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地下洞窟

「かなり深いですね……」


 縄梯子(なわばしご)で穴の中へと降り始めてかれこれ十分は経過したけど、穴の底は未だに見える気配がない。

 念のため、火のついた松明(たいまつ)を一本放り投げてみると。


「……っ! 見えた!」


 松明の炎がおよそ五十メートル下でカラン、という音と共に転がり、地面を照らした。

 これなら、縄梯子(なわばしご)をあと一回連結すれば……っ!?


 その時……炎に照らされた、八本脚の異様な生き物の影が映った。

 そしてその影は二つ、三つと増えて行き、この穴を見上げていた。


「皆さん! 下には大量の蜘蛛の魔物がいます! 迎撃の準備を!」


 僕はそう叫ぶと、縄梯子(なわばしご)を素早く連結してからサーベルの柄に手をかけた。


 そして。


「キチキチキチキチキチッッッ!」


 穴の壁を伝い、蜘蛛の魔物が襲いかかる。


「シッ!」


 僕は縄梯子(なわばしご)から手を離すと、壁を駆けるようにして下へと降りながら、迫る蜘蛛の魔物を一体、また一体と斬り伏せていった。

 動きは素早いが、大した強さではない。これなら、上の五人の兵士でも倒すのに苦労しないだろう。


「はああああああああッッッ!」

「「「「「ッ!?」」」」」


 一気に穴の底にたどり着いた僕は、地面に転がる松明(たいまつ)の明かりを頼りに蜘蛛の魔物を次々と蹴散らす。


 そして。


「ふう……」


 全ての蜘蛛の魔物を討伐し、僕は深く息を吐いた。

 実際に穴の底にたどり着いてみると、そこは少し広めの洞窟になっていた。


 おそらく、この暗闇の先に、サウセイル教授が仕掛けた転移魔法陣があるのだろう。

 僕はサーベルの柄を握りしめ、気を引き締めていると。


「はっは! 相変わらず婿殿の剣技はすさまじいのう!」

「当然です。私の(・・)ヒューですから」


 豪快に笑う大公殿下に、何故か自慢げに語るメルザ。

 そんな、普段と変わらない二人の様子に僕は苦笑した。


 一方。


「…………………………」


 五人の兵士のうちの一人……灰色の髪をウルフカットにしている女性兵士が、僕を見つめたまま固まっていた。


 あれ? バルド傭兵団の討伐やグレンヴィルのクーデター事件の時にも、僕の戦う姿を見ているはずだから、実力は兵士達も知っていると思ってたんだけど……。

 実際、他の四人については僕に対して特に反応を示さず、淡々と調査のための拠点づくりに勤しんでいるし……。


「す、すいません」

「? どうしましたか?」


 僕は、せわしなく拠点設営をしていた兵士の一人に声をかけた。


「その……あの灰色の髪の彼女は?」

「ああ、実は一か月前に配属になったばかりなんですよ。一応、前の隊ではかなりの実力者として名を上げていたらしいですけどね」

「そ、そうですか……」


 なるほど、まだ大公軍に入って間もないのなら、僕を知らなくても仕方がないか……って。


「ええと……メルザ?」

「…………………………」


 気がつくと、メルザが頬を膨らませながら僕の顔を見上げていた。

 これは……どうやら新入りの女性兵士に関心を持ったことに、ご立腹のようだ。


「あはは……いえ、ちょっと他の兵士と比べて反応が違っていたので、つい気になりまして……」

「へえー、ヒューは普段と反応が違う女性を見かけたら、注目してしまうのですね」


 本気で怒っていないのは分かるけど、メルザが不機嫌なのは間違いない。

 でも、こんな可愛くヤキモチを焼く彼女は、なんて可愛らしいんだろうか。


「そうですね。なので、僕もメルザがあまり見せない、そんな反応にずっと釘付けですよ」

「あう……そ、そんなことを言っているのではありません!」

「ですが、この白くて柔らかい頬をそんなに膨らませているのを見てしまっては、ついつい触れたくなります。ほら、このように」


 そう言うと、僕はメルザの頬をそっと撫でた。


「ふふ……もう」


 メルザは口を尖らせながらも、かなり機嫌がよくなったみたいだ。

 その証拠に、頬を撫でる僕の手を、愛おしそうに細くて白い手を添えながら、彼女は目を細めているから。


「ほれほれ二人共、そうやって乳繰り合うのもいいが、そろそろ探索を再開したいんじゃがのう」

「「っ!?」」


 顎鬚(あごひげ)を撫でながらニンマリとした表情を浮かべる大公殿下に、僕とメルザは思わず身体を硬直させた。


「お爺様……余計なお世話です」

「おっと、メルに叱られてしもうたわい。じゃが……真面目な話、婿殿はどう思う?」

「どう、とは?」

「もちろん、この洞窟についてじゃ。私の長年の勘が、暗闇の奥に危険な代物があるとずっとささやいておるわい」


 暗闇の奥を、険しい表情で睨みつけながらそう告げる大公殿下。

 僕も、ここに来てから妙な緊張感に包まれていて、先程からサーベルの柄から手が離せない。


「とにかく……行ってみるしかないようですね」

「そうじゃな」


 そう言って僕達は頷き合うと、松明(たいまつ)を持って暗闇の奥へと歩を進めた。

お読みいただき、ありがとうございました!


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