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一人目と大公殿下の妥協

「ヒューゴ様、おはようございます」


 次の日の朝、いつものようにヘレンが僕を起こしにやって来た。

 でも、相変わらず起こす時間が早いんだけど……。


「……ヘレン、まだ陽が昇ったばかりだぞ?」

「何をおっしゃいますか。ちゃんと身だしなみを整えませんと、メルトレーザ様に嫌われてしまいますよ?」


 さも当然とばかりに言い放つヘレン。こんな会話も、いつもどおりだ。

 まあ……ちょうどいいな。


「ヘレン、サファイア鉱山の運営は順調か?」

「はい。おかげさまで、ミラー家の誰もが喜んで仕事に取り組んでおります。土地も増えたことで税収も安定し、まさに順風満帆です」

「はは、ならよかった……」


 ヘレンの報告を聞き、僕は口元を緩めた。


「……ヘレン、君に仕事を一つ頼みたい」

「なんなりと」


 僕のその言葉を聞いた瞬間、ヘレンがすぐさま跪き(ひざまず)(こうべ)を垂れた。


「僕とメルザは、明日にでもオルレアン王国の王都へと向かう」

「っ!? ヒューゴ様、本気ですか!?」


 ヘレンは驚きのあまり、勢いよく顔を上げて困惑した表情を浮かべた。


「本気だ。オルレアン王国の企みを阻止するため、現地で何としてでもシェリル=サウセイルを捕縛しないといけないからね……」

「……ヒューゴ様、私は王都におりましたので、あの国の内情にも、王都の地理にも精通しております。どうか、私の同行をお認めください」


 決意を込めた瞳で、ヘレンが僕をジッと見つめる。


「僕が君にお願いしたいことは、まさにそれだよ。ヘレン、一緒に来てくれ」

「っ! は、はい!」


 僕がそう告げると、ヘレンは笑顔で頷いた。

 ヘレンからそう申し出てくれるとは思わなかったけど、彼女が一緒に来てくれるのは心強い。

 何より、メルザの身の回りのお世話もお願いしたいしね……。


「では、明日の朝にも王都に向けて出立するから、準備をしておいてくれ」

「かしこまりました」


 ヘレンは恭しく一礼すると、部屋を出て行った。


「とりあえず、一人目(・・・)


 僕は、扉を眺めながらポツリ、と呟いた。


 ◇


「……私は反対じゃ」


 朝食を済ませた後、僕は大公殿下に王都へ乗り込むことについて話をした……が、やはり大公殿下は難色を示す。


「王都には皇国から潜伏させておる諜報員がおるんじゃ。そやつ等に任せれば済む話じゃろう」

「……それも考えましたが、そうするとオルレアン王国が三か月後に皇都を消失させようとしていることが、皇宮に明るみになります」


 そう……オルレアン王国の企みについて、大公殿下はまだ皇帝陛下や第一皇子達に報告していない。

 そんな真似をしたら、余計な混乱を招きかねないから……。


 でも、皇国の諜報部隊は皇帝陛下直轄だ。当然、そんな調査をさせたら皇帝陛下の耳に入ってしまう。


「それ以上に、こう申し上げては何ですが、ただの(・・・)諜報員が、あの(・・)サウセイル教授に太刀打ちできると思いますか?」

「……いや、無理じゃろうな」


 さすがは大公殿下。たとえ僕達が王都へ行くことを反対しても、戦力分析は冷静だ。


「僕とメルザなら、サウセイル教授に後れを取ることはありません。これは、決して油断や(おご)りなどではありません」

「もちろんそんなことは分かっておるッッッ!」

「「っ!?」」


 大公殿下が、珍しく僕とメルザに対して声を荒げた。

 それだけ、僕達のことを心配してくださっているのだろう。


 それに、大公殿下は一度大切な子どもを……メルザの父君を失っている。

 そのため、僕達を失いたくないって気持ちが強いことも理解している。


 だから


「……僕とメルザは、絶対にいなくなったりはしません。絶対に」

「っ!」


 僕は、そうハッキリと告げた。

 これは、決して軽い気持ちで言ったものじゃない。


 だって……僕とメルザの幸せは、大公殿下の……父親の(そば)にあるんだから。


「……そうか」


 大公殿下はその一言だけ呟き、背中を向けてしまった。

 これが、大公殿下の精一杯の妥協なんだろう。


「……大勢で行ったら怪しまれてしまうので、今回は少人数で王都へ乗り込みます」

「…………………………」

「僕、メルザ、ヘレン……そして、これからお願いする予定ですが、モニカ教授と“影縫いアビゲイル”」


 これが、僕が考え得る最大のメンバー。

 これ以上増やしてもバレてしまうのが関の山だろうし、逆にここから人数を減らしてしまうと心許ない。


 何より、“赤い死神”と恐れられたモニカ教授と、おとぎ話(・・・・)の暗殺者、“影縫いアビゲイル”ならその実力も折り紙付きだ。


「ヒュー……そろそろお時間ですので、学院へ行きましょう」

「はい……」


 僕の袖を引いて催促するメルザに、僕は頷いた。

 彼女も、大公殿下に気まずい思いを抱いているんだろう。


「「では、行ってまいります」」


 僕とメルザは一礼し、執務室を出る。


 だけど、大公殿下は一度もこちらへと振り向くことはなかった。

お読みいただき、ありがとうございました!


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