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原初の魔女、シェリル=ダスピルクエット=サウセイル

「あは♪ ただいま♪」


 アビゲイルが、口の端を吊り上げながら無事に宿へと戻ってきた。


 その右手に、エタンの首を携えて。


「アビゲイルさん……よくご無事でした。ですが、その首をよく取ってこれましたね……」

「あは♪ 大変だったわ♪」


 言葉とは裏腹に、アビゲイルは口の端を三日月のように吊り上げている。

 僕はチラリ、とメルザを見ると……うん、少し呆れてはいるものの、どうやら彼女に悪意(・・)()はないみたいだ。


 本当に、とんでもない暗殺者だな……。


「では、今すぐにこの王都から脱出しましょう。ヘレン」

「はい、準備は整っています」


 僕達はヘレンの後に続き、転移魔法陣のスクロールが敷かれている部屋へと移動する。


「みんな、乗りましたか?」

「はっは! もちろんじゃ!」


 メルザを抱きしめながらそう告げると、大公殿下達が頷く。


「さあ、行きます!」


 そして、転移魔法陣を発動させるため、手に持つ魔石を握りしめる…………………………え?


「ど、どういうこと!?」

「コッチもじゃ! うんともすんとも言わんわい!」

「私もです!」


 どういうわけか、転移魔法陣が発動しない!?

 皇都で念のため確認した時は、確かに問題なく使えたのに!


「……この魔法陣はシェリルが作ったもの。ならば、使えなくすることも可能、ということか……」

「で、ですが! 使用できないようにするためには、最低でもサウセイル教授が近くに来て発動しないように操作しないことには……『あらあら、そんなに焦ってどうしたんですか~?』……っ!?」


 突然聞こえたサウセイル教授の声に、僕達は周囲を見回す。


 すると。


『ウフフ……ここですよ~』

「っ!? エタンの口が勝手に動いている!?」


 首だけになったエタンが、サウセイル教授の声で話していた。

 その表情も、サウセイル教授のあの不気味な笑みを浮かべながら。


『だけど私の可愛い子ども(・・・)が、まさかこうやって殺されるだなんて思いもよらなかったわ~。ヒューゴさん、いつの間にそんなすごい人を仲間にしたんですか~?』

「あは♪ “深淵の魔女”に褒められるなんて光栄ね♪」


 そう告げるや否や、アビゲイルはククリナイフをエタンの脳天に突き刺した。


 だけど。


『ウフフ、無駄よ~。それと、私の二つ名は“深淵の魔女”じゃないわ~』

「馬鹿な! シェリルは前の戦で、オルレアン王国からそのように呼ばれ、畏怖される存在になったのだ! 嘘を言うな!」


 モニカ教授が、首に向かって叫ぶ。

 ずっと親友だと思っていたモニカ教授だからこそ、そんな大切な過去を否定されることが許せないんだろう。


『いいわ、特別に教えてあげる~。私の本当の名は“原初の魔女”、シェリル=“ダスピルクエット”=サウセイルよ』


 急にいつもの間延びする話し方を止め、エタンの首がそう告げた。

 そんな首を見つめながら、アビゲイルが目を見開いている。


「“原初の……魔女”……」

「知っているのですか?」


 珍しく(おのの)いた表情を見せたアビゲイルに、僕はおずおずと尋ねた。


「……あは♪ 後で話すわ♪」


 冷や汗を流しながら、アビゲイルが口の端を吊り上げた。

 だけど……サウセイル教授というのは一体……。


『ウフフ……せっかくここまで来たんだから、いいことを教えてあげる。あなた達の考えているとおり、私は皇国を出る前に仕掛けをしておいたわ。皇都を、一瞬で消し去る仕掛けを』

「っ!?」


 やはり……シモン王子の情報は正しかったな……。


「それは、皇都に捨て置かれている魔石が関係しているのですか?」

『ええ、関係しているわよ』


 尋ねてみるが、サウセイル教授はとぼけて答えない。

 僕はメルザを見てみると……ゆっくりと首を左右に振っている。


 ……どうやら、エタンの首を遠隔操作(・・・・)していても、悪意(・・)()は見抜けるみたいだ。


「なるほど……では別の質問ですが、あなたの得意な転移魔法陣を用いて、皇都を一瞬で消し去ることを考えていたりしますか?」

『ウフフ、いくら“原初の魔女”の私でも、そこまで大がかりな真似ができると思っているの?』


 クスクスと(わら)うサウセイル教授。

 対して、メルザは首を縦に振った。

 つまり……彼女の思惑は、転移魔法陣で皇都を一気に飛ばしてしまうこと。


 そして、それだけ巨大な転移魔法陣を作動させるためには、とんでもない量の魔石が必要になる。

 もちろん、皇都で見つかったあの高密度の魔石を全てかき集めたとしても、到底足らないだろう。


 なら……。


「……大体、考えがまとまってきました。それで、サウセイル教授は僕達をこのまま逃がしてはくれない、ということでよろしいですか?」

『いいえ? 好きにすればいいと思うわ。ただし、私以外(・・・)はどうか分からないけど』

「その言葉だけで充分です」

『っ!?』


 僕は、エタンの首をその頭蓋骨ごと細切れに斬り刻んだ。


「ヒューゴ君! まだ話は終わっていなかっただろう! どうしてそんな真似を!」

「話は後です。とにかく、馬車に乗って急いでこの国を脱出しましょう。おそらく、オルレアン王国の軍勢に加えて、エタンとの戦闘時に見た翼を持った少女も襲ってくるでしょうから」


 サウセイル教授自身にその気はなくても、彼女の部下やオルレアン王国は僕達を狙うはず。

 何より、あのように語ったということは、僕達の存在を既にオルレアン王国側にも伝えてあると考えて間違いないだろう。


「今は一刻を争います! さあ、行きましょう!」

「「はい!」」

「「うむ!」」

「あは♪」


 僕達は、宿に停めてある馬車に乗り込むと、全速力で走らせた。

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