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二人目と三人目

「失礼します」


 僕とメルザは皇立学院に着くなり、モニカ教授を訪ねる。

 もちろん、王都行きの仲間に加わってもらうために。


「む? ヒューゴ君にメルトレーザ君……ここに来るとは珍しいな」

「はい。実は、折り入ってモニカ教授にお願いがあり、まいりました」

「ふむ……場所を移そうか」


 僕達の態度から、ただならぬものを感じたんだろう。

 モニカ教授は真剣な表情になり、席を立った。


 そして。


「……この会議室なら、誰も来ないだろう」

「ご配慮くださり、ありがとうございます」


 お礼を言うと、モニカ教授に促され、僕達は席に座る。


「それで……この私に頼み事とは一体何だ?」

「はい……」


 僕は、今回の王都行きについて説明する。

 もちろん、オルレアン王国による皇都消失の企みや魔石のこと、それに、サウセイル教授の関与についても。


「……王都には僕達を含め、五人で向かう予定です。もちろん危険が伴うものではありますが……」

「いや、敵地に乗り込むのだからそれは当然だ。それより、よく私に声をかけてくれた」


 そう言ってモニカ教授は立ち上がると、僕の肩に手を置いた。


「モニカ教授……」

「……シェリルの馬鹿が何を考えているのかは知らん。オルレアン王国に何があって、何故関わっているのかも。だがな」


 モニカ教授が、僕の瞳をジッと見据えると。


「私は、今でもシェリルは大切な友(・・・・)であると考えている。なら……友の過ちを止めてこそ、友の務めだ」

「……はい」

「よし! ならば、今夜は久しぶりに愛剣の手入れをしておかねばな!」


 そう言って、モニカ教授は口の端を持ち上げる。

 でも……その瞳には悲壮な覚悟が(うかが)えた。


「出発は明日の朝。大公家のゲートを用いてセイルブリッジの街へ向かい、そこから国境を越えてオルレアン王国に入ります。それまでに、大公家の屋敷へ来てください」

「ああ、分かった。それと、君達の休暇願は私のものと一緒に手続きを済ませておこう」

「よろしくお願いします」


 僕達は会議室を出ると、モニカ教授と別れた。


「ヒュー……この後、授業はどうなさいますか?」

「とりあえず、シモン王子とクロエ令嬢にこのことを伝えたら、授業を受けずにアビゲイルの店に向かいましょう」

「はい」


 僕はメルザの手を取り、教室へと向かった。


 ◇


「ふふ……シモン王子とクロエ令嬢、驚いていらっしゃいましたね」


 アビゲイルの店へと向かう馬車の中、メルザがクスクスと笑う。

 確かに、僕達がオルレアン王国の王都に潜入すると告げた時のあの二人の表情はなかなかだったな……。


「あはは、普段は表情を変えないクロエ令嬢ですら、あの様子でしたからね」

「はい。でも、少しだけクロエ令嬢には注意が必要かもしれませんね……」

「? クロエ令嬢に何かあるのですか?」

「……ヒューは気にする必要はありません」

「?」


 何故かメルザにそう言われ、僕は首を傾げるばかりだ。

 ……メルザとクロエ令嬢の間に特におかしな点もなかったし、いつもどおり仲が良さそうではあったけどな……。


 そんなことを考えていると。


「あ、着いたようですよ」

「そうみたいですね」


 アビゲイルの店のある大通りに到着し、僕達は馬車を降りる。


「メルザ、どうぞ」

「ふふ……ありがとうございます」


 僕は傘を差すと、メルザが腕を絡めて密着した。


「あはは、急にどうしたんですか? いつもは寄り添う程度ですのに」

「……いいんです」


 メルザは少しだけ口を尖らせ、顔を背けてしまった。

 ま、まあ、僕もこのほうがメルザを感じられて嬉しいんだけど……理由についてはあまり触れないほうがよさそうだ。


 そして、アビゲイルの店の中に入ると。


「いらっしゃいませ……あら? こんな昼間に訪ねてくるなんて、珍しいですね」

「はい。実はアビゲイルさんに依頼(・・)したいことがありまして」

「……では、どうぞ奥へ」


 アビゲイルに通され、僕達は店の一番奥にある部屋のソファーに腰かけた。


「それで……誰の調理(・・)を希望されますか?」

「いえ、今回はそちら(・・・)ではありません」


 口の端を吊り上げるアビゲイルにそう告げると、彼女は一転、鋭い視線を向けてきた。


「……というと?」

「はい。実は、僕達と一緒にオルレアン王国の王都に来てほしいんです」

「王都に?」


 僕は、アビゲイルに今回の目的を詳細に説明した。


「……それで、基本的には調査がメインですが、場合によっては戦闘……いえ、調理(・・)をお願いすることもあるかもしれません」

「あは♪ 面白そうね♪」


 話を聞き終え、アビゲイルがニタア、と口の端を吊り上げた。


「あは♪ だけど、私にとっての見返りって何♪ さすがにタダ働きは嫌なんだけど♪」

「そうですね……先程もご説明したとおり、僕の友人(・・)が王位簒奪を狙っています。それが成ったあかつきには、オルレアン王国の闇の世界(・・・・)についても、新たな国王による盟約(・・)を約束します」

「っ!?」


 僕の提示した内容に、アビゲイルはいつもの表情すら忘れて目を見開き、息を飲んだ。


「……あは♪ 本当にアナタ、何者(・・)なの♪」

「さあ? ……ですが、あなたのことを僕以上に知っている者は、この世界にいないことは間違いありません」


 そう……だって僕は、あなたの後継者(・・・)だったのだから。

 あなたから、僕は全てを(・・・)受け継いだ(・・・・・)のだから……。


「……フフ。本当に、ヒューゴさんへの興味が尽きません……」

「では……?」

「はい。この“影縫いアビゲイル”、あなた達と共に王都に行きましょう」


 そう言うと、アビゲイルは立ち上がり、珍しくカーテシーをした。


 そして。


「…………………………」


 ……メルザが頬を膨らませ、この上ないほどに不機嫌になってしまった。

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