私が、守ってみせる
今日の夜、新作投稿します。
お楽しみに!
「ふう……王都にゲートが設置できれば、こんな苦労はしなくて済むんだけど……」
野営の準備をしながら、僕は深い息を吐きながら思わずポツリ、と呟く。
国境を越えてオルレアン王国に入ってから三日過ぎ、あと山を一つ越えれば王都に到着するんだけど、半分近くが野宿のため、メルザに不便ばかりかけてしまっている……。
なお、王都でのゲート設置は厳しく取り締まられており、不可能となっている。
大公殿下の話では、過去に皇国の諜報員が試みたこともあったらしいけど、それらはことごとく発見され、逆に諜報員を危険な目に遭わせる結果になってしまっているとのことだ。
「ふふ……ですが、ヒューとのこんな旅も、新鮮で楽しいですよ?」
ニコリ、と微笑むメルザに、僕は胸が一杯になる。
うう……メルザ、僕が変に気を遣わないようにと、わざとそんなことを……。
「メルザ……王都に着いたら、僕と一緒に思いっ切り羽を伸ばしましょう」
「あう……も、もう……そんなことをしたら目立ってしまいますよ? ですが、ありがとうございます……」
メルザはそう言って僕をたしなめるけど、嬉しそうにはにかんだ。
「それで……王都に入ったら、まずは何をするのだ?」
「はい。向こうにいる諜報員と合流し、サウセイル教授に関しての情報共有を行った後、彼女の捜索を中心に行います」
モニカ教授の問いかけに、僕は答える。
一応、シモン王子からの情報提供では王宮内での目撃情報はあったけど、かといって王宮に四六時中いるなんてことはあり得ない。
となると、王都に居を構えているか、あるいは別の場所にいるかだ。
「……いずれにせよ、サウセイル教授は転移魔法の使い手。神出鬼没であることは否めません。となると、いかにしてあの人に悟られずに接触するかが鍵です」
「うむ……そうだな……」
僕とモニカ教授は頷き合った。
「フフ……それにしても、サウザンクレイン皇国の英雄の一人である“深淵の魔女”が、まさかオルレアン王国と繋がっていて、私と同じくらい仄暗い人物だとは思わなかったわ」
「まあ……それは僕達も同じですよ……」
クスクスと笑うアビゲイルに、僕は眉根を寄せながら答えた。
「まあまあ、とりあえずは今日はここで一晩過ごして、明日には王都じゃ。充分に英気を養うとするかの」
そう言うと、大公殿下はどこから取り出したのか、その手にワインを持っていた。
「た、大公殿下、いつの間に……」
「はっは! 昨日立ち寄った街で買っておいたんじゃ! それとヒューゴ、ちゃんと私のことは“シリル爺さん”と呼ぶように」
ワイン片手に豪快に笑いながら、僕の背中を叩く大公殿下。
ま、まあ一応、僕達はヘレンの依頼で雇われた冒険者パーティーということになっているしね……。
「皆様、食事の支度が整いました」
「あ、ありがとう」
食事の準備をしていたヘレンが、僕達を呼びに来てくれた。
そして。
「「「「「「乾杯!」」」」」」
僕達はグラスを手に取り、晩餐を始めた。
……一応、僕とメルザは果物のジュースだけどね。
◇
「ふふ……綺麗な月ですね……」
夜も更け、僕とメルザは野営している場所から少し離れた岩の上で、肩を寄せ合いながら夜空を眺めている。
「そうですね……月や星は、皇国で見るものとの違いはありませんね」
「はい……」
メルザが僕の腕にその細い腕を絡め、肩に頬を寄せた。
「……明日、僕達はいよいよ王都へと乗り込みます。そこで何が待ち受けているのか、ハッキリ言って分かりません」
「…………………………」
「でも、これだけはあなたにお約束します。このヒューゴ=オブ=ウッドストック、必ずやあなたをお守りすると」
月明かりに照らされたメルザの顔を見つめながら、僕はそう告げる、
これは、彼女が僕と一緒に王都に来ると言ってくれた時から、何度も誓った言葉。
本当は、誓いは一度言えば充分なのかもしれない。
でも……僕は不安だった。
僕は大公殿下に鍛えられ、自分自身でも研鑽を重ね、剣術に関しては皇国随一であると思っている。
だけど、相手はオルレアン王国、そして“深淵の魔女”、シェリル=サウセイルだ。
だから、自分の心を奮い立たせる必要がある。
「ふふ……ヒュー、私は何も心配などしておりません。あなたは強い人……どのようなつらい思いを重ねても、何度打ちひしがれても、それでも立ち上がり、その手で未来をつかんだ人です……」
「…………………………」
「そして……暗闇にいた私を照らしてくれた人……私の太陽、私の星……そんなあなただから、私を守ってくださると確信しています」
「メルザ……」
「もちろん、あなたは私が……メルトレーザ=オブ=ウッドストックが絶対に守ってみせます」
そう宣言すると、メルザは慈愛に満ちた笑顔を見せた。
「あはは……そうでした。僕の最愛の婚約者は、ただ優しくて綺麗なだけではありませんからね……」
「はい……それに、ほら」
メルザが、僕の胸に身体を密着させる。
「ふふ……私とヒュー、こうするとぴったり隙間なく繋がりますね」
「ええ……だって僕とメルザは、出逢うべくして出逢ったのですから……」
「私は、あなたの七度目の人生で出逢えた奇跡に、女神グレーネに心から感謝します……だから、あなたを絶対に手放したりはしませんから」
そう言ってメルザは顔を近づけ、僕の唇に桜色の唇を重ねた。
だけど。
「……どうやら、命知らずの者がいるようですね」
僕は唇を離すと、メルザの耳にそっとささやいた。
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