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待ち伏せ

「それで、明日はどのような段取りで?」


 結局、依頼も受けずに宿に帰った僕達は、大公殿下達と一緒に明日のことについて協議している。


「はい。僕、メルザ、アビゲイルさんの三人で、ヘレンが今日出してくれた依頼をエタンと一緒に受けます。大公殿下とモニカ教授は、先に郊外で待ち構えていてください」

「おう! 任せるのじゃ!」

「うむ、承知した」


 大公殿下とモニカ教授が、力強く頷く。

 どうやら二人共、二日酔いは治ったみたいだ。


「ですが、エタンが果たして私達の思惑どおりに動いてくれますでしょうか……」


 ヘレンが口元を押さえながら、そう呟く。


「というと?」

「はい。そもそも、昨夜ヒューゴ様とメルトレーザ様がエタンと接触した時は、別れ際に明確な悪意(・・)を見せたのですよね? であれば、それはヒューゴ様達の存在を知っているということです」

「ああ、そのとおりだ」

「なら、逆にヒューゴ様達を罠に()めようとしてくるのでは?」

「なるほど……」


 確かに、ヘレンの言うことにも一理ある。

 だけど、肝心なことを忘れているみたいだ。


「ヘレン、向こうが僕達のことを知っているように、僕達もエタンの素性に気づいていることを忘れていないか?」

「あ……」


 そう……エタンは、僕達があの男の正体……サウセイル教授の手先だと気づいていることを知らない。

 なら、もし僕達の排除を目的として今回の状況を利用しようとしてくることは、好都合でもある。


「……なので、僕達はこの状況を逆手に取り、エタンを追い詰めます。おそらく、王都の郊外にはエタンの仲間が僕達同様、待ち伏せをしているでしょうから、そこは大公殿下とモニカ教授に期待しましょう」

「はっは! そこにおる者共を、全員仕留めればよいのじゃな!」

「ふふ……大公殿下、こうしてご一緒して戦うのは久しぶりですね」


 豪快に笑う大公殿下に対し、モニカ教授は不気味な笑みを浮かべた。

 モニカ教授のこういった表情や二面性も、“赤い死神”と呼ばれている所以(ゆえん)なのかもしれないな……。


「そういうことですので、明日は朝早いですから、今日はゆっくりいたしましょう。ただし、お酒はなしです」

「そ、そんなあ……」


 僕の言葉に、大公殿下が心底ガッカリした表情を浮かべた。


「お爺様、子どもみたいなことを言わないでください」

「むうう……婿殿と孫娘が厳しい……」


 うなだれる大公殿下をそのままに、僕はメルザと共に部屋へと戻った。


 すると。


「メルザ……?」

「ふふ……お爺様がお酒を禁止したからといって、私がヒューを我慢する必要はありませんよね?」


 部屋に入るなり、メルザは悪戯っぽい笑みを浮かべながら、僕の首に腕を回して抱きついた。


「あはは、もちろんです。むしろ、メルザは存分に英気を養ってください。僕も、メルザを補充させていただきますので」

「はい……ん、ちゅ……はむ、かぷ……ん、ん、ん……」


 ついばむような口づけをしたあと、メルザは僕の首筋に牙を突き立て、恍惚の表情で僕の血を堪能した。


 ◇


「よう! 今日の体調は万全か?」


 僕とメルザ、アビゲイルが冒険者ギルドにやって来るなり、既に来ていたエタンがニカッと笑顔を向けながら僕の背中を思い切り叩いた。


 なお、このエタンよりも機嫌が良さそうにしているのがアビゲイル。

 どうやら昨日の三人組を調理(・・)して、かなりストレス発散になったようだ。


 だけど……彼女は、根っからの殺人狂なんだなあ……。


「それで、今日ご一緒する依頼なんですが……」

「ああ、ちょうどおあつらえ向きの依頼があったぞ。金級冒険者一名の参加を条件とした、王都郊外の魔物討伐だ。何より、報酬が破格なんだぜ!」


 そう言って、エタンは嬉しそうに頷く。

 だが……どうやら無事に、餌に食いついたようだ。


「ですが、報酬は破格、しかも金級冒険者の一名同行が条件となると、かなり厳しい依頼なのでは?」

「それがだな、依頼人が素人だからなのか、その魔物の種類が分かんねえみたいだけど、特徴からするとバジリスクみてえなんだわ」

「「「バジリスク?」」」


 一応、バジリスクは猛毒を持つ蛇の魔物ではあるが、強さとしてはそこそこ。少なくとも金級冒険者が必要な相手じゃない。

 ……まあ、所詮はエタンをおびき寄せるための、でっち上げでしかないんだけどね。


「おう! そういうことだからよ、心配する必要はねえぞ!」

「ミュウ、よかったね」

「ええ!」


 僕とメルザは、エタンの言葉を聞いて嬉しそうに微笑み合うふり……いや、そんなことはないな。

 だって、たとえ演技でもメルザのこんな笑顔を見たら、誰だって見惚れてしまうに決まっている。


「あ……ふふ、もう。口元が緩んでますよ? ヒル」

「あ、あはは……」


 メルザに指摘され、僕は苦笑する。


「……ハア。相変わらず、お前達のバカップルっぷりにはまいるぜ……どこかに砂糖抜きのお茶はねえかな……」

「フフ、この二人と付き合うには、少し慣れが必要ですから」


 頭を掻きながらそんなことを言うエタンと、クスクスと笑いながら皮肉を言うアビゲイル。

 まあ、僕とメルザがこんなに甘いのは仕方ないよね。


 ということで、僕達はいよいよ王都の郊外に向けて出発する。

 基本、移動は馬屋で荷馬車を借りて移動するので、結構楽だったりする。


 そして。


「よお、あのあたりがそのバジリスクって奴がいるポイントなんだけどさ……ヒル、ちょっと見てきてくれねえか?」

「分かりました。ミュウ、行こう」

「はい!」

「おっと、悪いがヒル一人で行ってきてくれ。万が一(・・・)ってこともあるからな」

「……分かりました」


 指示を受け、メルザと一緒にその場所へ向かおうとしたら、エタンが僕だけに行くように告げたので、それに従う。


 なるほど……どうやら僕とメルザを分散させ、おそらく待ち構えているであろう手下共が襲ってくるって寸法か。

 で、メルザとアビゲイルはエタンが相手をする、と。


 メルザが魔法使いだということはサウセイル教授から聞いて分かっているだろうし、アビゲイルも名目上は(・・・・)銀級冒険者。見る限り近接戦闘が得意なエタンからすれば、二人を相手したところで(くみ)しやすいと考えたんだろうな。


 ……本当は、ヴァンパイアと伝説の暗殺者なんだけど。


 そんなことを考え、クスリ、と微笑んでいると。


「はっは、お疲れじゃの」


 岩場の陰から、笑顔の大公殿下とモニカ教授が声をかけてきた。

お読みいただき、ありがとうございました!


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