国境前の戦闘
「……待ってた」
「「ねー!」」
あの翼を生やした少女と、双子らしき少女が二人、それにオルレアン王国の軍勢が、僕達を待ち受けていた。
「はは……なるほど、ね……」
オルレアン王国の大軍を目にし、僕は思わず声を震わせ、薄ら笑いを浮かべる。
でも。
「ふふ……腕が鳴りますね」
僕の最愛の人は、こんな時でもただ優雅に、微笑みを湛えていた。
本当に、すごい女性だ。
「はっは! このほうが、分かりやすくていいわい!」
「そうですね! あとは、突っ切るのみ!」
大公殿下がハルバードを、モニカ教授が大剣を構え、気勢を上げる。
「あは♪ ねえヒューゴさん、あの翼を生やしたアレ、私が調理してもいいかしら♪」
「あはは、もちろんです。思う存分振る舞ってください」
「話が分かる♪」
元々、あの翼の少女のせいでエタンが連れ戻され、余計な目に遭ってしまったんだ。
アビゲイルからすれば、思うところもあるだろうし。
何より……翼の少女に魔法が効かないのであれば、様々な暗殺術を誇るアビゲイルが戦うほうが向いているかもしれない。
これは、何でもありなんだから。
「ヘレン……僕達が国境までの道を作る。だから君は、その隙に間を通り抜けて皇国へ逃げろ」
「っ!? わ、私も戦います!」
「駄目だ。そもそも君が戦闘に向いていないことくらい、自分でも分かっているだろう」
「…………………………」
僕の言葉に、ヘレンは悔しそうに唇を噛みしめる。
「……僕達にはヘレンを庇う余裕もないし、これが最善なんだ。それに……僕だって、こんなところで姉を失いたくないから」
「……ずるい言い方ですね」
まあ、彼女の最愛の弟を引き合いに出したんだから、ずるいのは間違いない。
でも、その気持ちも嘘じゃないから。
「……僕が三つ数えると同時にメルザは攻撃魔法を放ってください。その後、小細工なしに一気に突撃します。大公殿下とモニカ教授が先陣で敵を蹴散らし、ヘレンは馬車で突っ切る。そして、アビゲイルさんは翼の少女を」
「ヒューはどうするのですか?」
「僕達は、あの双子の少女の相手をします」
僕はメルザを見て頷き合うと、サーベルの柄に手をかけた。
……一瞬で、あの二人の首を取る!
「三……二……一……」
みんなの唾を飲み込む音が聞こえる。
そして。
「メルザ!」
「食らいなさい! 【雷槍】!」
馬車の荷台で立ち上がったメルザが、オルレアン王国の軍勢に向かって巨大な雷の槍を放つと、大勢の兵士が吹き飛んだ。
この威力……あのサファイア鉱山で放った時と同規模じゃないか!?
「さあ! 次は私達の番じゃ!」
「はい!」
大公殿下とモニカ教授が巨大な武器を振り回し、混乱する兵士達を次々となぎ倒していき、そのすぐ後には、ヘレンが馬車を走らせる。
「……させない……っ!?」
「あは♪」
翼の少女が大公殿下達を追いかけようとした瞬間、アビゲイルが翼をククリナイフで斬りつけた。
さあ、僕も始めようか。
「えへへ、ひょっとしてリカの相手をしてくれるの、君かなー?」
「違うよ! この人の相手はルカだよ!」
「違うもん! リカだもん!」
「ルカだ!」
「リカだ!」
……双子の少女達が、喧嘩を始めてしまった。
でも、これはこれで好都合だ!
僕は一気に双子の少女に詰め寄り、抜刀術でその首を狙……っ!?
「もー……君、ちょっとせっかちだよ?」
「そーそー、それじゃ女の子にモテないんだからね?」
「「ねー!」」
二人はそう言って、笑顔で頷き合う。
だけど……この二人、一瞬で掻き消えたな。
ということは、サウセイル教授と同じ、転移魔法の使い手ということか?
なら。
僕は腰を低く落とし、左手を鞘に、右手を柄に添える。
これなら、たとえ転移魔法で瞬時に移動したとしても、サーベルの間合いに入ればそれこそ一瞬で刈り取れる。
「どうした、来ないのか?」
「そりゃそうだよ。だって、リカ達が近づいた瞬間、その剣で斬るんでしょ?」
「えー! そうなの?」
「そうだよ!」
リカという少女の言葉に、もう一方のルカという少女が驚いて叫ぶ。
「なーんて驚いてみたけど、そんなの別にどうでもいいんだけどね。それよりさー、エタンはいけ好かない奴だったけど、一応はルカと同じシェリル様の子どもだったんだよ」
どこか呑気な様子だった二人の空気が、急に冷たくなる。
「まあねー、リカはエタンのこと嫌いじゃなかったかな。目の前のコイツを八つ裂きにしないと気が済まないくらいには」
「っ!?」
突然、双子の少女は殺気を込めた視線を送ってきた。
どうやら、これが本性みたいだな。
「あはは、面白いな。僕も、君達二人の首を刈らないと気が済まないんだよ」
そう言って、僕は殺気を……送らず、むしろ平静を保つ。
勝負は一瞬だからね。
そして。
「「えへへ!」」
不気味な嗤い声と共に、二人は一瞬でその姿を消す。
同時に、僕の背後に一つの気配が現れた。
「シッ!」
僕は身体を素早く反転させ、その気配を横薙ぎにした。
「え、えへへ……バーカ」
上半身と下半身が真っ二つになり、口から大量の血を吐きながらも、双子の少女の一人がニタア、と口の端を吊り上げた。
「死んじゃえ!」
その瞬間、残る一人の気配が僕の背中にまとわりついていた。
だけど。
「オマエがね」
「ガフ……ッ!?」
そんな僕の言葉と共に、馬車の荷台に立つメルザが超高速で放った雷の槍が、双子の少女の胸を穿った。
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