久しぶりの夜デート?
「ふふ! 楽しいですね!」
その日の夜、僕とメルザは皇都の大通りを歩いていた。
目的はアビゲイルにシモン王子から聞いた話を共有することと、アビゲイルの調査に進展がないか確認するためではあるんだけど、それよりも、こうやって嬉しそうに微笑むメルザとの夜のデートが楽しくて、そして嬉しくて仕方がない。
「メルザ、あそこに美味しそうな屋台がありますよ! 行ってみましょう!」
「はい!」
僕はメルザの手を取り、一緒に屋台の前へと行くと。
「おじさん、これは何ですか?」
「おう、果物と生クリームを、小麦粉を焼いた生地でくるんだものだ。美味いぞ?」
「へえ……」
出来上がっているものを眺め、僕は思わず唾を飲み込んだ。
「ふふ、私も食べてみたいです」
「本当ですか? おじさん、二つください!」
「はいよ!」
注文を受け、おじさんは手早く生地を丸く伸ばして焼く。
両面焼きあがると、そこに果物と生クリームを乗せ、クルクル、と巻いた。
「お待ち!」
「メルザ、どうぞ」
「ありがとうございます」
一つをメルザへ手渡すと、僕は待ちきれないとばかりにかぶりついた。
「! 美味しい!」
「本当です!」
「ハハハ! だろ?」
うわあああ……果物の酸味と生クリームの甘さを、味が控えめな生地が包み込むことで、口の中で上手く混ざり合って、なんとも言えない美味しさに……!
「ふふ! 本当に、ヒューは美味しそうに食べますね!」
「当然です! だって、最高に美味しいんですから! 何より、大好きな女性と一緒だったら格別です!」
「あう……その、私もですよ……?」
僕の言葉に照れるメルザ。
そんな彼女は、やっぱり世界一可愛い。
「あ……ヒュー、少し失礼します」
「? どうしました? ……って」
――ちろ。
メルザは、僕の口元に付いていた生クリームを、舌ですくい取った。
「ふふ、これで綺麗になりました」
「あ、あはは……その、ありがとうございます……」
ニコリ、と微笑むメルザに、僕は熱くなった顔を誤魔化すようにしながら、お礼を言った。
だ、だけどメルザ、絶対にここが大通りだってこと忘れてるよね……。
「ほほう? 兄ちゃんと姉ちゃん、仲がいいねえ」
「え? …………………………あ」
ニヤニヤと僕達を見つめる屋台のおじさんに気づいたメルザの顔が、みるみるうちに赤くなっていく。
「ヒュ、ヒュー! 行きましょう!」
「わっ!?」
繋いでいた手を強引に引っ張られ、僕はメルザとその場から離れた。
おじさんの『幸せにな!』なんて言葉を背中に聞きながら。
◇
「あう……ヒューも気づいていたなら、言ってくれればよかったのに……」
アビゲイルの店の前まで来るなり、メルザが口を尖らせながら抗議する。
「あはは……すいません」
僕は苦笑しながら謝るけど、悪いなんて少しも思ってはいないんだけど。
だって、メルザにこんな風にしてもらえるなら、それこそ黙っているに決まっている。
おまけに、彼女のこんなに可愛らしい表情だって見られるんだからね。
「ヒューったら、全然謝っていないじゃないですか!」
「あ……」
しまった、メルザは嘘を見抜けるんだった。
「もう……」
「す、すいません……だけど、そんなに素敵なメルザが悪いんです。これを我慢しろだなんて、それこそ拷問ですよ」
「あう……し、仕方ありませんね……ならヒューも、私と同じように恥ずかしい思いをしてください」
そう言うと、メルザは上目遣いで僕を見た。
なるほど……このまだかなりの人が歩いている大通りのど真ん中で、それを僕にしろというのですね?
「あう!?」
僕はメルザの腰に抱きつくと、そのまま高々と持ち上げた。
「メルザ……顔をもっと近づけて?」
「こ、こうですか? ……ん……」
戸惑いながらゆっくりと近づけるメルザの桜色の唇に、僕は口づけをする。
「ん……ちゅ……ちゅく……」
「ふ……ん……ぷは……も、もう、これでは私まで恥ずかしいじゃないですか……」
「大丈夫。屋台の前の時、僕も恥ずかしかったからおあいこです」
「あう……」
そうして、もう一度メルザの唇を堪能しようと、顔を近づけ……「コホン」……っ!?
突然の咳払いに、僕とメルザが勢いよく振り向くと。
「フフ、さすがに店の前でそんなことをされると、営業妨害ですよ?」
「「ア、アビゲイルさん!?」」
苦笑するアビゲイルにたしなめられ、僕はメルザを降ろして肩を竦めた。
もちろん、それはメルザも。
「仲睦まじいのはいいですが、もう少し弁えましょうね。では、こちらへどうぞ」
「「…………………………」」
僕とメルザは、無言のままアビゲイルの後に続いて店の中へと入った。
あ、もちろん手は繋いだままだけど、ね。
「フフ……それで、今日はどんな御用ですか?」
「あ、はい。アビゲイルさんのほうの調査がどうなったかと……い、いえ、やっぱりいいです……」
店の奥にある部屋のソファーに腰掛けてそう切り出した途端、アビゲイルは眉根を寄せた。
どうやら思わしくないらしい。
「じ、実は、もう一つ大事なことをお伝えしておこうかと」
「大事なこと?」
「はい」
身を乗り出すアビゲイルに、僕は頷く。
「オルレアン王国の第三王子である、シモン王子からの情報提供です。僕達が倒したはずのエタンをはじめ四人を含む若い男女六人が、三日前に国王と謁見したそうです」
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