存在を確認
明日から毎日昼一話更新となります。
「ヒュー、どうぞ」
いつものように夜の庭園でメルザとお茶をたしなんでいると、イチゴをフォークに突き刺し、彼女が僕の口元へと差し出す。
「あ、いただきます。はむ……うん、美味しいです!」
「ふふ! よかったです!」
僕のイチゴを食べて喜ぶ姿を見て、メルザは、ぱああ、と最高の笑顔を見せてくれた。
ハア……尊い……尊すぎる……。
「ふふ……そういえば、今日クロエ令嬢がおっしゃっておりましたが、オルレアン王国での買収工作は、かなり順調に進んでいるようです」
「あはは、それはよかったです」
「はい! それに、サファイアの他国での相場が上がっているらしく、想像以上に資金は潤沢になったとのことです!」
うんうん、サファイアが高値で売れれば、それだけクロエ令嬢の実家であるレスタンクール侯爵家も、そして彼女の家にサファイアを卸しているミラー子爵家も、どちらも潤うからね。
「それと、これはヘレンとセルマから聞いたんですが、ミラー家は元グローバー家の領地を買い取ったそうです」
「そうなのですか?」
「ええ」
とはいえ、グローバー家もかつては皇国でも有数の貴族。その領地はかなり広大で、ミラー家としてもかなり無理をしたようだ。
「なんでも、ミラー家はグローバー家の全てを、皇国の歴史から抹消したいようです」
「なるほど……」
僕がそう話すと、メルザは納得した様子で頷く。
それだけ、ミラー家の中にある闇は深い、ということだ。
「ですが、グローバー家の領地は肥沃な土地ですし産業も盛んですので、ミラー家の将来を考えればよい買い物と言えるかもしれませんね」
「ふふ……そうですね」
メルザが微笑みながらお茶を口に含む。
これだけの成果を聞くと、僕達の計画はかなり順調なように聞こえる。
だけど。
「……オルレアン王国が皇都消失を決行するまで、残り三か月」
「はい……」
そう……オルレアン王国の企みを阻止すると決めたあの日から、既に三か月も経過している。
オルレアン王国での貴族の買収が進んでいるとはいえ、本音を言えば今のペースだと王位簒奪までには至らない可能性が高い。
「で、ですが、クロエ令嬢は頑張っています! たとえ最上の結果ではなくても、企みを阻止する手立ては見つかるはずです!」
メルザがまるで慰めるかのように、必死で訴える。
多分、僕が落ち込んでいるんじゃないかと考えたんだろう。
「メルザ……大丈夫。僕は諦めたわけじゃないし、打つ手がないわけでもありません。とにかく、クロエ令嬢には買収工作を引き続き頑張ってもらうとして……」
さて……このまま手をこまねいていても前に進まない。
何より、僕達はまだオルレアン王国がどうやって皇都を消失させるつもりなのか、それすらも分かっていないんだから。
「それと……実はシモン王子から、このようなものをいただきました」
僕は、ポケットから一通の手紙を取り出した。
「それは?」
「オルレアン王国にいる、シモン王子派の者から届いた報告書だそうです」
僕はその手紙をメルザに手渡す。
「っ!? こ、これは……!」
「はい……王宮内でサウセイル教授らしき人物を見たそうです。しかも、どうやら国王とも繋がりがあるみたいですね……」
これで、オルレアン王国が企んでいる皇都消失は、サウセイル教授の仕業だということがほぼ確定した。
なら……あの国でサウセイル教授を捕縛すれば、企みを阻止できるはず。
そのためには。
「大公殿下には明日にでも話をしようと思いますが、こうなったら僕も動いてみようかと思います」
「動くって……何をされるおつもりですか?」
「はい……一度、オルレアン王国の王都に行ってみようと思います」
「っ!?」
相手はあの“深淵の魔女”シェリル=サウセイル。
並の者……つまり、皇国が潜伏させている工作員程度では束になっても太刀打ちできない。
なら、彼女に勝てる見込みのある者が行くしかない。
「だから、皇立学院には明日にでも休暇願を出し、その翌日には王都へ……「待ってください」」
すると、メルザが静かに……だけど、威厳のある凛とした声で僕の言葉を遮った。
「王都へは、もちろん私も一緒に行きます」
「メルザ……」
正直、王都は敵地で何が起こるか分からない。
そんな場所にメルザを連れて行けば、当然ながら彼女に危険が及ぶ可能性が高い。
でも。
「はい……あなたが一緒に来てくださるなら、こんなに嬉しいことはありません」
「っ! ……てっきり、私は断られるものと思っておりました……」
僕の答えに、咲き誇るような笑顔を見せながら、メルザは胸にそっと手を置いた。
そう……本当は、メルザは置いて行くべきなんだ。
だけど、それ以上に僕はメルザの騎士だ。
大切な主が行くと言うのならば、それに従うのが騎士。
そして、どんな危険が待ち受けようとも、大切な主を守り抜いてみせてこその騎士だ。
だから。
「メルザ……何があっても、僕があなたを必ず守ります。このサーベルに誓って」
「はい……」
僕とメルザはどちらからともなく立ち上がると、僕は彼女の前で跪いた。
「メルザ……」
「ヒュー……」
下弦の月の光に照らされる、僕のたった一人の主、メルトレーザ=オブ=ウッドストック。
僕はメルザのその白い右手を取ると、そっと口づけをした。
お読みいただき、ありがとうございました!
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