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悪意ある接触

「……お二人共、少々帰りが遅いようですが?」


 宿に帰ってくるなり、腕を組んで仁王立ちのヘレンに捕まってしまった……。


「あ、あはは……実は……」


 僕は、冒険者達に絡まれているところを助けてくれた、金級冒険者のエタンという男のこと、その後、エタンに付き合わされて酒場に行っていたことを説明した。


「ハア……ヒューゴ様、メルトレーザ様、これからはそのようなところに行ってはいけません」

「う……す、すまない……」

「ごめんなさい……」


 僕とメルザは、少しだけ反省の意を込めて謝罪した。


「と、ところで、あの三人はどうしてる?」

「はい、大公殿下とアビゲイル様はまだ食堂でお酒を飲んでおられます。モニカ様は飲み過ぎで気分がすぐれないようです」

「そ、そうですか……」


 モニカ教授は体調不良か……なら、彼女抜きで話だけしておくか。


「分かった。ヘレンも一緒に食堂に来てくれ」

「かしこまりました」


 僕達三人は、すぐに食堂へと向かうと。


「おお! 婿殿、メル、帰ってきたか!」

「フフ……楽しかったですか?」


 大公殿下とアビゲイルは、ワイングラス片手にご機嫌な様子で僕達に声をかけた。

 だ、だけど、このワインの本数……少々飲み過ぎなのでは……。


「え、ええと……きょ、今日はもう寝ることにします……」


 本当は話をしたかったけど、この惨状を見て僕はもう諦めることにし、メルザの手を引いてそそくさと食堂から出た。


「ハア……そういうことなので、明日の朝食後にするよ……」

「かしこまりました」


 恭しく礼をするヘレンに見送られ、僕とメルザは部屋へと戻った……といっても、メルザも僕の部屋に来て一緒にベッドに腰かけているんだけど。


「……本当に、お爺様ったら……」


 こめかみを押さえ、メルザはかぶりを振った。


「あ、あはは……それより、まさか向こうから接触してくるとは思いませんでしたね……」


 そう……僕達を冒険者達に絡まれていたところを助け、先輩として酒場で奢ってくれた気さくな金級冒険者、エタン。

 普通なら間違いなく騙されるんだろうけど、あいにくメルザは見逃さなかった。


 銀貨を置いて立ち去ろうとした時、店を出るほんの一瞬だけ悪意(・・)(のぞ)かせてしまったのだ。


「ふふ……まさか初日から手掛かりが向こうからやって来るなんて、本当に僥倖(ぎょうこう)でしたね」

「ええ……ですが、それはメルザだからこそ見抜けたんです。本当に僕の愛する女性(ひと)はすごい方です……」

「あ……ふふ、ヒューに褒めていただけて、心から嬉しいです……」


 メルザは、僕の胸にしなだれかかる。


「メルザ……すいません、僕はもう我慢できそうにありませんので、あなたの唇を求めてもよろしいでしょうか……?」

「はい……存分に……」


 彼女のお許しをいただいたので、僕は早速顔を近づけると。


「ん……ちゅ……ちゅく……」


 その桜色の柔らかい唇を、思う存分堪能する。

 でも……もう少しだけ、進んでみたくなって……。


「っ! ……ん、んふ……ちゅ……れろ……ちゅぷ……」


 僕は、メルザのその可愛らしい口の中に舌を侵入させた。

 最初は彼女も驚いたけど、すぐに僕の舌に絡めてきた。


 メルザ……メルザ……!


「ちゅ、じゅぷ……ぷは……ふふ、ヒューの舌、美味しい……」

「は……メルザ……」

「次は、私の番……」


 今度はメルザが僕の首筋に顔を近づけると、牙を突き立てる。


「かぷ……ん、んく……ん……ん……っ」

「はむ……ちゅ、ちゅ……」


 僕も負けじと、そんな彼女の首筋に唇を這わせた。


「ぷあ……はああ……も、もう……」


 少し困ったような視線を向けるメルザ。

 だけど、その真紅の瞳はとろん、としていた。


「ね……もう一回、口づけを……」

「はい……」


 おねだりをするメルザの唇についた血を、僕は綺麗に舐めとる。


 そして、また舌を絡めて飽きることなくメルザとの口づけを繰り返した。


 ◇


「うう……頭が痛いわい……」

「お、同じく……」

「フフ、おはようございます」


 二日酔いで顔色の悪い大公殿下とモニカ教授とは対照的に、アビゲイルは澄ました表情で優雅にお茶を飲む。


「……お爺様。目的を果たすまで、お酒は禁止にします」

「な、なんじゃと!? メ、メル、考え直してくれい……!」


 メルザにピシャリ、と言われてしまい、大公殿下は泣きそうな声で懇願した。

 ま、まあ、メルザの言うことが正しいから、僕には何とも言えない……。


「……ヒューゴ様、それでお話、というのは……?」

「ああ、そうだったね」


 ヘレンに促され、僕は昨日の出来事を三人にも話した。


 そして。


「……そのエタンという男は、少なくとも何かしらの手掛かりを持っていると思われます」

「ふむ……なるほどのう……」


 僕の話を聞き終え、大公殿下は顎をさすりながら頷く。


「少しよろしいですか?」

「アビゲイルさん、なんでしょう」

「その……メルトレーザさんは、どうしてそのことに気づけたんですか?」


 あー……そういえば、アビゲイルにはメルザが混血のヴァンパイアであることを言っていないな。


「……まあ、実をいうとメルザは生まれつき、相手の悪意(・・)()を見抜く特殊な能力を持っているんです……」


 あえてヴァンパイアについては触れず、僕は能力だけを淡々と告げた。

 アビゲイルはそんな説明を、僕とメルザを交互に見やりながら耳を傾ける。


「……あは♪ それは厄介な能力ね♪」


 そう言って、アビゲイルはニタア、と口の端を吊り上げた。

 実際、暗殺者であるアビゲイルからすれば、天敵以外の何者でもないからね。


「フフ……だけど、味方だったら(・・・・・・)これほど心強いことはないです」


 アビゲイルは暗殺者の顔からすぐに戻ると、クスリ、と微笑んだ。


「で、では、今日はどうするんだ……?」


 頭を押さえながら、モニカ教授が苦しそうに尋ねる。

 うん……この人も帰還するまでお酒は無しだな。


「……今日は大公殿下とモニカ教授はここで大人しくしていてください。とりあえず、エタンという冒険者が本当に存在しているかどうか、僕とメルザ、そしてアビゲイルさんの三人で確認してきます。そして、ヘレン」

「はい」


 僕が名前を呼ぶと、ヘレンは姿勢を正した。


「君には、明日にでも冒険者ギルドに依頼を出してもらいたい」

「依頼、ですか……?」

「ああ」


 不思議そうな表情で尋ねるヘレンに、僕は頷く。


「内容は『王都郊外に出没した魔物の討伐』、条件は金級冒険者が必ず一名いること」

「なるほど……つまり、誘い出す(・・・・)、ということですか」

「ああ」


 偽の依頼でおびき出し……いや、エタンと組んで僕達が一緒に依頼を受けるフリをして、人気(ひとけ)のない郊外であの男を一網打尽にする。


 あとは、僕達が求めている情報が引き出せれば……。


「となると、何としても今日にもあのエタンという男と接触しておきたいですね……」

「はい……」


 メルザの言葉に、僕は頷いた。

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