冒険者ギルド
「ええと……こちらで合っているのかな……」
僕とメルザ、そしてアビゲイルは宿を出て、この王都にある冒険者ギルドへと向かっている。
もちろん、金級冒険者のエタンに会うために。
「ヒュー、さすがにこの格好は少々暑いですね……」
「申し訳ありません。ですが、さすがに傘を差して歩いてしまうと、それこそ目立ってしまいますので……」
メルザは今、いつもとは異なり傘を差すのではなく全身を覆うようにポンチョを羽織り、フードを被っている。
もちろん、メルザの白い肌が陽射しによって焼けてしまわないようにするためだ。
「フフ……だけど、やはり綺麗な肌だと弱くなってしまうのは仕方のないことかもしれませんね」
「「そ、そうですね……」」
アビゲイルの言葉に、僕とメルザは誤魔化すように笑った。
さすがに、メルザがヴァンパイアであることを明かすわけにはかないからね……。
すると。
「あ、あれがそうみたいですよ」
大通りから少し外れた場所に、ひと際大きな建物が僕達の視界に入った。
そして、その建物には冒険者ギルドを表すマークの入った看板が掲げられており、冒険者らしき者達も出入りしていた。
「さあ、行きましょう」
僕達は冒険者ギルドの扉をくぐると、中は大勢の冒険者達でごった返していた。
特に、掲示板のようなところの前と受付があるカウンターには、行列までできている。
「どうやら、ちょうど今日の依頼が貼り出されたタイミングのようですね」
アビゲイルの言葉に、僕達は頷く。
「さて……エタンはこの中にいるかな……?」
僕達は掲示板を見るふりをして、エタンがいないか探すが……どうやらギルド内にはいないようだ。
さて……どうしたものか……って。
「……あなた方は、昨日の……」
「よお、オマエ等も依頼を受けに来たのかい?」
下卑た笑みを浮かべた冒険者の三人組が、昨日に引き続きまた絡んできた。
「やめとけやめとけ、オマエ等みたいなひよっこじゃ、魔物に食われて死ぬのがオチだ」
「つーかよ、その隣の姉ちゃんもべっぴんだな、オイ」
「「…………………………」」
冒険者達の不快な視線に、メルザが無言で睨みつける。
一方で、アビゲイルはどこか楽しそうに三人を眺めていた。
「フフ、私のことが綺麗だなんて、ありがとうございます」
「おうよ! どうだ? そんなガキなんてほっといて、俺達と昼間っから遊びに行かねえか?」
あー……冒険者ギルドに来て依頼も受けずに女性を口説くこの連中って一体……。
「あらあら、せっかちな男性は嫌われますよ? でしたら、今晩にでも……」
「ま、しょうがねえなあ。んじゃ、夜にまたここで落ち合おうぜ」
「フフ、楽しみにしています」
クスクスと笑うアビゲイルに見惚れる三人組は、嬉しそうにしながら僕達から離れていった。
そして、そんな三人を眺めながら、アビゲイルが小さな声で『あは♪』と嗤った。
……あの三人、明日の朝にはシチューになるのか……。
その時。
「くああ……畜生、眠いなオイ……」
大きな欠伸をしながら、筋骨隆々の大柄な男……僕達が探していた、金級冒険者のエタンがギルドの中に入ってきた。
ただ、昨日と違い、その腰に大振りの手斧を携えながら。
「エタンさん、昨日はありがとうございました」
僕は早速エタンに近づき、にこやかに話しかける。
「ん? おお! “ヒル”に“ミュウ”じゃねーか!」
エタンは、僕達に気づくなり破顔して背中を思い切り叩く。
「ところでミュウは、そんなに暑苦しそうな格好して大丈夫か?」
「は、はい。大丈夫です」
「そっか、ならいいんだけどよ。ところで、ソッチの姉ちゃんは?」
僕達の後ろにいるアビゲイルを指差し、エタンが尋ねる。
「はい、私は“アビー”といいます。ヒルさん達と一緒に、パーティーを組んでいるんです」
「へえ……そうだったのかい……」
エタンは、興味深そうにアビゲイルを眺める。
「フフ……この子達に聞きましたが、エタンさんは金級冒険者とのこと。でしたら、是非ともこの子達に冒険者の先達として指導くださると嬉しいですね」
そう言って、アビゲイルが胸元を広げ、その豊満な胸の谷間から何かを取り出した……って!?
「おお! アンタ、銀級冒険者だったのかよ!」
「はい。この子達は、私が冒険者のイロハを教えているのですが、私は斥候ですので……」
「ああ、なるほどな。確かに、戦闘に関しては斥候じゃ教えるのは難しいか」
アビゲイルの言葉に、エタンが納得顔で頷く。
「よし! そういうことなら分かったぜ! だったら、今日はちょっと別の依頼を受けちまってるから無理だが、明日からなら問題ねえ!」
「ありがとうございます。ところで……そうすると、エタンさんのパーティーとも顔合わせをしておきたいのですが……」
「ああ、それには及ばねえよ。なにせ俺は、ソロで冒険者をしてるからな」
「なるほど……」
ふむ……なら、サウセイル教授の手下で冒険者をしているのは、このエタンだけってことか?
とはいえ、サウセイル教授側がどうなっているか分からない以上、考えるだけ無駄か……。
それに、明日になればこの男が教えてくれるのだから。
「んじゃ、明日はよろしくな!」
「はい! どうぞよろしくお願いします!」
手をヒラヒラさせながら受付へと向かうエタンを見送り、僕達もその場から離れた。
「ところで……どうして銀級冒険者だということをみんなに黙っていたのに、エタンには言う気になったんですか?」
「フフ……みなさんには別に言う必要もないかと思いまして。ですが、銀級だと伝えたほうが、あのエタンという男にもいい印象を与えると思いませんか? それに、銀級はそこそこの扱いなので、目立ちもしませんから」
そう言って、アビゲイルはクスリ、と笑った。
ハア……本当は、金級のプレートも持っているくせに……。
僕は知らないふりをしつつ、これ見よがしに溜息を吐いた。
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