今後と束の間の日常
「ふう……やれやれじゃわい……」
セイルブリッジの街に飛び込んだ僕達は、馬車を止め、その場にへたり込んで息を吐く。
しかし、サウセイル教授もやってくれるね……。
「それでヒューゴ君、これからどうするつもりだ?」
「もちろん、皇都に戻ってサウセイル教授の企みを阻止します。何をしようとしているのか、大体は分かりましたからね」
「ヒュー……あの人は、一体何をするつもりなのですか……?」
僕の腕に抱きついているメルザが、顔を覗き込みながらおずおずと尋ねる。
「あの会話にもあったとおり、サウセイル教授は皇都をどこかへ飛ばしてしまおうと考えているんです。得意の転移魔法によって」
「「「「「っ!?」」」」」
僕の言葉に、五人が息を飲んだ。
「で、ですがヒューゴ様、さすがに皇都全体となると、かなり大規模な転移魔法陣になる上に、それこそ魔石がいくらあっても足りません! たとえ“深淵の魔女”……いえ、“原初の魔女”であっても、そんなことは不可能です!」
この中で最も魔法の知識に長けているヘレンが、声を荒げて否定する。
確かにヘレンの言うとおり、そんなことは不可能だとしか思えない。
だけど。
「……彼女の言葉の中で、皇都を消すことに関しては嘘はなかった。つまりは、そういうことなんだ」
「う……」
メルザの素性を知っているヘレンは、それに思い至って押し黙る。
悔しいけど、それが事実なんだ。
「ヒューゴさん、だったらどうするんです? さすがに、そんな巨大な転移魔法陣を発動されたら、どうあがいても無理だと思うんですが……」
「もちろん、その転移魔法陣が発動する前に防ぎます。サウセイル教授なら、既に皇都内に仕掛けているでしょうから」
あくまでも僕の推察によると、その巨大な転移魔法陣は地下にある可能性が高い。
そして、地上では転移魔法陣を隠すために、あの圧縮された魔石をばら撒いたのだろう。
「……そして魔石に関しては、いざ転移魔法陣を発動する際に邪魔をされないよう、その直前に魔石を暴発させて混乱に陥れるためのものでしょうね」
「つまりは、テロと見せかけた陽動というわけじゃな」
大公殿下の言葉に、僕は頷く。
「なら、やることは決まったわい! 皇都に散らばる魔石を回収して隔離しつつ、地下にあるであろう転移魔法陣を破壊するのじゃ!」
「「「「「はい!」」」」」
僕達は、大公殿下の檄に力強く頷いた。
◇
ゲートを使って皇都へと戻った僕達は、サウセイル教授の企みを阻止するために早速動き出す。
大公殿下はパートランド卿に指示し、皇都内の魔石の回収を引き続き行わせると共に、転移魔法陣があると思われる地下への入口の捜索を行っている。
アビゲイルもアビゲイルで、珍しく闇の住人に皇都で異変がないかなど、色々と情報を集めていたりしていた。
本来は調理にしか興味がない自分本位な彼女でも、やはり皇都が失くなってしまうのは受け入れられないのだろう。
そして、僕達はというと。
「ここ、試験に出るからよく覚えておくように」
まるで何事もなかったかのように、僕とメルザはモニカ教授の授業を受けていた。
屋敷にいるヘレンも、今頃は侍女としての仕事に勤しんでいることだろう。
まあ、僕達が焦ったところで、捜索は人海戦術がものをいうのだから、仕方ないんだけど。
ここは、素直に大公殿下とパートランド卿、それにアビゲイルに任せよう。
「ふふ……ヒューったら、真面目に授業を受けないと駄目ですよ?」
「あ、あはは……分かってはいるのですが、一度受けたことのある授業というのは、どうにも……」
苦笑しながらたしなめるメルザに、僕は思わず頭を掻いた。
だけど、二回目の人生で全く同じ内容の授業だったから、どうしても退屈になってしまうのは仕方がない。
前の時は、学べるというそれだけで嬉しかったんだけどなあ……僕も贅沢になったものだ。
「む! ヒューゴ君、授業に集中できていないな! なら、この問題を解いてもらおう!」
黒板をチョークでコツ、コツ、と叩きながら、モニカ教授が前に出てくるように促す。
うう、ちょっと失敗した……。
僕は恐縮しながら黒板の前にやって来ると、問題を解く。
「ぐぬぬ……正解だ」
「そ、その……すいませんでした……」
悔しそうに歯ぎしりをするモニカ教授に、僕は平謝りしてから席へと戻った。
「では、今度こそ真面目に授業を受けましょう」
「はい……」
メルザに可愛く叱られてしまった僕は、授業に集中した。
そして。
「ヒューゴ、この後いいだろうか?」
午前の授業が終わるなり、真剣な表情のシモン王子に誘われてしまった。
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