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越境

「ど、どうして……!」


 メルザの雷の槍で胸に風穴を開けた少女が、睨みつけながら声を振り絞って尋ねる。


「どうして? 決まってる。そもそも僕は、一人で(・・・)なんて戦うつもりはなかったよ」


 そう……僕には、ヴァンパイアで魔法の使い手である最愛の婚約者がいる。

 サウセイル教授からメルザのことは聞いていたはずだろうに、勝手に僕一人で相手にすると考えたことがそもそもの間違いだ。


「く……そ……」


 手を伸ばそうとする少女を、僕は無情にもその首を斬り落とした。

 もちろん、もう一人の少女にも。


「さあ、あとはアビゲイルだけど……」


 僕は、アビゲイルさんと翼の少女のほうへと視線を向ける。


 すると。


「……鬱陶(うっとう)しい」

「あは♪ それはどうも♪」


 初手で翼を斬りつけられたからだろうか、少女は浮上することもなく、地上でアビゲイルと交戦していた。


 ……いや、翼だけが原因じゃないな。

 よく見ると、少女の翼と脚は金属の細い糸で(から)め取られ、思うように身動きがとれなくなっていた。


 あはは、さすがは“影縫いアビゲイル”だ。

 獲物を確実に調理(・・)するため、いかなる手段も選ばない。まさに、伝説の暗殺者らしい戦い方だ。


 そして……一回目の人生で何度も見た、僕の師匠の(わざ)だ。


「あは♪ 結局、大したことないわね♪」

「……うるさい」


 アビゲイルが、不必要に少女を(あお)る。

 これもまた、相手の感情を揺さぶって少しでも戦闘を有利にするためのもの。


 こうやって、少しずつ少しずつ、背後から()が忍び寄ってくる。


 そして。


「あは♪ 終わり♪」


 翼の少女の左の肩口へ、ククリナイフを勢いよく振り下ろす……っ!?


「……あなたがね」

「っ!?」


 なんと、少女が白い翼を大きく広げると、そこから無数の羽根がアビゲイル目がけて放たれた。

 それらは、全てアビゲイルの全身に突き刺さる。


「……結局、大したことないわね」


 横たわるアビゲイルを見下ろしながら、翼の少女がそう呟く。

 まるで、さっきのアビゲイルの言葉へのお返しとばかりに。


「……ハア、リカとルカ、やられちゃったんだ。面倒だなあ……」

「…………………………」


 溜息を吐きながらこちらを見やる翼の少女を、僕はサーベルを構えることなく、ただ見つめる。


「……じゃあ、次はあなたの番」

「ん? それ、僕に言ってる?」


 彼女の言葉を受け、僕はわざととぼける。


 だって。


「まだ、終わっていないのに?」

「……?」


 僕の言っている意味が分からない少女は、首を傾げる。

 心配しなくても、すぐに分かるよ。


 ほら。


「あは♪」

「っ!?」


 ――ザシュ。


 少女の背後から、アビゲイルのククリナイフが首に突き刺さった。


「ど、どうして……?」

「あは♪ 知らない♪」


 振り返って目を見開き、少女が震える声で尋ねるけど、アビゲイルは嘲笑(あざわら)いながら答えようとはしない。

 そのまま、もう一本のククリナイフも首へと打ち込み、まるでハサミのようにして首を切り取る。


「……さすがですね」


 アビゲイルに駆け寄り、僕は転がる少女の首とアビゲイルに(・・・・・・)見えて(・・・)いたもの(・・・・)を見やった。


 これはアビゲイルの暗殺術の一つで、環境にあるものを利用し、錯覚させるために秘伝の調合で作った粉末で、相手を幻惑してアビゲイル本人だと錯覚させ、その隙をついて敵を仕留めるといったもの。


 本当に、暗殺に関しては何でもあり(・・・・・)だな。


「さて……これで、ここに取り残されているのは私達二人だけですね」


 普段の様子に戻ったアビゲイルが、そう話しかける。


「そうですね。ですが、メルザの魔法による援護もありますし、大公殿下達に合流さえすれば、オルレアン王国の兵士を蹴散らすのは難しくありません。何より……僕とアビゲイルさんの二人なら、簡単に突破できるでしょう?」

「あは♪ 本当、ヒューゴさんって私好みよ♪」

「残念、僕には既にメルザがいますから」


 アビゲイルがニタア、と口の端を吊り上げてそんなことを言ったので、僕は即座に断った。

 ちょっとでもつけ入る隙を見せると、アビゲイルは何としてでも手に入れようとするから。


「では、行きましょう」

「あは♪」


 僕達は一気にオルレアン王国の軍勢へと突撃し、アビゲイルの援護を受けながら、まずは騎乗している兵士に飛びかかった。


「悪いが、ここで降りてもらおう」

「ガガ……ッ!?」


 甲冑の隙間からサーベルを首元へ差し込み、兵士の息の根を止める。

 これで、馬が手に入ったぞ。


「アビゲイルさん!」

「あは♪」


 交戦しているアビゲイルの手を取り、馬上へと引き上げた。


「後方の支援を頼みます」

「任せて♪」


 僕達は一気に突っ切って行くと、オルレアン王国軍が二つに切り裂かれるかのように道を開けていく。


「っ! 追いついた!」


 前方には、馬車を背にしながら戦っている大公殿下とモニカ教授の姿が。


「メルザ!」

「っ! ヒュー!」


 僕は馬を全速力で走らせ、馬車の横へと並ぶと。


 ――ダンッッッ!


 馬の背から跳び上がり、両手を広げて僕を待つメルザへと飛び込んだ。


「メルザ……今、戻りました」

「ヒュー……ヒュー……!」


 メルザが嬉しそうにしながら、僕の胸に頬ずりをする。


 そして。


 ――僕達六人は、無事にオルレアン王国の国境を越えた。

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