表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
171/241

金級冒険者エタン

「よお、坊主。カワイイ彼女連れてるじゃねーか」


 ……まるで、お約束とばかりに強面の男が三人現れた。

 三人の格好を見る限り、どうやら冒険者のようだ。


「……メルザ、行きましょう」

「はい」


 僕は冒険者を無視し、メルザの手を引いてその場を立ち去ろうとするが。


「おっと、どこに行こうっていうんだ?」

「見たところお前等、駆け出しの冒険者って感じだな」


 僕達の行く手を塞ぎ、下卑た笑みを浮かべながら舐め回すように僕達……いや、メルザを見た。

 ……不快だな。


 気づけば、僕はサーベルの柄に手をかけ……「おっと、悪いな」……え?


 すると、僕達と冒険者の間に割って入るように、かなり大きくて筋骨隆々の男が現れた。


「俺のほうが先に、ちょっとコイツ等に用があるんだ。悪いが引き下がってくんねえかな?」

「はあ!? ……って、な、なんだよ……」


 最初は声を荒げようとした冒険者達だったが、男を見た瞬間、声が尻すぼみになる。


「お、おい、行こうぜ……」

「あ、ああ……」


 冒険者達は二言、三言話した後、逃げるように去っていた。


「さて……兄ちゃん達、大丈夫か?」


 こちらへと振り返り、男は歯を見せながら笑顔を見せる。

 どうやら、絡まれている僕達を助けてくれたようだ。


「は、はい……おかげさまで助かりました」

「ありがとうございます」


 僕とメルザは頭を下げ、御礼を言った。


「いや、いいってことよ。ところでお前さん達……見ねえ顔だな。駆け出しの冒険者か?」

「あ、は、はい。まだ登録したばかりでして……」


 顎をさすりながら見る男に、僕は首にかけている青銅のプレートを見せた。

 これは、あらかじめヘレンが用意してくれた冒険者の等級を示す証明のようなものだ……まあ、偽造だけど。


「あー……銅級かよ。本当に駆け出しなんだな」

「あ、あはは……」


 少し残念なものでも見るかのような視線を向ける男に、僕は苦笑した。

 なお、僕の隣にいる最愛の婚約者は、そんな男の態度が気に入らないのか忌々しげに睨んでいた。

 と、とりあえずメルザを落ち着かせないと……。


「ミ、“ミュウ”、僕は大丈夫だから」

「あ……そ、そうですね……」


 僕はあえてメルザを偽名で呼びながら彼女の手を握った。

 それで落ち着きを取り戻したのか、メルザは少し申し訳なさそうな表情を浮かべて目を伏せた。


「へえ……なんだよお前、随分その子に好かれてんな」

「は、はあ……僕の彼女(・・)なんです」


 ニヤニヤしながら僕とメルザの顔を交互に見る男に、僕は照れたフリをしながら答える。

 メルザはといえば、彼女(・・)と呼ばれたことが嬉しいみたいで、口元がものすごく緩んでいた。


「そうかよ! んじゃ、行くぞ!」

「え……? い、行くって……?」

「あん? そりゃお前、こうやって知り合ったのも何かの縁だ。俺が美味い酒と食い物を奢ってやるよ! お前達、駆け出しだから金もそんなにねえんだろ?」


 不思議そうな表情を浮かべながらそんなことを言う男。

 状況から察するに、この男は冒険者で後輩の僕達の面倒をみようというつもりらしい。


「え、ええと……どうしますか?」

「ま、まあ、少しくらいなら……」


 メルザに尋ねると、さすがに好意で言ってくれていることと、さっきの彼女として紹介されたことが嬉しいからか、珍しくそれで構わないみたいだ。


「で、では、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「おう! つか、そんなに畏まらなくてもいいぞ? それで、俺は金級冒険者の“エタン”ってんだが、お前等は?」

「あ、僕は剣士で“ヒル”といいます。こちらは、神官の“ミュウ”です」

「おう、よろしくな!」


 男は、ニカッと口の端を持ち上げた。


 ◇


「ワハハ! それでよお!」

「「…………………………」」


 エタンと言う男に連れられて酒場に入ること二時間。

 僕とメルザは、ご機嫌な様子のエタンの話を延々と聞かされていた。


 なお、男はエールをあおるように飲んでいるけど、僕とメルザはミルクにしている。

 やっぱり、初めてのお酒はメルザと二人きりで、それも学院の卒業式に飲みたいからね。


「しっかしヒル、お前顔も幼えが酒も飲めねえようじゃミュウに愛想尽かされちまうぞ?」

「そ、そんなことはありません! 私がヒ……ルを見限るなど、あり得ないことですから!」


 揶揄(からか)い気味にそう話すエタンに、メルザは食ってかかる。

 このエタン、そんな彼女の反応を楽しんで節があるな……。


 本当なら止めるべきなんだろうけど……く、くそう、エタンが揶揄(からか)うたびにメルザが本気で僕のことを思って庇ったりしてくれるから、嬉しくて止められないんだけど……。


「オイオイ、どうすんだよヒル。かなりベタ惚れじゃねえか」

「あ、あはは……」


 ニヤニヤしながらそんなことを耳打ちするエタンに、僕の口元も緩みっぱなしだ。


「と、ところで、エタンさんは金級のすごい冒険者だということは分かりましたが……元々、この王都の冒険者ギルド所属なんですか?」

「まあな。つか、ヒル達は王都のギルドじゃねーのか?」

「あ、はい……“ノネット”という小さな村出身でして、そこにある本当に小さなギルドで……」

「へえ、聞いたことねえなあ……」


 まあ、当たり前だよね。

 だってノネットなんて村、たった今僕がでっち上げたんだから。


「まあいいや。さて、と……俺はいい気分になってきたし、そろそろ馴染みの姉ちゃんのところに顔を出してくるわ」


 小指を突き立てながらそう言うと、エタンは立ち上がってテーブルの上に銀貨を三枚置いた。


「それとも……ヒル、お前も一緒に来るか?」

「なっ! ヒルはそんないかがわしいところに行ったりしませんから!」


 下品な笑みを浮かべながら僕を誘うエタンに、メルザが即座に声を荒げた。

 というかメルザ、どうしてそういう(・・・・)店だって分かったんだろう……い、いや、何も聞くまい……。


「ワハハ! んじゃな!」


 豪快に笑いながら、エタンは僕達を置いて店を出て行った。


「……あれ(・・)が、ヒューゴにメルトレーザ、か……」


 店内の喧騒の中での呟きに、僕達は気づかないまま。


 でも。


「……ふふ、最後の最後で、手掛かりがあったのは収穫でしたね」


 そう言って、メルザはクスクスと笑った。

お読みいただき、ありがとうございました!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、

『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ