王都ルーティア
新作も始まってるので、そちらもぜひ。
オルレアン王国の王都、“ルーティア”。
その面積も人口も、サウザンクレイン皇国の皇都である“ロンディニオン”と同程度であり、産業も盛んだ。
何より、オルレアン王国は大陸の中心にある国でもあるので、流通が発達しており、言うなれば世界の中心と呼んでもおかしくない。
でも、一番目を見張るのはその文化だ。
独自に発展してきたルーティア文化は、その前衛的なスタイルで今や世界のトレンドを席巻しており、皇国においてもルーティア文化を積極的に取り入れたりしている。
要は、文化に国境はないのだ。
そして。
「わああああ……!」
うん、王都のきらびやかさに、メルザが心を奪われている。
そんな真紅の瞳をキラキラさせる彼女の姿に、僕は心を奪われているけれど。
「皆様、こちらです」
ヘレンが荷馬車を走らせ、王都の中心街から少し離れた場所へと向かっているけど……。
「ええと、ヘレン。僕達はどこに向かっているんだ?」
「はい。この先に、王都で滞在する間の宿があるのです。皇国の諜報員が経営する宿が」
「ああ、なるほど……」
ヘレンの答えに、僕は納得して頷いた。
まあ、諜報員が敵地で活動するのなら、そういった拠点があってしかるべきか。
「フフ……だけど、よくオルレアン王国に見つかりませんでしたね。普通なら、すぐに見つかって摘発されそうなものですが」
「うふふ……着いてみれば分かります」
クスリと微笑むアビゲイルの指摘に、ヘレンは同じく微笑むと、含みのある言葉で返した。
どうやら、オルレアン王国に皇国の手の者の店であると知られないための仕掛けがあるようだ。
「着きました。こちらになります」
「おお……!」
そこは、周囲の建物と比べてもひときわ大きく、歴史を感じさせるような建物だった。
荷馬車が宿の玄関に止まるなり、僕は真っ先に降りると。
「メルザ、どうぞ」
「ふふ……ありがとうございます」
差し出した僕の手に彼女は自身の手を添え、ゆっくりと馬車から降りる。
本当は、僕達は冒険者の一行という立場なのでこの対応はおかしいんだけど、それでも、メルザを一人で馬車から降りさせるような真似、僕には到底許容できない。
メルザをエスコートするのが、婚約者であり騎士である僕の務めなのだから。
「ふむ、相変わらず君達はブレないな」
「当然です。立場や環境が変わったからといって、僕とメルザの関係が変わることなど、過去から現在、未来永劫に至るまであり得ませんから」
「あう……も、もちろんです……私のヒューへの想いは、永遠に……いえ、今以上なのですから……」
少し恥ずかしそうにうつむきながら、メルザがそんな嬉しい言葉をくれた。
ああ……今すぐ抱きしめて、彼女を思う存分堪能したい……。
「はっは! これこれメルザ、あまりそういうことを言っておると、婿殿の抑えがきかなくなるからやめておけ」
モニカ教授に続いて馬車から降りる大公殿下が、豪快に笑いながら指摘する。
い、いやいや、別に僕だって時と場所は弁えていますからね?
「も、もう! お爺様!」
「おっと、メルに叱られてしもうたわい」
顔を真っ赤にして怒るメルザに、大公殿下は苦笑する。
分かっているなら、最初からそういうこと言わないでください。
「本当にもう……お爺様のせいで、ヒューが遠慮してしまったらどうするのですか……」
おっと、メルザが僕の心を鷲づかみにするようなことを呟いてくれたぞ。
「あはは、僕は周囲の言葉や視線などで遠慮したりはしません。むしろ、こんな素敵なメルザに遠慮してしまうことこそが、大変失礼にあたるかと」
「あ……ヒュ、ヒュー……な、ならよかったです……」
そう言うと、エルザは僕の腕を強く抱きしめた。
はあ……幸せだなあ……。
そして僕達は宿の中へと入ると。
「いらっしゃいませ」
タキシードやメイド服を着た宿のスタッフ達が、僕達を一斉に出迎えてくれた。
「え、ええと……ヘレン?」
「ウッドストック大公殿下やヒューゴ様、メルトレーザ様がお泊りになるのです。従業員一同で出迎えるのは当然のことかと」
「そ、そう……?」
何だろう……これじゃ、冒険者に変装して来た意味があまりないのでは……?
「ご心配には及びません。本日は大公家一行が到着するということで、皇国の者しかおりませんし、本日限りで貸し切りとなっております」
「へ、へえー……」
最高の笑みを浮かべながら優雅にカーテシーをするヘレンを見ながら、僕は思わず乾いた笑みを浮かべる。
お忍び……潜入……。
「それでは、皆様のお部屋へとご案内いたします。どうぞ、旅の疲れを癒してくださいませ」
僕達はそれぞれ部屋へと案内され、ひと心地つく。
とりあえず、隣の部屋がメルザなのは何よりだ。
「ふう……」
僕はサーベルと装備をはずすと、ベランダに出てみた。
すると。
「「あ……」」
ちょうど、メルザもベランダに出ていたようで、バッタリと目が合った。
「ふふ……ヒューも私と同じですね……」
「あはは……そうですね。やっぱり僕達は、最高の相性のようです」
「はい……」
僕とメルザは、お互い手を伸ばし、握りしめ合った。
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