程の場所へと戻る。


「メルザはどちらの道がいいと思いますか?」

「私ですか? そうですね……」


 左右の道を交互に見ながら、メルザが思案する。


「では、右の通路から進んでみましょう」

「はい」


 ということで、僕達は右を選択し、ロープの先を持って先へと進んだ。


 そして。


「まあ……!」


 通路の奥には、まるでこの世のものとは思えないほど美しい鍾乳洞と、綺麗な泉が広がっていた。


「これは、たまげたわい……」


 メルザはおろか、さすがの大公殿下も感嘆の声を漏らす。

 それほど、この場所は幻想的だった。


「まさか、皇都の下にこのような場所があっただなんて、思いもよりませんでした……」

「ええ……」


 そんな鍾乳洞を目の当たりにしながら、僕はメルザの白い手をそっと握った。


「あ……ふふ……ヒュー、もっともっと、こんな素敵な景色を二人で一緒に見ましょうね」

「はい」


 メルザの可愛らしいお願いに、僕は力強く頷いた。


「コホン……さあて、景色を楽しむのはここまでじゃ。兵達を呼んで、ここを調査するぞ」

「「はい!」」


 僕は命綱を引っ張って合図すると、新人の女性兵士がやってきた。


「すまんが、拠点に戻って兵を引き連れ、この鍾乳洞の調査に当たらせてくれ。ただし、できる限り景観を壊さないようにの」

「はっ!」


 大公殿下の指示を受けて女性兵士は敬礼をすると、そのまま来た道を引き返していった。


 さて……兵士達が来る前に、僕のほうでも少し調べてみるか。

 そう思い、綺麗な泉の(そば)へと寄ってみると……っ!?


「メルザ! 大公殿下! 泉から離れて!」

「「っ!?」」


 僕の言葉に、二人が一気に飛び退いた。


 その時。


「ジイイイイイイイイイイイッッッ!」


 巨大な大蛇のような魔物が、泉の中から出現した。

 だけど……こんな魔物、図鑑などでも見たことがないぞ!?


 それに。


「メルザ!」

「ヒュー!」


 僕は急ぎ彼女の元へと駆け寄ると、そんな彼女を背にして大蛇の魔物と対峙する。


「メルザ……お聞きしますが、あの魔物の敵意(・・)を感じることができましたか……?」

「そ、それが……」


 そう……今、目の前で僕達に対して敵意(・・)を剥き出しにしている魔物に、メルザは気づくことができなかった。

 つまりそれは、魔物に対してメルザの能力が通用しないということ。


 とはいえ。


「僕がメルザを守ることには変わりない!」

「ッ!?」


 僕は叫び、一気に大蛇の魔物へと迫ると。


「ハアアアアアアアアアアッッッ!」

「ッ!? ジイイイイイイイイイッッッ!?」


 その胴体をひたすら乱斬りにした。

 よし! この魔物にもサーベルによる斬撃が通用する!


「ジイイイイイイイイイイッッッ!」


 たまらず大蛇の魔物は、その巨大な口を開いて襲い掛かる。


 だが。


「はっは! ……あまり舐めるなよ」

「ッ!?」


 大公殿下が獰猛な笑みを浮かべ、魔物が開け放った口の中へハルバードを突き入れた。

 ただし、その威力が強すぎたためか、ハルバードはその頭部までも貫通し、大蛇の魔物は目をぐるん、と反転させた。


 そして、大蛇の魔物は鍾乳洞と泉にその長い胴体を横たわらせ、沈黙した。

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