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大公殿下の依頼

「婿殿、メル、この後ちょっといいかの?」


 アビゲイルに例の六人の男女について情報提供をした日から一週間後の夕食時、大公殿下がメインディッシュの子羊のローストを口に含んだ後、そう告げた。


「ええ、もちろん構いませんが……今は言えないのですか?」

「うむ。執務室で三人きりで話がしたい」

「分かりました。ということは……」

「うむ」


 ……どうやらそういうことらしい。

 となると、例のサウセイル教授の件で間違いないだろう。


「念のためですが、ヘレンにも話を聞かせますか?」

「そうじゃのう……一緒にオルレアン王国にも行ったから、事情も知っておるしな……」


 大公殿下は、顎鬚(あごひげ)を撫でながら思案する。


「よし、ヘレンにも一緒に聞いてもらうとしよう。万が一私達が不在の時は、誰か一人でも分かっておる者がおれば上手く立ち回れるしの」

「そうですね」


 話もまとまり、僕達は引き続き夕食を楽しむ。

 だけど、やはり大公家の料理人の腕は素晴らしい。


 メルザと婚約してからこれまで、大公家の屋敷以外でも食事をしたりもしたけど、ここの料理が一番落ち着くなあ……。


「ふふ……本当に、ヒューは美味しそうに食べますね」

「それはそうですよ。ここの料理ほど美味しい……というか、心が安らぐものはないですから」

「はっは! まあ、これがウッドストック家の味というものじゃろう!」

「「ですね!」」


 そう言って、僕達は笑い合った。


 ◇


 食事を済ませ、大公殿下の執務室に僕達四人は集まっている。

 もちろん、サウセイル教授の企てている皇都消失に関して。


「それで……サウセイル教授が考えている例の転移魔法陣について、何か進展があったということでいいんですよね?」

「うむ。全軍をもって皇都中を隈なく捜索した結果、地下へと通じる()を見つけた」

()……ですか」


 大公殿下の説明に、僕は一瞬違和感を覚えたけど、相手がサウセイル教授だということに思い至り、納得して頷いた。

 そうだ、彼女なら地下に行くのに階段なんて使う必要はない。


 だって、彼女こそ転移魔法の使い手なのだから。


「ではお爺様、その穴の中への調査はお済みなのですか?」

「いや、それはこれから行うこととしておる。そこで、じゃ」


 そう言うと、大公殿下は僕とメルザを交互に見やった。


「私と一緒に、その穴に入ってもらいたい」

「僕達が、ですか……」


 僕とメルザは、思わず顔を見合わせる。

 もちろん、僕達も調査に加わることに否やはないけど……どうして、大公殿下はわざわざ頼んだのだろう。


「まあ、二人に頼む理由は二つ。婿殿は個人戦においては既に私を凌ぐ上に、私のハルバードと違い戦いの場を選ばぬゆえ、あの地下という特殊環境を考えれば、婿殿ほど適任者はおらん」

「はい……」

「次にメルに関しては、相手の悪意(・・)()を感知できる。ならば、地下においても敵を確実に察知できるからの」

「なるほど……」


 僕は、大公殿下の言葉に頷く。

 確かにおっしゃるとおりな上、メルザはヴァンパイアの特性上、魔力の流れや術式などにも敏感だ。


 転移魔法陣が仕掛けられている、その点を考えたら、この調査において彼女ほどの適任者はいないだろう。


「でしたら、アビゲイルはどうしますか? 彼女もまた、狭い場所での戦闘には向いていますが」

「うーむ……それも考えたのじゃが、私達はアビゲイルの正体を知っておるが、オリバーをはじめ兵士達はその正体を知らん。ならば、彼女自身も正体を知られることをよしとせんじゃろう」

「あ……ですね」


 そうだった、つい当たり前のようにアビゲイルと行動していたけど、元々はおとぎ話に出てくるような伝説の暗殺者。アビゲイルも知られることを喜ばない、か……。


「ということで、二人には明日の授業は休んでもらって、朝から私と一緒に向かうとしよう」

「「はい」」


 僕達は、大公殿下に頷いた。


「ヘレンは、万が一の時のためにアビゲイルやモニカ教授との連絡役として屋敷に残っていてくれ」

「かしこまりました。皆様、どうかお気をつけて」


 そう言うと、ヘレンは恭しく一礼をした。


「うむ、では皆も明日に備えてゆっくり休むとよい」

「はい、失礼します」


 僕達は執務室を出て、部屋へと戻る……んだけど。


「メルザ、せっかくですし庭園にでも行きませんか?」

「あ……ふふ、ちょうど私もヒューにそう提案しようとしていたところです」


 そう言って、メルザが嬉しそうにはにかむ。

 うん……何だか気持ちが通じ合っているのが感じられて、かなり嬉しい。


「では、行きましょう」

「ええ!」


 メルザの手を取り、僕達は庭園へと向かった。


「うーん……夜風が心地よいですね」


 庭園のベンチに腰掛けながら、メルザが伸びをした。

 そんな彼女の身体のシルエットを見て、やはり完璧なプロポーションだと僕は再認識する。


「? どうしました?」

「あ、ああいえ……メルザが美しすぎて、思わず見惚れてしまっていただけです」

「あう……ヒューったら……でも、ありがとうございます」


 メルザは少し頬を赤く染めると、僕の胸にしなだれかかった。


「明日……何が見つかるのでしょうか……」

「分かりません……ですが、それによってサウセイル教授の企みを未然に防げるのなら、最高の結果なんですが……」


 僕はそう答えると、夜空を見上げる。

 あのサウセイル教授のことだ。たとえ転移魔法陣が見つかったとしても、僕達ではどうすることもできないような仕掛けが施されていたりする可能性がある。


 でも。


「メルザ。僕は、絶対にサウセイル教授の企みを阻止してみせます。この皇都は、僕とメルザの大切な場所なんですから」

「はい……私も、微力ながらヒューと共に……」


 僕は、見つめるメルザを優しく抱き寄せた。

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